万能《アレンジ》スキルで異世界生存

霧島悠

第1章 転生編

第1話 転生と爆発音は突然に(前編)

 目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中だった。


 ――いや、正確には「森の中で目を覚ました」こと自体が、すでに異常事態である。


 相原悠真あいはら ゆうま、18歳。理系大学院生だったはずの自分が、なぜか土の上で寝転がっている。


「……え、ここどこ?」


 頭がぼんやりしている。昨夜は研究室で徹夜して、気づいたら……いや、そんなはずはない。目の前に広がるのは、見たこともない巨大な木々と、どこか甘い香りのする草花。


 服装もおかしい。白衣でもパーカーでもなく、見慣れぬ布のシャツとズボン。しかも、腰には小さなポーチがぶら下がっている。


「夢……じゃないよな」


 頬をつねる。痛い。夢じゃない。


 混乱しつつも、理系脳が状況を整理し始める。


(これは……いわゆる異世界転生ってやつか? いやいや、そんなバカな……)


 だが、現実感のなさと、五感の鋭さが妙にリアルだ。森の湿った空気、遠くで鳥が鳴く声、足元の土の感触――すべてが鮮明すぎる。


 とりあえず、持ち物を確認。


 ポーチの中には、小さな水筒と乾パンのようなもの、そして見慣れぬ紙切れ。


『スキルアレンジ』――そう書かれた紙を手に取る。


「スキル……アレンジ?」


 その瞬間、頭の中に何かが流れ込んできた。


 ――スキルアレンジ:習得したスキルを「結合」「変質」「分割」「条件付与」する応用能力。


 まるでゲームのステータスのような情報が、脳内に流れ込んできた。


(え、なにこれ……本当に異世界仕様?)


 混乱しつつも、どこかワクワクしている自分がいる。


 だが、そんな悠長なことを考えている暇はなかった。


 ――ガサッ。


 森の奥から、何かの気配。


(やばい、誰かいる……?)


 とっさに木の陰に隠れる。心臓がバクバクと鳴る。


 盗賊団らしき男たちの声が聞こえてきた。


「この辺に逃げたはずだ!」「見つけたら、ただじゃおかねぇぞ!」


(うわ、テンプレ展開……いや、笑えないって!)


 必死で息を潜める。だが、足元の枝を踏みそうになり、ヒヤリとする。


(落ち着け、俺。こういう時こそ冷静に……!)


 理系的思考で状況を分析。森の地形、風向き、音の反響――使えるものはすべて使う。


 だが、緊張のあまり、思わずくしゃみが出そうになる。


(やばい、やばい、やばい……!)


 なんとかごまかし、盗賊団が通り過ぎるのを待つ。


 その間にも、頭の中では「スキルアレンジ」の使い方を必死にシミュレーションしていた。


(火球魔法と風圧制御……もし使えるなら、組み合わせて何かできるかも?)


 だが、スキルの使い方がわからない。どうやって発動するんだ?


 とりあえず、イメージしてみる。


「火球……風圧……アレンジ!」


 ……何も起きない。


(そりゃそうだよな。ゲームじゃないんだから……)


 だがまた、なぜか分からないが、「火球魔法」「風圧制御」「収納魔法」など、いくつかのスキルの名前や効果が自然と頭に浮かんでくる。


(よし、まずは火球魔法を……)


 手を前に突き出し、集中する。


「ファイアボール!」


 ……何も起きない。


 だが、何度か試すうちに、手のひらがじんわりと熱くなる感覚が。


(おお、きたか!?)


 だが、次の瞬間――


 バチッ。


 手のひらが軽くしびれただけだった。


(……やっぱりドジっ子体質は異世界でも健在か)


 そんな自虐的なツッコミを心の中で入れつつ、再び盗賊団の気配に身を潜める。


 森の中、緊張と不安、そしてほんの少しのワクワク。


 こうして、相原悠真の異世界サバイバルが幕を開けた――。


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