パート33: 実戦の壁

 僕たちが次なる訓練の場として選んだのは、学園からほど近い場所にあるダンジョン「試練の洞窟」だった。

 ここは、様々な種類のモンスターが生息し、実戦経験を積むにはうってつけの場所だ。


「いいか、ここからは実戦だ。気を抜けば、怪我では済まないぞ」


 洞窟の入り口で、僕は三人に最後の注意を促す。

 三人は緊張した面持ちで頷き、僕たちは薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。


 最初の敵は、ゴブリンの群れだった。

 数は5体。今の彼女たちなら、敵ではないはずだ。


「よし、訓練通りにやれ! セレスティアが前衛、リナが後方支援、フェンリルが遊撃だ!」


「はい、マスター!」

「分かっていますわ!」

「おう!」


 威勢よく飛び出していく三人。

 セレスティアが盾を構えてゴブリンたちの攻撃を受け止め、その隙にリナが魔法を放ち、フェンリルが横から奇襲をかける。

 作戦は、完璧なはずだった。


 しかし――。


「きゃっ!?」


 リナが放った氷の矢が、ゴブリンを狙って突撃したフェンリルの鼻先をかすめた。


「危ねえだろ、リナ!」

「ご、ごめんなさい! フェンリルが急にそっちに行くなんて……!」


「あなたがもっと周りを見て動かないからですわ、このわんこ!」

「んだと、セレス! お前の盾が邪魔で動きにくいんだよ!」


 途端に、連携が崩れ始める。

 お互いの動きを予測できず、攻撃が渋滞し、防御が手薄になる。

 学園祭で芽生えたはずのチームワークは、実戦のプレッシャーの前では、いとも簡単に霧散してしまった。


(……やはりな)


 僕はため息をつく。

 結局、彼女たちはまだ、僕の指示がなければ十全に力を発揮できない。

 個々の能力は高いがゆえに、いざとなると自分の判断で動いてしまい、それが連携を乱す原因となっている。


「はぁ……。一度立て直すぞ。全員、僕の……」


 僕が指示を出し直そうとした、その時だった。

 洞窟の奥から、複数の足音と、聞き覚えのある傲慢な声が聞こえてきた。


「おや、こんなところで何をしているんだ? 落ちこぼれの寄せ集めが、ダンジョンでままごと遊びか?」


 そこに立っていたのは、兄のガイウスと、彼が率いるエリートチームだった。

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