第47話「楓の居場所」

「それで、龍人なら倒せると?」


話を聞き終えて、紫暮が第一声に問う。


「並の龍人では厳しく。紫暮様ほどのお方ならあるいはと」


媛巫女は紫暮が龍人のどの位置にいるのか把握しているようだ。


一族の争いで何度か龍人の国に戻っている。


つまりその一族で中心に近いがゆえに逃れられないと考えるのが妥当だ。


知らないままではいたくない。


花純はこれまで紫暮の求愛から逃げてきた分、目を反らさないよう気張って背筋を伸ばした。


それに紫暮は目を見張り、困ったように肩を落とすと花純の前髪ごとくしゃりと撫でてきた。


「龍人には五つの種族があるんだ。俺はそのうちの一つ、蒼龍族の直系で第一継承権を持っているんだ」


「蒼龍族……」


あぁ、だから紫暮の鱗は青く輝くんだ。


瞳は空色。

はじめから自由を象徴する色を持つ紫暮に惹かれていたのかもしれない。


たとえ番でなくても、花純が紫暮を好きだと思うのは自由だ。


ホンモノがいるのに欲しがるとは、人の心がわからぬ鬼のようだと自嘲し、目を閉じて紫暮の手を握った。


「楓は……そこにいますね?」


目を開いて、空に意志を向けてから涙に暮れる媛巫女を見据える。


媛巫女は急に気を強くした花純に肩を震わせ、戸惑いながら焦りに涙を拭った。


「楓……?」


「私の弟です。そしてあなたの夫であり、蛍ちゃんのお父さんです」


「夫……? えっ……夫って。父親……ぇ……」


媛巫女が蛍を前にして反応しなかった原因がわかり、同情さえ抱く。


一番大切にしていたであろう存在のことを忘れ、媛巫女として責任を果たそうと思い悩んでいたはず。


楓が宮に囚われている可能性は高い。


だが媛巫女が認知しない場所にいると考えば、細かく分散していた点と点が繋がっていく。


鬼喰いは宮で造られた人口の化け物であり、力が強くなりすぎたために巫女たちが力を使って抑えている。


その抑え込みの際に、媛巫女はかなりの力を消耗して代償に記憶が失われた。


蛍が生まれてから南条家に引き渡されるまでの時間差は、おそらく記憶が少しずつ消えていったから。


それを知らぬ蛍からすると、突然母親に捨てられたという認識に繋がる。


鬼を喰らって平穏を作ろうとしたのに、自分たちが窮地に陥っているなんとも情けない話であった。


「……先ほどの子どもがわたしの娘だと言うのですか?」


「はい」


「ならばなぜ。なぜ母娘が離れているのです?」


宮の事情はわからない。


花純が想像するよりもたくさんの思惑が絡んでいるはずだと、答えられずに首を横に振った。


媛巫女の不安を聞いたところで花純がどうにか出来ることでもない。


だが何もしない人でなしにはなりたくないと、当初の目的を成し遂げることが最善だと判断し、板挟みとなった紫暮に身体ごと向き変えた。


「紫暮様。私は楓を見つけて、蛍ちゃんに会わせたい。楓が蛍ちゃんを見捨てるはずがないと信じています」


お人好しの楓が我が子を見捨てるのはありえない。


その前提で考えると、楓が子どもと一緒にいられない環境下に置かれていると想定される。


ニセモノと判明した花純でもいいと望んでくれるのならば、契約通りに楓を取り戻し、花純は花嫁に。


「鬼喰いを倒し、楓を取り戻してなお、私を好いてくださるのならばどうか――私を紫暮様の花嫁にしてください」


「――あぁ。もちろん、そのつもりだ」


肩に擦り寄られ、額がコツンとぶつかる。


白銀の髪が流れる秀麗さ、長いまつ毛が目元に影を作り、空色の奥行きを深めていた。


もういい加減認めようか。

――とっくに紫暮を愛しているんだと。

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