第17話 元勇者のおっさんは会議に参加するそうです
王立研究所第一会議室。
何百人規模での集会が出来る広さを誇るそこにノルバ達は最後に入室する。
「ごめんなさい。お待たせしたわ」
「いえ、ちょうど他のメンバーも集合を終えたところです」
集められているのは王国兵と冒険者。顔ぶれの殆どがダンジョン攻略の時と同じだ。魔族、ひいては魔王との戦闘になるのだ、強者でなければ声がかからないのは当然の事。とは言ってもここにいるのは多くて四十前後あの時の十分の一にも満たない。
そんな見覚えのある顔ぶれの中、ノルバは最も見覚えのある人物を二人、そしてもう一人発見する。
「ノルバ。適当に座っときなさい」
アーリシアに言われるまでもなく横一列階段状に設けられた席を練り歩いて行く。
そして一つの席に彼は腰を下ろす。
「やはりアナタも呼ばれていたか」
「よろしくお願いします」
「あぁ、頼む」
手短にシャナとエルノに挨拶を済ませると、早速壇上に立ったアーリシアが話を始める。
「皆様、お忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。聡明な皆様なら既にご存知かと思われますが、昨今出回っている奴隷の首輪から魔族しか持ち得ない魔導回路が発見されました」
場内がざわつく。
隣同士顔を見合わせる者、頭を抱える者、腕を組み静かに話を聞く者。反応を見るに彼女の発言とは裏腹に集められた理由を知らない者が多くいる。
そしてそれはシャナにも当てはまっていた。
「……魔族が生きている……だと」
声荒げるでもなく淡々とその事実に驚愕するシャナを他所にバンッと叩かれ一人の男の兵士がもの申す。
「あり得ない! 魔王は勇者ノルバによって討ち滅ぼされた。それに伴い魔族の全ては消滅した筈だ! 王国が嘘をついていたと言うのか!?」
言葉からタチの悪い冗談だと言ってくれという想いが滲み出ている。
しかしアーリシアは言葉を聞き終えると、静かに顔を上げる。
「今言った事が事実よ。そしてそれが全て」
「そ……そんな……」
男の兵士は受け入れがたい真実に力無く座り込む。
収まりきらぬ動揺の中、アーリシアは努めて平静を装い話を続ける。
「魔族が生きているならば魔王がまだこの世に存在している事になる。この世界は平和になった。平和になろうと努力をしている。それにもかかわらずそれを邪魔するバカがいた。そんな事は許されない。だから今日、ここにいるメンバーでこのくそったれな道具を作ったライオネットアイ商会の全面調査を行うわ」
彼女の言動に賛同と
しかしそれは一部からのみ。殆どの者が未だ衝撃の事実を受け入れられないでいる。
「だったらもっと数を集めるべきです」
若い冒険者が挙手し発言する。
頷く者多数。
だがアーリシアはバッサリとその発言を斬り捨てる。
「ダメよ。数を集めている間に逃げられたらどうするの? それに今や奴隷の首輪は国外全域とも言える範囲で広がっている。下手に協力を仰げば魔族と繋がりのある者にも情報が渡ってしまう。ここに集められた潔白を保証された精鋭だけで成し遂げるしかないのよ」
ぐうの音も出ない説明に、だが若い兵士は食らい付く。
「ですがそれでは人死にが増えてしまいます! 魔族だって相当な脅威だ! ボクは無駄死にする為に生きている訳じゃない!」
アーリシアが一時黙る。
するとそれまで動揺したり沈黙していた人々が追従するかの様に声明し始める。
「そうだ! 我々は使い捨ての駒ではない!」「私達にも守りたいものがある!」「俺は降りるぜ。リスクがデカすぎる」「もっと
どんどんと広がっていく混沌の渦は収まるところを知らない。
このままでは調査どころではなくなってしまう。
「お前らいい加減に……―――」
ノルバが
「いいわよ。降りたければ降りなさい」
異様なまでの落ち着き。
傍目に見ればそう捉える者ばかりだろう。だがノルバだけが知っている。彼女のこの状態はぶちギレているのだという事を。
「けどこの調査は機密案件。事が収まるまでは幽閉させてもらうわ。それと万が一魔王が復活していて調査に赴いていた者達が死ねばアナタ達の存在を知る者はいなくなる。外に出れた頃には守りたかったものは全部なくなっているでしょうね。それでも良いなら止めはしない。背を向けて世界の滅亡を指を加えて見ているか、それとも命を
淡々と紡がれていく事実の可能性に慌ただしかった人々は言葉を失う。
間違っていないと思った全てを否定された。大きく抉れた傷に手を入れ込む外道行為に涙さえ出ない。
「ダメだ。それはダメだ」
ポツリと呟かれた言葉は連鎖していく。
守るべきを守る為にここで命を懸けなければいつ懸けるのか。全てが終わった後、見る景色が美しいものである為に。未来に繋ぐ為に。
「私は……戦う」「クソッ! やってやるよ!」「そうだ。家族を守れるのはボクだけなんだ」「やりゃあいいんだろ!? やりゃあ!」「分かりました! やりますよ!」「死ななければいいだけの話だ」「あの子の為にも……」
総意が
ノルバは安堵し頬を緩ませながら腰を下ろす。
これで後は調査に赴くだけだ。
誰も知らない世界の存亡を懸けた戦いが今一度始まろうとしていた。
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