いつかあの日の願いを叶えるために
@kuma06830
プロローグ
第1話 はじまり。
ここは地獄だ。
私の目の前には、あたり一面の死が広がっている。
街のシンボルである噴水をみたら、血で赤黒く染まり鉄臭いような匂いをはなっている。
街にいくつかある井戸を見たら、そこには人だったものが数えきれないほど浮かんでいる。
子供達の遊び場となっていた広場には、首がない死体が積み上げられ山となっている。
街には人体を構成していたであろう液体や臓物などが散乱し、それが酷く濃密な死の匂いを発していた。
そして、殆どの死体が悲痛な面持ちをして事切れているようであり、その無念さが私に伝わってくる。
さらに、この狂気とも言える殺人を犯した犯人は悪趣味なことにすべての死体の頭部を切り取っている。
死体から切り離された頭は、街唯一の教会の平時であれば、多くの信者がお祈りを来る女神像?の前に積み上げられていた。
あまりの光景に、私は耐え切れず目を背けてしまう。
ここまでする必要はあったのだろうか?
私はそんなことを思いながら、そんな街の様子を私はただ、ただ見つめることしかできなかった。
この日、私はどこか壊れてしまったのだと思う…。
時を遡ること数時間前。
私の名前はソフィー、どこにでもいる可愛い10歳の女の子である。
そんな私には、人と違う秘密がある。
それは日本という国で生きた誰かの記憶。
それが誰の記憶なのか、そもそも性別や名前すらもわからない。
私の記憶にある人物が何をしていたのかなんて私にはわからなかった。
そもそも、記憶の中で見たり、聞いたりする言語が未知の言語で何を言ってるかすらよくわかっていなかった。
ただ、記憶の中の世界は、この世界では考えもつかないような高い建物がたくさん並び立っていた。
その世界を日本と呼ぶようである。
このことを、お母さんに言ったときは、冗談だと思われ信じてもらえなかった。
私は時折、とんでもないことをしでかすことがあるようで、そのせいか私の言は全くもって真実だと思われなかったようである。
そんな私は、人とは違った不思議な魔法が使える。
それは切る魔法である。
この世界の住人は皆一様に魔法を使うことができるのだが、固有魔法というその人にしか使えない魔法を生まれ持った存在が時折あらわれる。
固有魔法は、多くの人を救うか、沢山の人を殺せる魔法。
例えば、四肢欠損すら治癒する固有魔法がある。
この魔法は、「再生」魔法として知られている。
今まで確認されてきた歴史上、この魔法が使えるのは女の子だけで、彼女たちを聖女という。
私の魔法も人の助けになるものだったらどれだけ良かっただろうか…
勿論、なんの意味がないような固有魔法もこの世界には存在しているのだとは思うがそのような話は聞いたことがない。
私が授かった魔法は切る魔法。
これは、大体なんでも切ることができる魔法。
私にかかれば、鋼鉄の門だって、石で出来た家だって、魔法による強化がされていないものであれば、なんでもバターを切るように簡単に切断できると思う。
というのも、実際に試したわけではないから正確なことは言えないが、私の心が、魔法が、『そのぐらいなら切れるよ』と教えてくれる。
この魔法が街の人に知られてからというもの、私は街の人から存在しないものとして扱われるようになった。
固有魔法を持つものは、その魔法で多くの人を救うか、多くの人を殺すという伝承がこの国にあるからだと思う。
またそれとは別に、イレア教でも人を害す固有魔法は悪魔の魔法であり、その存在は居るだけで周囲に災厄を振り撒くと言われているのも大きな原因の一つなんじゃないかなと思う。
イレア教とは、なんでも、この国で信仰されている、この国の人間にとって唯一の宗教であり、初代勇者様と聖女様を神様のように崇めている組織らしい?
というのも、私の存在が彼らからすると悪魔そのものなので、彼らにとっての悪魔である私が、教会について知る機会など当然ないのだ。
確かに、伝承を信じていたり、イレア教徒からすると、私の魔法は危険極まりなく、私の存在そのものが疎ましいのだろう。
この国では固有魔法を持っていても隠すのが一般的で、それは、人を救う固有魔法より人を殺す固有魔法の方が多いからである。
そんなことを知りもしなかった幼い私は、街の人が、職場の鉱山にある巨大な岩が邪魔で困っていたので魔法を使って助けてあげた。
そのはずだった…
邪魔な岩を細かく微塵切りにして、褒めて欲しそうにしていた私に、周囲の人が向けてきた感情は恐怖。
誰もが私に対して口を開けないようだった…。
何人かは、なんとか喋ろうと口ぱくぱくしていたのを今でも昨日のことかのように思い出せる。
街の人にとって私は化け物のような存在だった…
魔法の威力だけでいえば私以上の魔法など使える人など、ごまんといる。
そうであったとしても、固有魔法が使えるということだけで、街の人全員から無視されるほど忌み嫌われるのだ。
それは、この国において固有魔法がどれだけ不吉の象徴かを表しているだろう。
むしろ、忌み嫌われているのに排斥されず、無視で済んでいることは奇跡に近いことなんだと思う。
そんな私でも両親は愛してくれて、可愛がってくれた。
ある日の夜、街の代表者数名が私の家にやってきた。
そして、両親に私を捨てろ、街から追い出せなんてことを言っているのを聞いてしまった。
しかし、両親は土下座をして、せめて私が独り立ちできるまでは街に置いてやって欲しいと頼み込む。
実際に、その姿を隠れ見ていた私には彼らが見かけだけではなく、心の底から私を救おうとしてくれるのが伝わってきた。
そんな両親の願いもあってか、私は12歳になるまでこの街にいて良いことに決まった。
それからというもの、私は両親のことが大好きになっていた。
両親のためならと思い、何でもした。
井戸から水を汲んできた。
山で薪を拾ってきた。
狩りで獲物をとらえてきた。
どれも幼い私にとって、とても厳しいことではあったものの両親のためと思えば頑張ることはできた。
そんな私に両親はいつも、ありがとうねと感謝の気持ちを伝えてきてくれる。
街の誰もが私を無視したが、それでも両親さえいれば私は幸せだった。
本当に幸せだったんだ。
そんな幸せな日々がいつまでも続けばいいのに…
私は密かに神様にお願いした。
そんな私の思いは、すぐに踏み躙られることになる。
その日は、いつもと同じく狩りに出ていた。
いつものように、水鳥を捕まえたのでその場で締めて、持って帰るために足を、そこら辺に落ちていた枝に蔦植物でぐるぐる巻きにして肩に担ぐ。
そして、帰路に着く。
私が大好きな両親の元へと…
しばらく、歩いていると、街の方が騒がしいのに気がついた。
街には非常事態を伝えるための魔法の鐘があるのだが、それが激しくなり続けている。
何か街に悪いことが起きているのだろうと、私は直感する。
私は、急足で街に戻る。
あと街まで少しと迫ったところで、今まで嗅いだことがない、嫌な生理的に受け付けられない匂いがした。
いい知れぬ不安が私の心を侵食する。
一秒でも早く、街に戻るため、私は水鳥を投げ捨てて、かけだしていた。
そして、街に戻った私が見たのは、街が何匹かの魔族によって襲われているところだった。
絵本で見た限り魔族とは、この世界特有の生物であり、人間に敵対的生物であるらしい。
そう、魔族はこの国の子供が一度は読んでもらうであろう、勇者と聖女の物語に出てくる存在なのだ。
その姿は個体差があり、人間に近いものから、虫に近いものなど様々である。
だが、どの魔族にしても共通に言えることがある。
それは、魔族は人間など比にならないくらい強いということである。
私は、両親のことが不安になり一刻も早くと自宅に戻れるように、走り出す。
自宅に着くと、そこにはどこか不安気な表情をした両親がいた。
私の姿を見た両親は、どこかホッとした様子で私の元に駆け寄ってくる。
「ソフィー大丈夫だった?どこも怪我してない?」
と優しい声でお母さんが、私に話しかけてくれる。
「なんともないよ!私は元気!それよりも早く逃げなきゃ」
「そうだな、ソフィーの言うとおりだな。ここにいても魔族の奴らにやられるだけだ。街から出る方が幾分か安全だろう」
と、頼り甲斐のありそうな声で話すお父さん。
私は、二人の手を引いて、駆け出す。
「さあ、早く行こ!私なら大丈夫だから」
家から一度外に出ると、そこは阿鼻叫喚の嵐と化していた。
あちこちから、悲鳴や命乞いをする声が聞こえる。
あちこちから、泣き喚く子供の声が聞こえる。
そんな地獄から一秒でも早く抜け出したかった私は、さらに移動速度を上げる。
私たちが通るのは、私がいつも使っている街の抜け穴である。
街の人が私をみると表情を強張らせるので、怖がらせないように私が見つけた秘密の抜け道である。
そんな抜け道を通って暫くすると、街の出口に着く。
そこに辿り着くまで何体もの死体を見た。
何度か助けを求められたこともあった。
それを私達は無視して、先に進んだ。
私の良心は耐えきれないほど締め付けられ、悲鳴をあげている。
それは、私だけではなく両親も同じようで何度か他の人を助けようとしていたものの、私がそれを阻止していた。
「お父さんは、この人を助けてから行くから先に行ってなさい」
「やだよ!お父さんが居ないなんて…。私が大切なのは、私にとっての幸せはお父さんとお母さんなんだよ。やだよ…」
と、瞳に涙を滲ませながら泣き喚く。
そうやって、私の泣き脅しで、お父さんの行動を制限してしまった。
今でも、その行動が正しかったのかはわからない。
もしかしたら…なんて考えなかった日はない。
あの時見捨てた人たちの表情を私は生涯忘れられないのだと思う。
街の出口に着いた私たちは、外に出ようとする。
すると、何かに塞がれるかのようにして街の外には出られなかった。
おかしいと思った…
これだけの被害なのに誰も街の外に逃げれていない。
周りを見渡すと、私たちを街の外に逃すまいとしている見えない壁?を、外に逃げようとしている人は、見えない壁?を壊そうと様々な方法を試している。
ある人は、斧や剣を持ちだし見えない壁?に攻撃を加えている。
ある人は、魔法を使って見えない壁?を壊そうとしている。
またある人は…
多くの人間が色々な方法を試しているものの、この壁を壊したり、突破したりすることはできていない様であった。
私の隣を見ると、両親も魔法を使ったり、いつの間にか持っていた斧で見えない壁?を攻撃している。
だが、そのいずれも効果がない様で、見えない壁?はびくともしていない。
両親は、何か話をしているようで、結界?なる言葉が聞こえてくる。
結界?は、イレア教でも限られたごくごく僅かな人数しか使えない、高難度の魔法の様だ。
私は試しに切る魔法で、この結界?を切る。すると簡単に穴が空いたので両親の腕を引いて外に出る。
あまりに簡単に、切れて当たり前とでもいうように切れてしまったことに驚きながらも、なんとかなって良かったと、ばくばくとなる心臓に手を当てながら、深呼吸をする。
数秒後、穴などなかったかのように消えてなくなっていた。
この結界?をみる限り、魔族たちは、人間を一人たりとて逃すつもりがなかったようだ。
ならばこそ、できるだけ街から遠い場所に逃げれるように私たちは休むことなく走り続けた。
魔族が結界?を破られたことに気づく前に逃げたかったのである。
どうせ、私たちが逃げたことは、他の逃げ遅れた人達から筒抜けになることだろう。
身を隠すためにも街の近くにある、さっきまで狩りにでていた森の方向に向かって走り出す。
いつもと同じ森を駆けているはずなのにどこか不気味に感じる。
両親も逃げるのに精一杯の様で、無言で進んでいく、そして、私は遅れ気味のお母さんの手を引きながら走る。
走る。
走る。
そして、しばらく走っているとお母さんが疲れたのか、
「ちょっと待って、二人とも」
と、座り込んでいる。
確かに、魔族に見つからないように森の中を移動してきた。
森の中は、そもそも平らでないので走りにくい上、木の根など私たちの足をとってくる植物や泥濘を避けながら走るのはスタミナだけではなく神経も使うのだ。
「もう大丈夫だろう。今日はここで一夜を明かそう」
とお父さんが言う。
私はずっと気を張り詰めていたからか、もう日が落ちかけていることにすら気が付かなかった。
それにお母さんも賛同したので、どこか嫌な予感がしたものの、両親が言うことなので従うことにした。
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