灰色の世界で、魂の谺を聞いた
- ★★★ Excellent!!!
現代の日本を模して描かれた「日元国」。
この国は隣国からの静かな侵略によって、文化や国土、そして人々の誇りが少しずつ蝕まれていました。
誰もがその息苦しさに気づきながらも、分厚い雲のような閉塞感に、声を上げることすら忘れてしまったかのような時代。
そんな国の政治の中枢に、たった一人で乗り込んできた青年の名は、大和。
彼が銃口を向けた相手は、この国のトップ、川波総理。
国民からは売国奴と蔑まれ、冷笑的な答弁を繰り返す、腐敗した権力者。
大和が突きつける未来の真実は、彼が権力という分厚い鎧の下に隠してきた弱さ、後悔、そして忘れかけていた人間性を容赦なく暴いていきます。
川波総理は、生粋の悪ではありません。
巨大なシステムの歯車の中でいつしか理想を見失い、保身のために「選ばない」という選択を重ねてきた、一人の弱い人間。
しかし、大和という鏡に映し出された自らの罪と、遠い日に聞いた一人の少女の純粋な願いの記憶に直面した時、彼の魂は激しく揺さぶられます。
絶望的な状況下で、恐怖に震えながらも自らの尊厳を取り戻そうとする彼の姿は、とても人間味に溢れていました。
過ちを犯した人間が、それでも最後にどう在りたいかを問いかける、痛切な魂の告白のようでした。
ひとつの声が、凍てついた世界にどれほどの熱を灯せるのか。
本作は、その問いの答えを私たち読者一人ひとりに委ねてきます。
胸に残るのは爽快感ではなく、ずっしりと重い感情。
これは、私たちが生きるこの世界のどこかで、今まさに起きているかもしれない物語。
自分の無力さに虚しさを感じている人にこそ読んでほしい。
きっと、心の奥深くに眠る何かが、静かに目を覚ますはずです。