幕間 かつての会話
花嫁行列が進んでゆく。――それをわしと【師匠】が眺めている。
その花嫁は、かつての【師匠】がわしとともに救った幼子が成長した姿で――。
「いいな――、これを見るために、ああいう人々のささやかな幸せを見るために――、俺は……」
「……そうじゃな。相手の男は師匠のお墨付きじゃしな――」
そう答えるわしに、【師匠】はいつものように【優しい苦笑い】をした。
「……」
「……泠煌? どうした? なんか思うところでもあるのか? ――幸せそうな花嫁姿だろ?」
すこし俯くわしにそう声をかけてくる【師匠】。わしは、少し寂しそうな、羨ましそうな表情で答えを返す。
「うむ、何というか、わしも一人きりで引き篭もっておらねば、誰かとああいう……」
「はあ、お前のそのなりで? ――相手は変態かな?」
そんなわしの言葉に――、【師匠】はなんとも聞き捨てならない、戯けた答えを返した。
「がー、師よ! 言うてはならん事を! 泣くぞわし!!」
涙眼で頬をふくらませるわしに、朗らかに笑いつつ【師匠】は言った。
「はははは! 冗談冗談! そうさな……、そんなにアレに憧れるなら、俺がお前を嫁にでももらってやろうか?」
糞師匠めが――、地雷を踏みおったわ。
「え、あ……」
真っ赤になって俯くわしを見て、狼狽えた様子で苦笑いする【師匠】。
「む……、いかんな、俺ともあろうものが早まった事を言ったか?」
困った様子の【師匠】に――、わしは赤い頬のまま叫ぶ。
「師よ――、それは約束と捉えてよいな!」
「あ、いや――、俺は幼女趣味の変態じゃ――」
その【師匠】の言葉に頬を膨らませながら、わしは【師匠】を追い詰める。
「とりあえず――、いつかその減らず口を黙らせて、いつか必ず師の嫁になってやる!」
「はあ――、まあ、せいぜい頑張ってください――」
ジト目でわしを見る【師匠】に、わしは怒りマークを額に浮かべつつ叫んだのである。
「ムカつく言い方じゃな! 糞師匠!」
◆◇◆
――あれから幾星霜経ったのか?
【師匠】はすでに
老いた【師匠】は、【いつもの、優しい苦笑い】を浮かべて言った。
「ああ、すまん。お前の野望を叶えられなくなってしまって」
「師よ、そんな事……」
【師匠】は苦笑いに憂いを加えながら静かに――弱々しく言う。
「すまん、結局俺は最後まで至らぬ師匠であった」
「そんな事ないわ! わしがどれほど、師から学び、師に救われておるか!」
そう叫ぶわしに、【師匠】はなんとも幸せそうな笑顔で言葉を返す。
「ああ……、そう言ってくれるなら、俺の生涯にも意味はあったな」
そう言って目を瞑る【師匠】にわしは言う。
「まて! まだ諦めるな! まだ手立ては……!」
「
「――師は、二流などではない!」
わしの反論に、優しく笑いながら【師匠】は言う。
「俺は、――弟子であるお前に追い抜かれた程度の男だぞ?」
「それは、師の勉強の仕方が悪かっただけじゃ! なにより、二流仙人を名乗りながら、かの
そんなわしの叫びに、【師匠】はいつもの【苦笑い】で返す。
「はは、アレはまあ俺の命をかけたから、――な」
「そうだとて、師は十分真人に並んでおる――」
そんなわしの言葉に、【師匠】は一言「そうか……」と、それだけを返した。
「わしは師を諦めん! わしはお前を魅了し、いつか嫁になると誓ったのだ! そして、わしから逃げようとする
「それは――」
わしの思うところを聞いた【師匠】は困った顔で笑った。
「それは、俺の全てを――」
「すまん師よ、わしの頭ではここまでだった――」
謝るわしに【師匠】は優しい笑顔を向ける。
「まあ、いいさ、お前はそれでも俺を救いたいのだろ?」
そういう【師匠】にわしは決意の表情で言う。
「ああ……、コレはわしの最後のわがままじゃ――」
「最後、ね、本当に最後かな?」
そう言って戯ける【師匠】にわしは頬をふくらませる。
「むう……」
「ははは、わかった。せいぜい俺は……」
苦笑いをする【師匠】に、わしは笑顔で語る。
「ふん……、二度とこんな事にならぬよう、わしが師匠となって偉大な仙人に育ててみせる!」
そんなわしを【師匠】は静かに見つめる。
「それは楽しみだな……。ああ、
「ふふ、そしてわしの野望は……!」
そんなことを得意げに叫ぶわしに、【師匠】はいつもの【優しい苦笑い】を見せて言った。
「ははは、それはお前の方が変態呼ばわりされる案件だろ――」
そういう【師匠】にわしは――、いつものように頬を膨らませ、怒り顔で言い返したのである。
「今に見ておれ……! ――糞師匠!」
そう――、それは、かつてあったわしと【師匠】の――。
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