『落ちこぼれの俺だけが神スキル持ちだった件〜クラス全員に捨てられたけど、気づけば最強で世界を救っていた〜』

まさやん

第1話 異世界召喚、その裏で


「──転移、完了を確認」


重々しい声が響いた。


薄暗い石造りの空間。魔法陣の中央に、ひとりの少年が立っていた。

水瀬 悠。高校二年。突然の眩しい光に包まれ、次の瞬間、彼は“ここ”にいた。


(……マジで異世界、ってやつか?)


周囲を見渡すと、同級生たちの姿もあった。

教室ごと召喚されたという話は、よくある創作でしか見たことがなかったが──それが現実になっていた。


壁には、古びたタペストリー。

床には光を放つ魔法陣。

そして、玉座の間のような広間の奥には、王冠をかぶった中年の男が立っていた。


「異界の勇者たちよ。よくぞ来てくれた。我が王国エルメイアは、深き闇に沈みかけている」


演説が始まる。

魔物の脅威、滅びの予言、希望の光──テンプレそのままだ。


ただ、妙な違和感もあった。


(なんだ、この……作られた空気)


王や騎士たちの態度が妙にスムーズすぎる。

まるで、これは“初めての召喚”じゃないかのように。



召喚後、数十分。


俺たちは、“スキルの鑑定儀式”というものを受けさせられた。


魔法陣の中央にひとりずつ立ち、光に包まれる。


「これは、召喚者全員に付与される《自己開示式》という魔法だ」

「自身のステータスとスキルが初期解放されると同時に、王国側の観測装置にも分類情報が表示される。安心せよ、詳細までは見られぬ」


そう、王国側の魔導官は説明した。


(つまり、俺自身は自由にステータスを確認できるけど、王国は“分類”しか見えないわけか)


ただそれでも、“評価”は一方的だった。


「この者、スキル《成長限界》──C判定。支援戦力としても不適格」


ざわめく空気。

見下すような視線。

クラスの中心人物・桐生が、あからさまにニヤついた。


「おいおい、水瀬、お前ホントに限界あるんだな? 一生底辺確定ってワケだ」


「やっぱ無理だったか~、うん、予想通り!」


笑い声が漏れる。


クラスで地味だった俺に、味方はほぼいない。


(……まあ、別に期待してなかったけどさ)


その時、王国の側近が“耳打ち”していたのを見逃さなかった。


「……支援不適格者。訓練区域での基礎鍛錬を提案いたします」


「ふむ……では、その者のみ“実地試験場”へ転送せよ」


“試験場”──そう呼ばれた場所が、すべての始まりだった。



眩しい光に包まれた後、目を開けると、そこは荒廃した石の回廊だった。


(……ダンジョン……?)


重い湿気。遠くで響く水音。

壁には苔が生え、ところどころ瓦礫が転がっている。


「なんだよこれ……訓練ってレベルじゃねぇ……」


その時──背後で“ゴンッ”という重い音が鳴った。


振り返ると、転送直後に開いていたはずの石扉が、音もなく閉まっていた。


「は?」


扉には鍵も取っ手もなく、無言のまま俺を拒絶するようだった。


(いやいや、ちょっと待て。話が違う。俺は訓練用の安全な空間に……)


「──よう、水瀬」


背後から聞き覚えのある声がした。


桐生だった。


その後ろには、数人のクラスメイトがいた。

全員、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。


「いや~悪い悪い。お前だけ訓練用の“表ルート”から外されちゃってさ」


「俺ら、王国の偉い人と話しつけて、“役に立たないやつは処理しとけ”って言われてさ。で──ここ、封印区画。魔物の巣だってよ」


「でもまあ、死んでも“事故”で済むんだからさ? よかったな、穏便に消えてくれて」


「じゃ、達者でなー」


笑い声とともに、彼らは転移魔導具を使って姿を消した。


……そして、俺はこの空間に、ひとり取り残された。



「……ふざけんな」


石の壁に拳を叩きつけた。

痛みが走るが、それすら感覚を麻痺させるには足りない。


(なんで、俺だけ……)


違う。俺が“いらない”と判断されたからだ。

スキル《成長限界》。

──これがすべての元凶。


(でも……これ、ホントにただの“限界スキル”か?)


意識すれば、ステータスウィンドウが浮かぶ。



【スキル:《成長限界》】

分類:成長系スキル/評価:C(非戦闘適性)

備考:成長速度・上限に著しい制限あり



……だが、その下に、うっすらともう一つの行があった。


【封印中:進化条件未達成】


「……これ、なんだ……?」


その瞬間、足元の石がぬめる音を立てた。


(ヤバ──)


振り向いた瞬間、黒い塊が跳ねた。

それは巨大なスライム。腐食性の粘液をまとい、俺に襲いかかってきた。


武器はない。防具もない。

あるのは、石ころひとつと、自分の体だけ。


だが──死にたくない。


必死に飛びのき、壁を蹴って回避。

転がった鉄片を掴み、奴の核と思しき部分に思い切り叩きつける。


ビチャッ──!


黒い体液が飛び散り、スライムは崩れ落ちた。


その瞬間、体の奥から眩い光が溢れた。



【条件達成:《封印スキル》解放条件満たす】

【スキル:《無限成長》が発動しました】



「……なんだと……?」


痛みが、消えていく。

傷が、ふさがる。

体が、強くなっていくのが分かった。


──俺は、スキルを間違えられていた。


《成長限界》なんて嘘だ。

これは、《無限成長》という覚醒型スキルの、ただの“封印”だったんだ。


(見てろよ……王国も、桐生も)


「俺は、ここで終わらない──」



地上の王城。

その片隅、ひとつの魔導具が、密かに警告を点滅させていた。


【封印対象、生命反応確認】

【スキル分類変更:未知カテゴリ《神造分類》に接近】

【観測継続を推奨】


それは、誰にも知られず、“異物”の覚醒を告げていた──


(第2話へつづく)

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