第14話 幻想と鎖の輪舞曲

俺は自分にあてがわれた部屋に入る。

質素な部屋だが、悪くない。ベッドもある。


「さて、寝るか」


夢の中で寝るなんてのは恐々だが、そろそろ俺もわかってきている。


「この世界、夢じゃない、よな」


意識が明瞭。会話も理路整然と行われている。時間の経過も順番にある。夢だったら、どれか、もしくはどれもゴチャゴチャだ。


「てことは、これは本当に異世界転生!? いや、異世界、転移か」


今更ながら、俺はそう確信した。


「冗談じゃない! せっかく百華さんとの最後の学校生活が待ってたのに! 異世界で暮らしてたまるか!」


喜びなんてない。あるのはむしろ、怒りだ。


とはいえ、帰る手段のあてはない。


「寝てみよう。もしかしたら、それで現実に帰れるかもしれない」


俺は、目を閉じる。

するとすぐに、眠りに落ちてしまった。






「余呉野くん」


頭の上から百華さんの声がする。

これは夢か? 幻か?


俺は笑ってしまう。現実でも、こんなことねぇよ。


でもこのまま起きたら、きっと君に、会えそうな気がする。


なら、言いたいことがある。


「百華さん。俺は君が、好きだ」


「どんなところが?」


「そりゃもちろん、母性があるところ!」


いや、これはマズいか。


「違うんだ。母性ってのは胸のことじゃなくて、君の包み込むような優しい性格が。ってことで!」


「そう。でも私、違うんだよ」


「え?」


目を覚ますと、少女がいた。モカだ。

モカは俺の寝顔を、じっと見ていた。


「どうかしたか?」


「すみません。私の部屋にも勝手に入られたので、仕返しです」


モカはそう言ってはにかむ。しかしどこか、ぎこちない。


「じゃあ、出ていきますね」


モカはさっさと俺の部屋を出ていく。


「あ、いや。え?」


モカの行動が、よくわからなかった。

俺の寝顔を見てた?

いや、それって好意とか?

ん? もしかして、この世界の俺のヒロインは、モカ、なのか?


いや、でも俺には百華さんが。たとえモカが、とびっきりの美少女だとしても、浮気はできない。


「よし、しっかり伝えないと」


モカの後を追う。そうして、彼女の部屋の前まで来た。


「まさか、また着替え中とか、ないよな?」


俺は苦笑いしてしまう。さすがにそんな天丼は、三流ラブコメに違いない。


再び、ノックから始めようとして、気づいた。


俺は、それを見て、




ゾッとした。



「なんだよ、これ」





鎖がある。


幾重もの鎖が、モカの部屋の、扉のノブに、蛇のように絡み付いている。


まるで彼女を、ここから逃がさないためのように。




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