パート55: 敗者の悟り

「し、試合終了! 勝者、チーム・アラン!」


 審判長の宣言で、一瞬の静寂の後、スタジアムは割れんばかりの歓声に包まれた。

 新たな王者の誕生。

 誰もが予想しなかった、落ちこぼれチームの圧勝劇に、観客は熱狂していた。


 ヒロインたちは、僕の元へ駆け寄ってくる。

「やりました、マスター!」

「当然の結果ですわ!」

「俺たち、勝ったんだな!」

 僕は、彼女たちの頭を一人ずつ優しく撫で、その健闘を称えた。


 その光景を、フィールドの隅で、担架に乗せられたガイウスが、朦朧とする意識の中で見ていた。

 なぜ負けた?

 なぜ、俺は、あいつらに……。


 彼は、必死に思考を巡らせる。

 リナの急成長。

 セレスティアの、見たこともない盾の使い方。

 フェンリルの、完璧な奇襲。

 そして、それら全てを、まるで駒のように動かしていた、采配。

 その中心には、常に、一人の男がいた。


 自分がずっと、レベル1の落ちこぼれだと見下し、家の恥だと蔑んできた、弟。

 アラン・フォン・エルフィールド。


 その瞬間、ガイウスの脳裏に、雷に打たれたような衝撃が走った。


(……そうか。黒幕など、どこにもいなかったのか)


 リナを育てたのも。

 セレスティアを導いたのも。

 フェンリルを手なずけたのも。

 そして、自分を、このエルフィールド家の嫡男である自分を、完膚なきまでに叩き潰したのも。

 全て、全て、全て―――アラン、一人の仕業だったのだ。


 自分が「落ちこぼれ」だと信じて疑わなかった存在こそが、全てを裏で操る、本当の「怪物」だった。

 その、あまりにも残酷で、皮肉な真実にたどり着いた瞬間。


「あ……あ……」


 ガイウスの瞳から光が消え、彼は、その屈辱と絶望の重さに耐えきれず、完全に意識を手放した。

 僕たちのショーは、最高のフィナーレを迎えたのだった。

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