パート16: 孤高の公爵令嬢

 リナが学園の「矛」として認知され始めてから数日。

 僕の視線は、すでに次のターゲットへと向けられていた。

 セレスティア・フォン・ヴァイス。銀髪の公爵令嬢。

 彼女は、いつも一人だった。


 昼休みの食堂でも、誰ともテーブルを共にせず、窓際の席で静かに食事をとる。

 移動教室の時も、友人とおしゃべりする他の令嬢たちを尻目に、一人で黙々と廊下を歩く。

 その姿は、まるで自ら壁を作って他者を拒絶しているかのようだった。


(スキル【絶対守護】。あらゆる攻撃を防ぐ最強の盾。だが、攻撃能力はゼロ。この攻撃至上主義の学園では、『役立たず』の烙印を押されるのも無理はないか)


 僕は彼女の行動を、数日にわたって観察していた。

 彼女は放課後、決まって図書室の奥にある古代魔術の書架へ向かう。

 そこで彼女が読んでいたのは、攻撃魔術の本ではない。古代の防御陣形や、結界術に関する難解な専門書だった。


(……なるほど。自分のスキルの可能性を、独学で探求しているのか)


 さらに、僕は彼女が夜、人知れず第一訓練場を借りていることも突き止めた。

 物陰から覗いてみると、彼女はたった一人で、スキルの訓練を繰り返していた。

 ただ攻撃を防ぐのではない。防御壁の形状を瞬時に変えたり、複数同時に展開したりと、その制御技術はすでに達人の域に達していた。


(見事なものだ。誰にも認められず、評価もされないというのに、この努力。腐らずに、ただひたすらに己を磨き続けている)


 その孤高の姿に、僕は確信を深めた。

 彼女は、リナとは違う種類の、しかし紛れもない「原石」だ。

 内に秘めたプライドは、誰よりも高い。

 だからこそ、他人の評価に絶望せず、己の道を突き進める。


(面白い。実に面白いじゃないか、セレスティア・フォン・ヴァイス)


 リナのような素直な子を育てるのもいいが、こういうプライドの高い孤高の猫を懐柔するのも、プロデューサーとしては腕が鳴る。

 僕は観察を終え、彼女への接触プランを練り始めた。

 まずは、ジャブからだ。

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