冷たい妻
「妻が帰ってきた」
秋の始まり頃。妻を亡くした兄の様子を見に行くと、家中に暖房器具を所狭しと並べていた。
「台所、テレビの前、ベッドの上、妻がよく居た場所が、人ひとり分だけ空気が冷たくなっている。見えないが、そこにいるんだ」
ダンボールから十三個目のストーブを出す兄の目は、爛々と輝いている。
「で、冷えてる奥さんのために沢山ストーブを買ってきたと?」
「夏が終わって空気が冷えたら、彼女を感じられなくなるだろう」
狂気じみた行いに付いていけず、僕はそそくさと兄の家を後にした。
その後、兄は真冬に熱中症で死んだ。暖房器具に囲まれた部屋の真ん中で、誰かを抱きかかえるようにして。
妻の死因もまた、熱中症だったそうだ。
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