第29話 さすがモカ賢い
今、俺たちの目の前には分かれ道がある。
左か右の二択。
片方だけが正解なのか、両方行き止まりか、どっちを選んでも目的地に行けるか。
俺には全くわからない。
これも、チート使っとくか?
俺がそう思っていると、モカが「待ってください」とメモ帳を開いた。
「この光砂洞窟は、もともと魔物たちが長年かけて掘ったものらしいです。その後で、人々が貴重な鉱石を求めて足を踏み入れた」
「......となると?」
俺の頭では、それを聞いただけでピンとは来ない。
「魔物たちは、一心不乱に一本道を長く太く、奥へと掘り進めました。私たちがこれまで通ってきた道も、ほとんど一本道でしたよね?」
その通りだった。今まさに、最初の分かれ道を発見したのである。
「後ろを見てください」
「後ろ?」
俺は来た道を振り返って、絶句した。
「分かれ道、だらけだ」
俺たちが進んだ道は、長く太い道だった。
それは徐々に、ほとんど気づかないレベルで狭くなってきていたのはわかってたけど。
要はラッパ型なのである。
そして、その途中である今、後ろを振り返れば、進んだときには気づかなかった横穴が、数多く見えた。
「これじゃ、奥まで行った後で、戻るのも一苦労だな」
「でも、実はわかりやすい目安があるんです」
モカは言う。
「魔物たちが掘った穴は、奥へと正確に進んでいます。一方で、人々が掘った穴というのは、まだ見ぬ貴重な鉱石を求めて、ということで、雑な掘り方をしているんです」
言われてみると、確かに。
「鉱石ハンターたちは、あたり構わず掘り進んだってことか」
「元々は、魔物たちの住処を、欲に目が眩んで侵した人たちですからね。それに、この洞窟にも魔物がいますから。丁寧にゆっくり掘ってられなかったんでしょう」
「ってことは、人が掘った適当な穴は、結局は行き止まりになってるハズレの道。そして、それはつまり」
「はい、正解の穴と比べて、大きさや掘り方が、明らかに雑、ということです」
そう言われて、今の進むべき穴を、二つ見比べてみると。
確かに。
天井も側面も、凹凸が酷い一方がある。
それにしても、確かによく見れば違うけど、そんなこと普通は気にしない視点だよなー。
と、俺は思う。
モカは、やはり頭が良いのだ。
きっと、俺よりもずっと。
「さすがモカだな」
俺がそう言うと、モカは照れ隠しするように、手帳をしまって、俺の後ろについた。
「私は、これくらいしかできませんから」
「そんなことは」
「だから、私の方こそ、ありがたいんです。一人でこんなところに、来たくなかったので......」
それからモカは、不安そうに、俺に伝えた。
「余呉野さん。これは、私が付き合わせてしまった試練です。だから......何かあったら、逃げましょうね」
俺はそんなつもりは、二つの意味でなかった。
付き合わせられたなんて思ってないし。
何かがあるとも、逃げる状況になるとも思えない。
最悪な事態として、モカが狙われることくらいだが、その時は、ミリネラから貰った魔法の玉で、モカだけ帰還すればいい。
そう、思った。
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