パート2: 観客席の黒幕
実技の授業が終わり、僕はさっさと教室を出ようとした。
面倒な連中に絡まれる前に、静かな場所へ移動したかったからだ。
「待て、アラン」
しかし、その声は僕の背中を容赦なく捕らえた。
振り返ると、そこに立っていたのは、僕の兄――ガイウス・フォン・エルフィールド。
金色の髪を輝かせ、自信に満ちた碧眼で僕を見下ろしている。学園の生徒会長格であり、次期侯爵家の当主。僕とは何もかもが正反対の存在だ。
「兄さん。何か用ですか」
僕は感情を消した声で尋ねる。
ガイウスは鼻で笑い、僕の肩をわざとらしく払った。
「まだ学園にいたのか、家の恥め。レベル1のお前がエルフィールドの名を名乗っていると思うだけで虫唾が走る」
「……そうですか」
「その無気力な返事も気に食わん! 少しは家の名誉を考えたらどうだ? お前のような出来損ないがいるせいで、俺まで笑いものにされるんだぞ!」
ガイウスの取り巻きたちが、同調するように下卑た笑みを浮かべる。
(笑いもの? それは君の思い込みだろう、兄さん。君のプライドが、僕という存在を許せないだけだ)
僕は表面上、無関心を装って兄の言葉を聞き流す。
だが、僕の頭の中は驚くほど冷静だった。
(ガイウス・フォン・エルフィールド。才能はあるが、傲慢で視野が狭い。典型的なエリートだ。自分の物差しでしか他人を測れない。実に、つまらない男だ)
彼らは知らない。
僕のレベルが1で固定されているのは、呪いでも無能だからでもない。
僕のユニークスキル、《無限経験値バンク》の特性だからだ。
このスキルは、僕自身が成長する代わりに、得た経験値をすべて自動で「バンク」に貯蓄し、複利で無限に増殖させ続ける。
そして、バンクに貯まった天文学的な量の経験値は――僕が選んだ他者に、譲渡(ギフト)することができる。
そう、僕はプロデューサー。
自らは舞台に上がらず、最高の役者を見つけ出し、育て上げ、栄光の舞台へと送り出す。
それが僕の役割であり、最高の娯楽だ。
「まあいい。お前のような落ちこぼれに何を言っても無駄か。せいぜい学園の隅で、ホコリでも被っているんだな」
吐き捨てるように言うと、ガイウスは取り巻きを引き連れて去っていった。
その背中を、僕は冷めた目で見送る。
(見ていてくれよ、兄さん。そして、君たちエリートの諸君)
僕は内心で独りごちる。
(君たちがその根拠のない自信とプライドを粉々に砕かれる日も、そう遠くはない。僕が育てた”最高傑作”によってね。その絶望に染まる顔を、僕は観客席の片隅から、最高の笑顔で眺めてやる)
僕は誰にも見咎められない笑みを唇の端に浮かべると、再び歩き出した。
最高の”原石”を探すために。
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