第19話 今日も生きているのでとりあえず現状を理解しようとした
「池田さん、池田つばめさん? 聞こえますか? この指、何本に見えますか?」
ゆらゆらと揺れている指の数を見て。
「2本?」
なんか息がしづらい。アレ? 俺どうなったんだっけ? 確か、俺……プラーナ発光症で! どれだけ時間経った? まだ生きてる。俺は動きにくい体を動かして手を伸ばす。
点滴か何かの針がついた腕は至って普通の俺の腕だった。光っていたとかそういう痕もない。てことは夢だったのか……
「ドクター! 池田さん、目を覚まされました!」
ドクター?
さっきからキャンキャン吠えている奴は……おいおい! エッロ! ナース服に身を包んだボケナスのキサラ。
「おいキサラ、なんだよそれ! 俺へのご褒美か? もしかして俺の誕生日だった?」
「えーっと。池田さん。大丈夫ですか? 意識がしっかりされませんか?」
大きな乳をユッサユッサと揺らしながら名札にはキサラ・アルテマと書かれている。まぁ、ここはあえてひらがなで書いてあった方がイメクラっぽくて……じゃねぇ。
俺は後ろからボケナスのキサラの乳を揉みしだいた。
それはそれは、良い乳だった。
すると、なんという事でしょう。
「きゃああああああああああ!」
「は? きめぇ……」
ボケナスのキサラが悲鳴をあげて震えながら俺の事を変質者か何かみたいな目で見てくる。まぁ、実際突然後ろから乳を揉む奴なんだ変質者以外の何者でもないのだが……
「ちょ、待てよぉ!」
と、俺はヘラヘラしていると、ボケナスのキサラは涙を浮かべて部屋から出ていった。なんだよクソが……俺はボケナスのキサラの新たプレイに対して少しばかり閉口しながら辺りを見る。なんか、あの心電図? とかいうやつに俺が繋がれている。
なんなんこれ? これもガンダムのプレイなん?
そしてここ、俺たちの部屋じゃねーんだが……そっか、俺はプラーナ発光症を発症して病院に運んでくれたんか?
花瓶とその横にベアッガイとかいうガンダムの玩具が並んでいる。とにかくこの意味不明なプレイの説明となんで俺が死ななかったのか聞かねーといけねーわな。
「プレイというかガチで俺治療されてたんか? もしかしてプラーナ発光症の治療法が分かったとか?」
病室を出ると……そこには、沢山の人。病院関係者で一杯だった。
なんだか凄い歩きづらい。体でも鈍ったんだろうか?
は?
みんなほとんど病院にいたって事?
俺は意味も分からずに病院内を彷徨いボケナスのキサラを探していると、待合に覚えのある顔をしたメスガキを見つけた。少女趣味なコートを着て、隣にいるのはお袋さんか?
「おい、おい希空! お前、生きてたんか?」
あのテンアトでプラーナ発光症のカスに殺されたハズの希空。俺はあまりの感動に希空を抱きしめた。
「ちょっとあなたなんですか! 希空から離れて!」
「いやぁあああ、離してぇ!」
「いや、俺だよ。池田だよ」
「あなたなんか知らない! お母さん怖い!」
「け、警察。警察呼びます」
なんだこれ?
俺は何か弁解しようとした時、懐かしい声を聞いた。「あー、すみませんねぇ。この患者さん、心を病んでましてすぐ黙らせますので」ブシュ! と変な音を聞いたと共に俺は目の前が真っ暗になった。
再び目が覚めた時、あのキサラの乳を揉んで絶叫された病室だった。そして身体が全く動かない。頭もなんかぼーっとしてやがる。
「目が覚めたか? 池田つばめ。あー、多分動けない。だから耳だけで聞いとけ、まず勝手に動くな。あとウチの看護師にセクハラすんな。いいな?」
この声の主、姿は見えないけどプーンと香るあの蒸気タバコの独特な匂い。だるま屋店主。
「卜部さん?」
「おー、今まで治療はしたがお前に認識された事も自己紹介した事もないが、私の事を知ってるのか、まぁそうだ。ここで人間の腹かっ割いて金もらってる」
「医者っていやいーじゃないすか……なんなんですかその言い回し」
この人、卜部さんと同じ声だけど、どことなく卜部さんじゃない感じもする。
「意識はしっかりしてるな。今のお前の状況理解してる?」
「いや、全く。プラーナ発光症が発症したと思ったら気がつくと知らねーベットですよ」
「プラーナ発光症?」
寝ぼけた事を言っている……とかは俺はちょっと今までの展開から思わない事にした。今までの事を卜部さんに説明。
すると……
「謎の奇病が流行って隔離されていたところ、お前もその謎の奇病が発症したと。で、キサラくんとお前さんはルームシェアをしていてセクハラは日常だった。確かに池田つばめの言っている事は夢というにはリアルな話だ。そして精神年齢も見た目通りのように感じる」
さっきから不穏なことばかり言われるので、俺は動きにくい身体を無理させて起き上がった。まず最初に起き上がらなければ良かったというのが俺の卜部さんを見た第一印象。
「わっかぁ!」
「あぁ? これでももう28のアラサーだ」
目の前にいる卜部さんは俺がだるま屋で見た時の容姿より明らかに10歳以上若く見える。だるま屋の卜部さんでも二十代後半から三十代前半だと思っていたのに、これじゃああの卜部さんあ四十代前後という事になる。
「あー、だから歳聞かれるのやたら気にしてたんか」
「なんか腹立つなお前、池田つばめ。22歳。8歳の時に小学校の遠足で来ていたハイキング登山で迷子。上級者コースの崖から転落して意識不明。十四年間植物状態で今に至る。両親は身を粉にして働いていたが、ある日交通事故に巻き込まれて他界、巨額の保険金はお前を治療する為に使われ、そしてついに目覚めた。睡眠学習でもしたのか、目覚めたお前の精神年齢は当時の8歳ではない。なんつーかクソ捻くれたガキに退化してやがる」
「いやいやいや、進化でしょう」
「元々8歳時点から池田つばめという人物がどうしょうもない人間だったと仮定し、今の現状と私の言葉を理解できている時点で相当ヤベェんだよ。しかも理解していながら取り乱す様子もない。お前、誰だ?」
病院の先生の卜部さんは辛辣がすぎる。俺が8歳の時に遠足で足を滑らせた? そんな記憶はどこにもないしそもそも遠足行ったかどうかという事すら覚えていない。
確かに俺の身体は明らかに運動不足がすぎる程に痩せ細っていた。それは不健康、死により近い身体をしていたのかもしれないが、
「あー、不健康な生活とレモンサワーの常飲によって出てた腹が凹んでやがらぁー。まぁ今の状況はある程度理解したんですけど。卜部さんの話す思い出とか俺には全然ないんですよね」
「レモンサワー……お前の父ちゃんか母ちゃんが飲んでたのか?」
「さぁ? 軽い飲酒はしてたかもしれねーですけど、知らないですよ」
「まぁいい。池田の父ちゃん、母ちゃんはお前の為にかなりの資産を残した。リハビリして退院したらどうしていくか考えろよ」
「あー、はー。一応、俺。山手大の学生なんですけどー、まさか大学にも入学してないのか……まぁ、Fランなんで入学しようと思えば余裕っちゃー余裕ですけど」
「山手大? 池田、難関大だぞ。元々お前の親が教育に厳しかったのか、お前が天才だったのかは知らねーけど、まぁお前は小卒ですらねー」
マジか……
「あの、卜部さん……キサラ……さんは俺の中ではルームシェアで一緒に過ごしててーまぁ、その付き合ってたんです」
はい、嘘をつきました。
だってさー。俺、ボケナスのキサラの事ちょー好きだしさー。
「へー、キモいな池田。まぁ目覚めたばっかで混乱してるのかも知れねーからこっから出るなよ。なんか欲しいもんがあったら言え」
「じゃあレモンサワーを」
「買ってくるわけねーだろボケぇ!」
卜部さんは医者なので他の仕事があるわけで、退室していくので当然俺も言いつけを無視して外に出る。金はないけど……まぁなんとかなるだろう。
目指すは売店だ。
あそこは酒が買える。
まず、この身体に必要なものはお上品な栄養じゃねー。あのジャンクで脳を蝕む大人のエナジードリンク、レモンサワー。1階の端に小さなコンビニみたいな感じで経営している売店に俺は入ると、
うぉおお!
税込168円! やっす!
レモンサワーを二つ持っていくと売店の人に、
「203号室につけてください」
「えっ? 無理ですよ」
「くっそなんかねーか、小銭入れ」
キティーちゃんの小銭入れ、これはあれか? この世界のロリ俺が使ってたやつか? 300円入っているのでやむなし1本だけ購入すると、待合のベンチに座って、
プシュ!
「じゃあ、このわけわからん状況にかんぱ」
「池田さん! 何やってるんですかぁ!」
あー、クソエロ、ボケナスじゃないキサラさん登場だわ。
なにこれ?
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