第2話
その日の夜だった。シャミッソーが寝床につき、うとうととしながら本を読んでいると、コンコンとドアをたたく音がした。下女のマシカだと思い、重い体を立ち上がらせ、どうしたといいながらでていくと、そこにはアイルが寝間着姿で角灯を持って立っていた。
「お嬢さま、こんな夜中に来てはいけません
こんなところを見つかってはアンナ様に叱られますよ」
シャミッソーは慌てて、彼女を中にいれるがすぐに帰ったほうが良いと思い、入り口で立ち止まらせていた。
「シャミッソーと寝たいの。お願い」
体をシャミッソーに密着させて、ぎゅうと抱きついたアイルは甘えた声で言った。彼の体が昼の時のように再び熱をおびる。
「お願いです。お嬢さま、お帰りください。
これでは私があなたを呼んだように見えてしまいます。男女が一夜を共にしたと伯爵たちが知ったら、わたしはもうここにいれません」
乞うように願った。だが、その願いもむなしく、却下されてしまう。
「その時は私が再びおまえを買うわ。
だからお願い」
アイルは、膝をついて、とろんとした目で目の前にある、シャミッソーのズボンのベルトに手をかけた。はっとして気づいたときには、するするとほどかれてしまい、ゆるくなったズボンのチャックに手がかかっていた。思わず、アイルの手を掴む。
「だめです!お願いだから、汚いことをしないで」
必死にチャックを手で覆った。それでもアイルはもぞもぞと探るように触ってきた。
「汚くなんてない。愛してる男女はみなしてることよ」
アイルの顔がシャミッソーの右脚に添えられた。ぼーっとしたうっとりとした顔が上目遣いに彼の顔を見つめる。
「私は汚いのです。あなたよりも身分が低いから」
身分が同じだったら、こんなことを思わないでできたのかもしれない。どれだけそれを願ったことか。
「そんなことはないわ。シャミッソーは私と一緒よ」
囁くような優しい調子で彼女がいうと、ゆっくりとシャミッソーの手をとって、ズボンのチャックをおろす。
「あっ…」
敏感な部分に触れられて思わず、声が溢れてしまう。そんなふうに触られては、くすぐったくて、焦れったくて仕方がない。自分が触る感覚とは違う感覚だった。
下着にアイルが触れると、その下着の上からなにかをくわえるように口に含んだ。
声が漏れる。一気に体が熱くなり、だくだくと背中から汗が流れ落ちた。
「汚いですから、やめて…」
「そんなことないから」
下着をずり下ろして、シャミッソーの肌が顕になる。黄色人特有の肌とアイルの白人特有の青みがかったピンク色の肌色が重なり合う。
「おっきくて、固いね」
ふわふわとした柔らかい手でシャミッソーの肉棒に触れるアイルが、感嘆の声で言った。後ろの裏筋から先っぽを人さし指で何度もするすると撫でる。そのたびに、シャミッソーには身をよぎりたくなるような快楽が襲い、息を荒くして足を震わせて耐える。
「ああっ、だめです」
「おいしそう」
ぱくりとアイルがその肉棒を頬張ると、生温かいねっとりとした舌が先端を執拗にチロチロと刺激してきた。息が漏れる。体の力が一気に放出されて、壁に寄りかかってしまう。快楽の波が、じわじわとシャミッソーを襲う。
「汚いですから、やめて…」
たまらなかった。長年一人で処理してきたが、女性にこのようなことをしてもらう機会があるなんて、思えなかった。自分は下男で、このような、美しい顔をした少女が自分を愛して自らこんな淫乱な行為にふけるなんて、夢のようにしか思えなかった。
ちゅぱちゅぱと子供が母親の乳を吸うような音が腰辺りから聴こえてくる。アイルの熱い唾液が、シャミッソーの肉棒に絡みつき、彼女の舌が執拗に彼の秘部を犯した。快感の波が近づいては離れるを繰り返して、シャミッソーの全身を熱くする。
「おじょうさま…」
情けない声があふれる。シャミッソーはアイルの栗色の長い髪を愛おしげに撫で、その自分の肉棒を咥えている顔を撫でた。上目遣いになるアイルは、艶めかしい目つきで誘うように彼に笑みを見せる。
(おかしくなりそうだ…)
全身から汗が噴き出し、着ていたシャツがベトベトに湿ってきた。荒い息を整えて、上半身のシャツを脱ぐと、アイルの口元から肉棒を離し、体を屈めて彼女の唇に自分の唇を重ねた。
昼の光景が再び現れる。ねっとりとした舌と舌が絡みつき、互いの唾を求めるように蹂躙する。アイルが苦しげに息継ぎをすると、シャミッソーはぎゅうっと彼女の身体を抱きしめ、彼女の舌をねぶった。
「おじょうさま、わたしを許してください。
こんな下劣な人間で汚らわしいわたしを嫌わないでください」
耳元でシャミッソーが涙声で言うと、アイルは悲しそうな青い瞳で彼を見つめた。
「嫌わないわ。わたしのせいにすればいいのよ」
「っ…」
シャミッソーは彼女の身体に縋り付くように腕を絡めて、顔を彼女の方にうずめた。彼女がここまで言ってくれている。だが、彼女はまだ子供なのだ。彼女のこの先を自分のせいで傷つかせてしまっては、彼女が不幸になるだけだと思った。自分の浅ましい欲望に負けてしまって、一線を越えてしまったとき、それは激しく後悔するに違いないとしか思えなかった。いっときの快楽に身を投じて、無責任に彼女を利用して性を放出するのはあまりにも獣じみた行為にしか思えなかった。
「お嬢様、やはり私には最後までできません。
私はあなたを愛しているから。あなたにこれ以上不幸になってほしくないのです。私は浅ましい男です、あなたに流されたことにしてここまでのことをしてしまった。本当はここまで来るまでに帰さなければならないのに。私は自分に甘いばかりにあなたを汚してしまったのです」
シャミッソーは彼女の瞳を見つめながら、悔やんで言った。彼にはこの先の事が出来なかった。一線を越えてしまっては、全てが変わってしまう恐怖に耐えられないからだ。我ながら情けないと思うが、自分には彼女を養える金もないし、彼女と結ばれたところでアイルにとっては得になることなどなにもなかった。自分の身分を呪った。もし自分が違う身分だったらと何度願ったことか。
「わかったわ。でも、最初はシャミッソーがいいの。あなたのここで、私のあそこを貫いてぐちゃぐちゃにして欲しい。こう思うのって、大人になったからでしょ。毎晩一人でイジるのがつらいの。お願いよ、私を助けると思ってしてくれない?」
アイルが甘い囁き声で懇願してくるように言ってきた。頭の中がぐるぐると場面転換し、ぐわんぐわんとかき回されているような感覚になった。再び、体が熱くなる。悪魔の囁きが聞こえる。彼女が望んでいるなら、彼女が誘ってきたせいにすればいいじゃないかと。だか、下男の言ったことなど誰が信じる?彼女がもしかしたら、陵辱されたと言わないなど絶対に決まったわけではないのだ。
するとその時、台所の窓ガラスががたがたと揺れた。シャミッソーはぎょっとして、床に身体を丸める。一緒になってアイルも丸くなった。誰かが2人を見て逃げたのかもしれないと一番先に思い当たった。不自然な揺れで、違和感があった。シャミッソーは脱いだシャツを着て、ズボンを整えると、角灯を持ちながら外に出て見た。地面に男性用の靴の跡があった。まさか、と思った。この場面をレーガル伯爵に見られてしまったかもしれない。シャミッソーは生きた心地がしなかった。だが、もし伯爵が見ていた場合、黙ってみているとは思えなかった。彼女が汚らわしい下男としているのを知れば、止めるに違いない。それは、彼女が他の結婚相手と付き合う場合の汚点となって、誰の手にもつかないことが一番悔やまれることだからだ。ならば、誰が見たのだろう?シャミッソーはたまたま通りがかった男に違いないと思い至った。
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