泡くて脆い
涙仙 鳳花
泡くて脆い
人間は人生の半分を無駄にしていると思う。
三年前に見ようと思ったすずめの戸締りを未だに見忘れているし、昨日は豆腐を買おうとメモを取ってからスーパーに行ったのに、結局、書いたメモを見直さなかったせいで豆腐を買い忘れた。
おかげで作ろうと思っていた麻婆豆腐が作れなかったし、冷凍庫の中には食べきれない量のアイスが入っている。世の中はこういう人間をADHD と一括りにして呼ぶ人も多くいるらしい。ネットが普及しているこのご時世なのだから仕方ないといえば確かに仕方がない。
そんな世界なのだから、私に付きまとっている山田を責めるつもりもない。
「花江さんって、彼氏とかいるんすか。あー、実はもう結婚してるとか」
こういうデリケートな話題にずけずけと踏み込むことができる人間をノンデリと呼ぶことをここ最近知った。
「彼氏もいないし、結婚もしてない。ましてや子供もいない」
「よかった」
ぶっちゃけ、デリカシーのない話はこの際どうでもいい。ただ、私はこの状況からいち早く逃げ出したい。刺青の入った顔の怖い、所謂、反社とのこの空間を。
「あのさ、山田。私、帰りたいんだけど」
「え、ああすみません。俺、花江さんの邪魔してましたか」
ああ、なんてめんどくさいんだ。
「ううん。そういうことじゃないの。山田と私の二人ならまだ許容範囲なんだけど、こんなガラの悪い人間が大勢もいたら目立つし、仲間だと思われて誰かの恨みを買うのも嫌なの」
「え、二人で会ってくれるんですか!」
私は、使う言葉を少し間違ったみたい。日本語ってなんでこうも難しいんだろう。外国人に同情する。
「あー。まぁ時間が合えば考えるけど、でも二年くらい時間は欲しいかも」
子犬のような目で、顔で嬉しそうに笑っている。困るな、私は小動物に弱い。
泡くて脆い 涙仙 鳳花 @ho_sen_610
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