第七話 道士雷太――、月下の山道を奔る!
黒毛の剣神が夜の街で狩りを行ったそのわずか後――、東北地方はとある山岳地帯、名を正しく言うならば岩手山は不動平の西。――そこに
桓武天皇の頃、――あるいは
そこに住まう者たちの主人は、ヒトガタをもって仮想の人間を生むという方式で、道術としての人型ロボットを生み出す――、かの
彼には複数の弟子がおり、現在は他の仙境へ出向したり独立したりしたものが多いが、その中でも最も中核を成す弟子であり長く共にあるのが【
装飾の入った古い椅子に腰掛ける菩典老がわずかに身を震わせる、そして右腕にはめた銀輪の腕輪をもう片手で撫でながら、傍に控える知臣道人に声をかけた。
「紅月子、が……、止まったな」
「止まった? それは……、気絶したとか、そういう話ですかな? 師よ……」
「うむ……」
ゆっくりと頷くその大老を見て、知臣道人は顎に手をそえて眉をひそめた。
「それは……、やはり――。仙境統括が動いたと思って……」
「おそらくは、そうであろう……」
その大老の言葉に知臣道人は深くため息を付いて言った。
「はあ……、なんとも面倒くさいものです。仙境統括も……、師の病状改善に協力もせず、ただ我らの行いに口を出すとか――」
「……仕方があるまい」
そう言って目を瞑る大老を見て、眉を歪めて怒りを示して知臣道人は言った。
「何が仕方がないのですか。……どうせすぐ死ぬ小さな虫と、我らが大老様のどちらが世界にとっての宝であるか、理解などすぐ出来るでしょうに」
「……」
その弟子の言葉にも表情を変化させずに、ただ静かに佇む菩典老。
その姿を静かに見つめながら――、知臣道人はその手に持った書物型宝貝を操作する。
……ぎゃあああ!!
どこからか薄く悲鳴が聞こえてくる。それに気を止めることもなく、さらに書物型宝貝を操作してゆく。
彼らが現在いるその大部屋の奥に展開する、光陣のわずか上に浮かぶ血のように赤い大宝玉が、悲鳴に応じるようにその輝きを増していった。
「あと少しで
そう言って、知臣道人は――、椅子に腰掛けて静かに目をつむる敬愛する師匠にその頭を下げたのである。
◆◇◆
岩手山を目指し七滝登山口から入り、大地獄谷分岐から鬼ヶ城へと至る。
――月下の闇を凄まじい速度で奔る者がいた。それは、敬愛する教主様をその背に担ぐ壮年の大男。
本来、普通に走ることもままならぬ山道にあって、それは高速道路を走る自動車すらも追い抜く速度で駆け抜けてゆく。
そんな彼に不意に追いついてくる黒い影があった。
「やっほ――雷太!! ついでに教主様も!! ……にゃ」
「……わしはついでか」
そう言って雷太の背にあって頬をふくらませる泠煌。その黒い影――、黒毛獣剣神【小玉玄女】は、肩に意識を喪失した男を担いた状態で雷太に並走しながら、朗らかに笑いつつ子供っぽい教主様に言葉を返した。
「ふくれにゃい、ふくれにゃい――。……最近、忙しくて、会いに行けなくてごめんにゃ」
「……ふん、しかし――」
雷太の背の上で、泠煌は並走する小玉玄女をジト目で見つめる。
「……その語尾はなんじゃ?」
「うにゃ? 変かにゃ? ……猫耳娘の語尾は、ナニナニにゃ――、って決まっているにゃよ?」
「……おい、雷太」
いきなり教主様に名を呼ばれて、雷太は困惑顔で眉を寄せる。
「はい? 教主様……、何でしょう?」
「――此奴になにか言ってやれ――」
そう言う、額に怒りマークを浮かべた教主様の言葉に従い、雷太は――。
「小玉玄女様……、その語尾はあまりにセオリーど真ん中過ぎて、もう少し捻ってみたほうが良いかと……」
「ぬお!! ……さすがは最も現代っ子に近い男!! ――勉強になるにゃ!!」
次の瞬間――、雷太は金扇で頭を一発叩かれた。
「お前がボケに回ってどうするか!! ツッコミなしか――、バカ者共!!」
「……す、すみません」
雷太は苦笑いしながら小さく頭を下げた。
「ところで――、その肩の者は……」
「んにゃ? ……ああ、目標の一人だにゃ――。一応生きてるにゃ。個人的には……、っと、今は正義のヒロインだったにゃ」
そう言って笑う小玉玄女が、その肩に担ぐその男を眺めて泠煌は目を細めた。
(ふむ……此奴から何ぞ……)
その様子を見て小玉玄女が首を傾げる。
「なんかあるにゃ?」
「いや……、確証はない。故に秘密じゃ」
「え~~」
不満げに口をとがらせる彼女に泠煌は言う。
「隠し仙境に入ったら――、おそらく宝貝兵器……、力士傀儡による迎撃が来る可能性が高い。小玉玄女は其奴らを相手に陽動を頼む」
「うむ……、いいけど、ウチが中枢に突入しなくてもいいのかにゃ?」
「ああ、お前では緊急時の対応ができない可能性がある――」
泠煌のその言葉に小玉玄女は眉をひそめる。
「……ってことはやはり――」
「ふん……、精々派手に暴れるがよい」
「おっけ~~! だにゃ」
そういうが早いか、小玉玄女は雷太をはるかに超える速度で前方へとかっ飛んでゆく、それを雷太たち二人は見送った。
「……わしの予測が外れであればよいが」
「教主様?」
「うむ……」
泠煌は目を細め、静かにため息を付いた。
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