パート35: 代理戦争の幕開け

「いいでしょう、兄さん。その勝負、受けます」


 僕は、間髪入れずに答えた。

 その即答に、驚いたのはガイウスの方だった。


「……ほう。正気か、アラン? 貴様たちのその無様な様を見て、断れないと思ったが」


「ええ、正気ですよ。むしろ、願ってもない提案です。あなたたちのその根拠のない自信を、ここでへし折って差し上げます」


 僕は、初めて兄に対して、明確な敵意を込めて言い放った。

 「落ちこぼれのアラン」ではない。「プロデューサーのアラン」として。


「マスター……!?」

「本気ですの、あなた!?」


 リナとセレスティアが、慌てて僕に詰め寄る。

 彼女たちの目には、明らかな不安が浮かんでいた。

 今の自分たちの実力では、ガイウスのチームに勝てるはずがない、と。


「ふん、面白い。威勢だけはいいようだな。では、始めようか。我々は先行させてもらうぞ」


 ガイウスは僕の態度が気に食わなかったのか、吐き捨てるように言うと、チームを引き連れてダンジョンの奥へと進んでいった。

 残されたのは、僕たち4人と、重い沈黙だけ。


「……どうするんですか、マスター。本当に、勝てるんですか……?」


 リナが、震える声で尋ねる。

 僕は、そんな彼女たちの顔を順番に見渡し、そして、不敵な笑みを浮かべた。


「心配するな。これは、ショーの始まりにすぎない。僕たちの、反撃の狼煙だ」


 僕は、三人の前に立つ。

 その瞳には、もう不安の色はない。

 僕への、絶対的な信頼の色が宿っていた。


「いいか、よく聞け。これまでの訓練は、全てこの時のためだ。これからは、僕の指示だけを聞け。自分の判断は一切するな」


 僕は、このダンジョンのボス『ケイブトロル』の攻略法を、三人に叩き込む。


「リナ、君の役目は、ボスの右腕にある魔石の一点集中破壊。それ以外は考えるな」

「セレスティア、君はボスの攻撃をただ防ぐな。盾で攻撃を受け流し、ボスの体勢を崩せ」

「フェンリル、君は正面から行くな。影に徹し、ボスの注意を引きつける撹乱役だ」


 そして、僕は最後に告げる。


「これは、僕と兄さんとの、最初の代理戦争だ。負けは許されない。行くぞ、僕の最高傑作たち。奴らに、本物の実力というものを見せつけてやれ」


 僕の言葉に、三人の瞳に闘志の炎が燃え上がった。

 トーナメントへの序曲が、今、始まる。

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