万能《アレンジ》スキルで異世界生存
霧島悠
第1章 転生編
第1話 転生と爆発音は突然に(前編)
目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中だった。
――いや、正確には「森の中で目を覚ました」こと自体が、すでに異常事態である。
「……え、ここどこ?」
頭がぼんやりしている。昨夜は研究室で徹夜して、気づいたら……いや、そんなはずはない。目の前に広がるのは、見たこともない巨大な木々と、どこか甘い香りのする草花。
服装もおかしい。白衣でもパーカーでもなく、見慣れぬ布のシャツとズボン。しかも、腰には小さなポーチがぶら下がっている。
「夢……じゃないよな」
頬をつねる。痛い。夢じゃない。
混乱しつつも、理系脳が状況を整理し始める。
(これは……いわゆる異世界転生ってやつか? いやいや、そんなバカな……)
だが、現実感のなさと、五感の鋭さが妙にリアルだ。森の湿った空気、遠くで鳥が鳴く声、足元の土の感触――すべてが鮮明すぎる。
とりあえず、持ち物を確認。
ポーチの中には、小さな水筒と乾パンのようなもの、そして見慣れぬ紙切れ。
『スキルアレンジ』――そう書かれた紙を手に取る。
「スキル……アレンジ?」
その瞬間、頭の中に何かが流れ込んできた。
――スキルアレンジ:習得したスキルを「結合」「変質」「分割」「条件付与」する応用能力。
まるでゲームのステータスのような情報が、脳内に流れ込んできた。
(え、なにこれ……本当に異世界仕様?)
混乱しつつも、どこかワクワクしている自分がいる。
だが、そんな悠長なことを考えている暇はなかった。
――ガサッ。
森の奥から、何かの気配。
(やばい、誰かいる……?)
とっさに木の陰に隠れる。心臓がバクバクと鳴る。
盗賊団らしき男たちの声が聞こえてきた。
「この辺に逃げたはずだ!」「見つけたら、ただじゃおかねぇぞ!」
(うわ、テンプレ展開……いや、笑えないって!)
必死で息を潜める。だが、足元の枝を踏みそうになり、ヒヤリとする。
(落ち着け、俺。こういう時こそ冷静に……!)
理系的思考で状況を分析。森の地形、風向き、音の反響――使えるものはすべて使う。
だが、緊張のあまり、思わずくしゃみが出そうになる。
(やばい、やばい、やばい……!)
なんとかごまかし、盗賊団が通り過ぎるのを待つ。
その間にも、頭の中では「スキルアレンジ」の使い方を必死にシミュレーションしていた。
(火球魔法と風圧制御……もし使えるなら、組み合わせて何かできるかも?)
だが、スキルの使い方がわからない。どうやって発動するんだ?
とりあえず、イメージしてみる。
「火球……風圧……アレンジ!」
……何も起きない。
(そりゃそうだよな。ゲームじゃないんだから……)
だがまた、なぜか分からないが、「火球魔法」「風圧制御」「収納魔法」など、いくつかのスキルの名前や効果が自然と頭に浮かんでくる。
(よし、まずは火球魔法を……)
手を前に突き出し、集中する。
「ファイアボール!」
……何も起きない。
だが、何度か試すうちに、手のひらがじんわりと熱くなる感覚が。
(おお、きたか!?)
だが、次の瞬間――
バチッ。
手のひらが軽くしびれただけだった。
(……やっぱりドジっ子体質は異世界でも健在か)
そんな自虐的なツッコミを心の中で入れつつ、再び盗賊団の気配に身を潜める。
森の中、緊張と不安、そしてほんの少しのワクワク。
こうして、相原悠真の異世界サバイバルが幕を開けた――。
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