第25話 葬式で貧乏揺すり

 「鎧」計画を阻止し、スネークと女性幹部を再び捕らえた鬼塚は、つかの間の平穏を取り戻していた。しかし、彼の悪態が収まることはない。いつものように東武宇都宮署のデスクで書類に目を通していると、高宮警視から緊急の呼び出しが入った。

「鬼塚、君に協力してもらいたい事件がある」

 高宮警視の声は、かつてないほど重かった。事件の概要を聞くと、鬼塚の顔は険しくなった。都内のIT企業の若きCEOが、自宅で不審死を遂げたというのだ。現場の状況から事故死と判断されたが、高宮警視は違和感を覚えていた。

「どういうことだ、タコ警視?ただの事故死じゃねぇってのか?」

「彼の死因は、心臓麻痺。だが、彼の遺族は、外部からの強い電磁波の影響によるものではないかと訴えている。そして、その電磁波の波形が、『鎧』計画で使われたものと酷似していることが判明した」

鬼塚の脳裏に、再び「鎧」の影がちらつく。テロ組織の残党が、新たな方法で暗躍している可能性があった。

「チッ、またあのクソ野郎どもか!」

 鬼塚は舌打ちし、高宮警視と共に現場へと向かった。現場検証はすでに終わっており、遺族への聞き取りが行われているところだった。


 葬式での異変

 後日、亡くなったCEOの葬式がしめやかに行われた。鬼塚と高宮警視も、捜査の一環として参列していた。会場には、遺族や企業の関係者、そして多くの参列者が集まっていた。

 焼香台の前で、遺族が悲しみに暮れる中、鬼塚は、ある男の異様な行動に気づいた。スーツを着込んだその男は、弔問客の中に紛れて、常に周囲をチラチラと見ている。そして、時折、落ち着かない様子で貧乏揺すりをしていたのだ。

「おい、高宮。あのデブ、何やってんだ?」

 鬼塚が小声で尋ねると、高宮警視もその男に気づいていたようだった。

「彼は、故人の会社のライバル企業の幹部です。彼の会社は、故人の会社が開発していた画期的なAI技術を、かねてから欲しがっていたという情報があります」

 高宮警視の説明に、鬼塚の直感が囁いた。この男が、何か知っている。あるいは、事件に深く関わっている。

 鬼塚は、その男から目を離さず、彼の行動を観察し続けた。男の貧乏揺すりは、まるで焦燥感を隠しきれないかのように、ますます激しくなっていった。そして、彼は時折、胸ポケットに手をやり、何かを探るような仕草を見せる。

「チッ、何か隠し持ってるな、あのクソデブ」

 鬼塚は、男の動きに集中した。故人の遺影の前で、弔問客が次々と焼香を上げていく。男は、自分の番が近づくにつれて、さらに貧乏揺すりが激しくなり、顔からは脂汗が流れ落ちていた。

 そして、男が焼香台へと進み出たその時、鬼塚は決断した。

「ルールなんて誰が守るかボケ!」

 鬼塚は、焼香を終えた男が振り返る瞬間に、その男の背後から飛びかかった!


 暴かれた真実、そして新たな戦い

 鬼塚の突然の行動に、葬式の会場は騒然となった。男は驚きと恐怖に顔を歪ませ、バランスを崩してよろめいた。鬼塚は、男の胸ポケットから何かをひったくると、男を地面に叩きつけた。

「てめぇか、このクソ野郎!CEOを殺した真犯人は!」

 鬼塚が怒鳴り散らすと、男は怯えたように震えた。鬼塚がひったくったのは、小型の通信機だった。その通信機からは、かすかに、しかし確実に、「鎧」のシステムで使われたものと同じ、不穏な高周波が発せられていた。

「彼は、遠隔で電磁波を操作する装置を使って、故人を殺害したようです。この通信機が、その証拠になるでしょう」

 高宮警視が、駆け寄ってきた特殊部隊に男を拘束するよう指示した。男は、観念したようにうなだれた。

「くそっ、まさかこんなところで……」

 男は、悔しそうにそう呟いた。

 事件は解決したかに見えた。しかし、この事件は、「鎧」計画の新たな側面を鬼塚に突きつけた。  テロ組織は、システムの核が破壊された後も、その技術を「商品」として売り出し、裏社会で暗躍を続けていたのだ。そして、その技術は、人の命を奪うための凶器として利用され始めていた。

「チッ、とことん腐りきった世界だな」

 鬼塚は舌打ちした。彼らの戦いは、終わっていなかった。いや、むしろ、より複雑で、より広範囲な戦いへと変貌を遂げていたのだ。

 鬼塚の悪態は、これからも、闇に潜む悪を炙り出し、暴き出すだろう。彼の「ルールなんて誰が守るかボケ!」という精神は、腐敗した世界に立ち向かう、彼の唯一の武器だった。

 テロ組織の残党は、他にどのような技術を売買しているのか?そして、鬼塚の次なる標的は、誰になるのでしょうか?

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