パート26: 三人目の仲間
暴走が収まったフェンリルは、しばらくの間、きょとんとした顔で僕を見上げていた。
自分の身に何が起こったのか、よく分かっていないようだった。
「……お前、誰だ?」
ボーイッシュな、少し舌足らずな口調で彼女は尋ねた。
「僕はアラン。君を助けた、君の主(マスター)だ」
「ますたー……?」
フェンリルは、その言葉を繰り返すと、くんくんと僕の匂いを嗅ぎ始めた。
そして、次の瞬間。
「わふっ!」
彼女は満面の笑みを浮かべると、大型犬が飼い主にじゃれつくように、僕の体に勢いよく飛びついてきた。
「うおっ!?」
「ますたー! いい匂いがする! 俺、ますたーのこと、好きだぜ!」
彼女は僕の胸に顔をすり寄せ、もふもふの尻尾をちぎれんばかりにぶんぶんと振っている。
どうやら、暴走の苦しみから救ってくれた僕のことを、絶対的な信頼を置くべき「主」として認識したらしい。
獣人の、一種の刷り込みのようなものだろう。
「こ、こら、フェンリル! マスターに気安く触らないで!」
その光景を見て、リナが慌てて駆け寄ってくる。
その顔には、明らかに「やきもち」と書かれていた。
「なんだよお前! マスターは俺のだぞ!」
「わ、私の方が先です!」
「……子供ですの」
そんな二人(?)のやり取りを、セレスティアは腕を組んで、心底呆れたという顔で眺めている。
(……なるほど。これは、思った以上に前途多難かもしれないな)
僕の胸に抱きついてくる忠犬(フェンリル)。
それを見て頬を膨らませる愛弟子(リナ)。
そして、そんな僕たちを冷めた目で見つめるクールな令嬢(セレスティア)。
なんというか、見事なまでにバラバラだ。
だが、それがいい。
この個性豊かな原石たちを磨き上げ、最強のチームを作り上げる。
プロデューサーとして、これほどやりがいのある仕事はない。
「よしよし。フェンリル、君も今日から僕のチームの一員だ」
僕はじゃれついてくる彼女の狼耳を優しく撫でながら、三人目の仲間が加わったことを、静かに宣言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます