『落ちこぼれの俺だけが神スキル持ちだった件〜クラス全員に捨てられたけど、気づけば最強で世界を救っていた〜』
まさやん
第1話 異世界召喚、その裏で
「──転移、完了を確認」
重々しい声が響いた。
薄暗い石造りの空間。魔法陣の中央に、ひとりの少年が立っていた。
水瀬 悠。高校二年。突然の眩しい光に包まれ、次の瞬間、彼は“ここ”にいた。
(……マジで異世界、ってやつか?)
周囲を見渡すと、同級生たちの姿もあった。
教室ごと召喚されたという話は、よくある創作でしか見たことがなかったが──それが現実になっていた。
壁には、古びたタペストリー。
床には光を放つ魔法陣。
そして、玉座の間のような広間の奥には、王冠をかぶった中年の男が立っていた。
「異界の勇者たちよ。よくぞ来てくれた。我が王国エルメイアは、深き闇に沈みかけている」
演説が始まる。
魔物の脅威、滅びの予言、希望の光──テンプレそのままだ。
ただ、妙な違和感もあった。
(なんだ、この……作られた空気)
王や騎士たちの態度が妙にスムーズすぎる。
まるで、これは“初めての召喚”じゃないかのように。
◆
召喚後、数十分。
俺たちは、“スキルの鑑定儀式”というものを受けさせられた。
魔法陣の中央にひとりずつ立ち、光に包まれる。
「これは、召喚者全員に付与される《自己開示式》という魔法だ」
「自身のステータスとスキルが初期解放されると同時に、王国側の観測装置にも分類情報が表示される。安心せよ、詳細までは見られぬ」
そう、王国側の魔導官は説明した。
(つまり、俺自身は自由にステータスを確認できるけど、王国は“分類”しか見えないわけか)
ただそれでも、“評価”は一方的だった。
「この者、スキル《成長限界》──C判定。支援戦力としても不適格」
ざわめく空気。
見下すような視線。
クラスの中心人物・桐生が、あからさまにニヤついた。
「おいおい、水瀬、お前ホントに限界あるんだな? 一生底辺確定ってワケだ」
「やっぱ無理だったか~、うん、予想通り!」
笑い声が漏れる。
クラスで地味だった俺に、味方はほぼいない。
(……まあ、別に期待してなかったけどさ)
その時、王国の側近が“耳打ち”していたのを見逃さなかった。
「……支援不適格者。訓練区域での基礎鍛錬を提案いたします」
「ふむ……では、その者のみ“実地試験場”へ転送せよ」
“試験場”──そう呼ばれた場所が、すべての始まりだった。
◆
眩しい光に包まれた後、目を開けると、そこは荒廃した石の回廊だった。
(……ダンジョン……?)
重い湿気。遠くで響く水音。
壁には苔が生え、ところどころ瓦礫が転がっている。
「なんだよこれ……訓練ってレベルじゃねぇ……」
その時──背後で“ゴンッ”という重い音が鳴った。
振り返ると、転送直後に開いていたはずの石扉が、音もなく閉まっていた。
「は?」
扉には鍵も取っ手もなく、無言のまま俺を拒絶するようだった。
(いやいや、ちょっと待て。話が違う。俺は訓練用の安全な空間に……)
「──よう、水瀬」
背後から聞き覚えのある声がした。
桐生だった。
その後ろには、数人のクラスメイトがいた。
全員、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
「いや~悪い悪い。お前だけ訓練用の“表ルート”から外されちゃってさ」
「俺ら、王国の偉い人と話しつけて、“役に立たないやつは処理しとけ”って言われてさ。で──ここ、封印区画。魔物の巣だってよ」
「でもまあ、死んでも“事故”で済むんだからさ? よかったな、穏便に消えてくれて」
「じゃ、達者でなー」
笑い声とともに、彼らは転移魔導具を使って姿を消した。
……そして、俺はこの空間に、ひとり取り残された。
◆
「……ふざけんな」
石の壁に拳を叩きつけた。
痛みが走るが、それすら感覚を麻痺させるには足りない。
(なんで、俺だけ……)
違う。俺が“いらない”と判断されたからだ。
スキル《成長限界》。
──これがすべての元凶。
(でも……これ、ホントにただの“限界スキル”か?)
意識すれば、ステータスウィンドウが浮かぶ。
⸻
【スキル:《成長限界》】
分類:成長系スキル/評価:C(非戦闘適性)
備考:成長速度・上限に著しい制限あり
⸻
……だが、その下に、うっすらともう一つの行があった。
【封印中:進化条件未達成】
「……これ、なんだ……?」
その瞬間、足元の石がぬめる音を立てた。
(ヤバ──)
振り向いた瞬間、黒い塊が跳ねた。
それは巨大なスライム。腐食性の粘液をまとい、俺に襲いかかってきた。
武器はない。防具もない。
あるのは、石ころひとつと、自分の体だけ。
だが──死にたくない。
必死に飛びのき、壁を蹴って回避。
転がった鉄片を掴み、奴の核と思しき部分に思い切り叩きつける。
ビチャッ──!
黒い体液が飛び散り、スライムは崩れ落ちた。
その瞬間、体の奥から眩い光が溢れた。
⸻
【条件達成:《封印スキル》解放条件満たす】
【スキル:《無限成長》が発動しました】
⸻
「……なんだと……?」
痛みが、消えていく。
傷が、ふさがる。
体が、強くなっていくのが分かった。
──俺は、スキルを間違えられていた。
《成長限界》なんて嘘だ。
これは、《無限成長》という覚醒型スキルの、ただの“封印”だったんだ。
(見てろよ……王国も、桐生も)
「俺は、ここで終わらない──」
◆
地上の王城。
その片隅、ひとつの魔導具が、密かに警告を点滅させていた。
【封印対象、生命反応確認】
【スキル分類変更:未知カテゴリ《神造分類》に接近】
【観測継続を推奨】
それは、誰にも知られず、“異物”の覚醒を告げていた──
(第2話へつづく)
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