第2話:常連客記録簿
――以下は、ある都市再開発にともない取り壊された旧市街地の記録を整理中、発見された文書の抜粋である。
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文書名:喫茶店『ハルカゼ』常連客記録簿
発見場所:第七区旧店舗跡地・地下収納庫より回収
年代:不明(記録中の年号はすべて「夜○年」と記載)
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記録簿には、日付にあたる部分が「夜○年○月」となっており、現実の暦とは一致しない。
顧客名欄には名字のみ、あるいはカタカナの仮名で記されていることが多く、確認できたものは以下の通り:
カンダ様(夜17年5月 来店73回)
ユビノ様(夜21年2月 来店4回・同行者アリ)
ヨソオイ様(夜22年11月 来店1回)
「●●」様(夜24年4月 来店1回・記録上最後の来客)
特に最後の「●●」様の欄には、赤字で次のような一文が追記されていた:
> 「この方が帰ったあと、ハルカゼは夜明けを迎えた」
また、記録の途中には「本日、時計を置いていった者が3名」「話してはいけないことを話した者がいた」など、接客メモとは思えない記述が多く見られる。
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喫茶店『ハルカゼ』については、行政の商業登録に記録がないにもかかわらず、複数の市民が「通ったことがある」と証言している。
しかし、いずれも共通して「場所は覚えていない」「気づいたら店内にいた」と話す点が特徴的である。
店舗の外観や内装についても証言が食い違い、「木造の長屋風」「高層ビルの屋上」「地下街の一角」などまちまちである。
なお、常連客名簿の裏表紙には、鉛筆で次の文が走り書きされていた。
> 「カウンターに座ってはいけない」
「席はひとつずつ消えていく」
「最後に残るのは、マスターの影だけ」
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【補足】
名簿の最後に現れる「●●」という表記は、別の記録にも同様の形で登場している。
また、来客記録と一致する人物名が、過去に別件資料(分類コードN-03)にも断片的に現れているが、詳細は調査中。
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