パート37: 苦戦するエリートたち

 僕たちがボス部屋に足を踏み入れると、そこでは凄まじい戦闘が繰り広げられていた。

 部屋の中央で暴れているのは、身長5メートルはあろうかという巨大なケイブトロル。

 その硬い皮膚は並大抵の攻撃を弾き返し、たとえ傷を負っても、瞬時に再生していく。


 そして、そのトロルを相手に、兄のガイウス率いるエリートチームは、明らかに苦戦を強いられていた。


「くそっ、なぜ倒れん!」

「ガイウス様、魔法が効きません!」

「再生能力が高すぎます!」


 彼らは自慢の強力な攻撃魔法を次々とトロルに浴びせるが、致命傷には至らない。

 それどころか、トロルが振り回す巨大な棍棒に味方が吹き飛ばされ、チームは消耗し、ジリ貧に陥っていた。


「ふん、無様だな、兄さん」


 僕が声をかけると、ガイウスは忌々しげにこちらを振り返った。


「アラン……! 見ていないで、貴様らも加勢しろ!」


「お断りします。僕たちは、あなたたちとは勝負をしている身ですから」


 僕はにっこりと笑って答える。

 そして、苦戦する彼らを眺めながら、ヒロインたちに解説してやった。


「いいか、よく見ておけ。あれが、力任せの戦い方の限界だ。あのトロルの強みは、高い防御力と再生能力。弱点は、動きが鈍重なことと、力の源である右腕の魔石だ。あの魔石を破壊しない限り、いくら攻撃しても無意味なんだよ」


「魔石……! あんなところに!」

「わたくしたちでは、気づきませんでしたわ……」

「マスターはなんでも知ってんだな!」


 僕の解説に、三人は感心したように頷く。

 この2年間、僕がただ無為に過ごしていたとでも思っていたのだろうか。

 僕は、この学園の誰よりも、モンスターの生態に詳しい自信があった。


「ガイウス様! もう魔力が……!」


 エリートの一人が悲鳴を上げる。

 そろそろ、潮時だろう。

 主役の登場には、最高のタイミングというものがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る