第24話監禁生活


 目を覚ますと、目の前に倒れている生徒の顔に驚いた。


 えーと、僕ってさらわれちゃった感じだったんだけど、そのさらったトマス君は目の前で倒れている。


 頭から血を流して。


 もしかして死んでる!? 怖くなってガタガタ体が震える。


 僕は椅子に括り付けられている。


 どれだけ動いても、体に巻き付いている縄は外れそうにない。


 ここはどこだろうと、あたりを見渡すと、知らない場所だ。


 トマス君の家かな? 部屋には窓はなく、本棚と、デスク、それしかない。


 絨毯は良い物のようだし、壁は美しい木でできていて、照明も電気のモノで、金はかかっていそうだが、そんなに広くはない。


 助けを呼ぼうかと思ったが、目の前に横たわっているトマス君の姿を見ると、これをした犯人が僕の声でやってきて、僕の頭もカチ割るかもしれないかと思うと、足が震えるし、喉が萎んで、声も出ないし、呼吸すら浅くなる。


 うう、どうしよう。


 おしっこがしたい。

 睡眠中は、排尿を抑制するように体が働いているが、目を覚ましたらその働きも止まり、一気に尿意が押し寄せてくる。


 もう五十を超えている。ズボンを濡らしたくはない。


 うう、この年になってまでお漏らしなんて、恥ずかしくて奥さんに合わす顔もないよ。


 頭の中にはもう恐怖の入り込む場所なんてなかった。


 おしっこがしたい。


 ズボンを濡らしたくない。


 その二つの思考を制御するために全神経を集中し、ギュッと下半身に力を入れ、冷や汗を垂らす。


 尿意が玄関に達し、もう漏らすしかないかと思った瞬間、閉じた瞼の裏にかわいい白黒の猫の幻影を見た。


 そうだ、僕はあの二人の飼い主、お父さんも同じだ、そんな僕がお漏らしなんてまね、絶対にできない。


 あの二人に恥ずかしくないお父さんでいたい!!


 気合いを入れて下腹部に親権を集中した瞬間、




 バン!!





 ドアが勢いよく開いた。


「先生! ご無事でしたか!! 愛弟子カチューシアがお助けに参りましたわ!!」


 満面の笑みで勢いよく部屋に入ってきたカチューシアが見たものは、大量のお漏らしをしてなぜかやり切った顔をしている恩師の姿であった。






◇◇◇◇







 ズボンを脱がされ、パンツを脱がされ、下腹部をしっかり濡れ布巾で拭かれ、ぐったりしている恩師を見て、口元が緩んでしまう〃聖女〃カチューシアは、手早く尿で濡れた洋服を集め、袋に入れる。


「先生、次来るときは、お着替えを持ってきますから、それまでは我慢してくださいまし。


 そこの死体はその時に処理しますが、一晩は我慢してください」


「え? 助けに来て食らたんじゃないの?」


「先生、ここの外にはまだ、先生に危害を与える悪者がたくさんいます。私一人なら大丈夫ですが、先生は見つかれば、」


 そう言って、カチューシアは倒れているトマス、本名はウッドストック・デラ・スヌープドックス、帝国国家魔術師序列第三位『血殺し』の横たわる姿に目を向ける。


「ぼ、僕、狙われてるの!?」


 恩師が顔を真っ青にしている姿を見て、カチューシアは、しっかり恩師の目を見て、


「大丈夫です先生、私が守るから」


 と、言った。


 それからカチューシアは恩師に瓶から水を飲ませ、ふかした芋を口に運び食べさせた。


 そして、


「先生、それでは明日の晩に、また来ますので、おとなしく待っていてくださいね」


 と、言い残し、部屋を後にする。


 アシモフは、はっと気が付く。


「カチューシアさん、縄解かず行っちゃったよ」


 下半身を丸出しで、椅子に縛られたまま、くーんと、悲しい鳴き声を上げるのであった。






◇◇◇◇







 帝国国家魔術師序列第二位『顎割れ』こと、帝都大学院学院長ジョー・レイ・ランズデールは頭を抱えていた。


 まず、帝国最高戦力、帝国国家魔術師序列第一位『最高傑作』、ヘルゼーノフ侯爵家長女、エメラルダ・デラ・ヘルゼーノフが職場である軍の中央備品管理所で胸を押さえ倒れ、自宅に運び込まれ、それから自宅から出てこなくなった。


 メイドたちが一切の訪問者を許さず、誰も魔王殺しの容態を知らないのだ。


 死亡説も流れている。


 次に魔王殺しの旦那である詩学使いアシモフが大学の中から忽然と姿を消したことだ。


 あの二匹の化け物のような使い魔も同じく姿を消した。


 それと同時に、『血殺し』、〃聖女〃も姿を消した。


 皇帝は、


「謀反か!?」


 と、一気に城の警備体制を強化したが、そんなもの魔王殺し、あの使い魔二匹の前ではないも同じなので、ガクガク震え、寝室から出てこなくなった。


 今、『顎割れ』がいる場所も、皇帝の寝室の前、警備をしているのだ。


「チム、お友達の居場所、分かるかい?」


 手の平の上に乗せている鼠の使い魔に、黒猫の居場所をきくが、首を横に振る。


「アシモフ先生、勘弁してくださいよー」


 彼は完全にこの職務に飽きていた。






◇◇◇◇







 カチューシアは有頂天だった。


 こっそり尾行していた愛する恩師が、『血殺し』に拉致されるシーンに出くわし、その後をつけ、大学内にある秘密の小部屋に連れ込むのを確認する。


 『血殺し』が恩師に見惚れ、油断したすきに、後頭部を一撃、その後、恩師監禁

を自分が引き継いだのだ。


 折を見て、恩師を連れ聖国に逃げてもいい。


 何なら聖国を捨て、二人でどこか遠くに消えてもいいのだ。


 人生は薔薇色だった。






◇◇◇◇







 アシモフは尿意を我慢していた。


 下半身はすっぽんぽんで寒さも重なり、おしっこがしたい。


 生徒である〃聖女〃は晩に来るとは言ったが、まだだいぶ時間がある。


 一度漏らしたからと言って、常時漏らしていいわけではない。


 しかし体は順応力が強く、一回目はあれだけ我慢できたのに、二回目はまったく下腹部は言うことをきかず、椅子に座らせられている下半身から、アーチをえがき、おしっこは飛び出した。




 びししし。





「ああ! ごめんなさい!!」


 倒れている『血殺し』の頭におしっこがぶつかる。


 アシモフはおしっこを止められない。


 もう謝ることしかできない。


 その時、ピクッと倒れていた『血殺し』の手のひらが動く。


 おしっこが終わり、やり切った顔をしているアシモフは、むくりと腰から動き出す『血殺し』の体を見て悲鳴を上げた。




 こう言っては悪いが、アシモフは、完全に『血殺し』が死んでいると思っていたからだ。

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