弾丸の向こう側 ──俺は撃つ!国を売った総理と、灰色の未来を!
ジュン・ガリアーノ
前撃 議事堂ブレイカー
──灰色の未来を、
決して”今“にしない為に。
ここは、日本とよく似た世界の国会議事堂。
文化も取り巻く世界情勢も同じだ。
国会議事堂内の薄くて冷たい空気の中を、俺は黒いジャケットを羽織った姿で、静かに歩いている。
無論、のんきに見学とかで来たわけじゃない。
むしろ逆だ。
俺はこの景色が、自らの墓標になる覚悟でここに来ている。
───必ず変えて……いや、守ってみせる。この国のみんなと……
廊下を踏みしめる一歩一歩が重く感じ、ドクドクと波打つ心臓の鼓動が全身に緊張感を巡らす。
”ヤツ”がいる本会議場まで後少しだ。
その緊張感と共に辿り着いたのは、国会議事堂内にある”本会議場”の入口。
目の前にある装飾された分厚い扉の前にすると、全身によりグッと力がこもる。
この扉の向こうはこの国の中枢。
総理を含めた450名の議員達が、国会という議会で法律や予算を決める場所。
今はその国会の真っ只中だからだ。
同時に扉の向こうから、壇上で様々な質疑に答弁する総理の声が聞こえてくる。
「えー、質問にお答えいたします。我が国は引き続き“華震国“との友好関係を……」
空虚な言葉だ。
ヤツの言葉には何の熱も誠意も感じられない。
この“日元国“の国民たちを想う数少ない議員たちが、心を賭した幾つもの真摯な訴えをぶつけているのにも関わらずだ。
「華震国民に国有地を買われて……いや、奪われている事について、総理はどうお考えですか?! これは、明らかな侵略ですよ!」
──えー、それにつきましては、適正な売買だと認識しております。適正に行われている以上、そこに介入するのは慎重にしなければいけません。ましてや、侵略などといった妄言は、お控えしていただきたくようお願いいたします。
「移民の過剰な受け入れについては、いかがお考えですか?! 彼らは日本の習慣に従わず、文化を……住民の生活を壊していってるんですよ!」
──それにつきましては、断定出来る事だとは認識しておりません。えー、今仰られたのは極めて主観的なご意見であり、また、それを聞き入れる事は、差別に繋がる恐れもあると考えております。
「給付金について、一般家庭には2万円で非課税世帯には4万円。それに加え、議員には10万円というのはどうなんですか?! 議員である自分はそんなのいりませんよ! むしろ恥です! そもそも2万で票を買おうとしてるんじゃないですか?!」
──給付金の配分につきましては、昨今の社会情勢を充分に鑑みた上で、国民の皆様一人一人に適正な金額を考えた結果でございます。また、今仰られた“票を買う“というような気持ちは、私どもには一切ございません。えー、全ては物価高による国民の皆様の生活を守りたいという、純粋な気持ちから行っていくものであります。
まったく、聞いてるだけ胸糞悪くなる答弁だ。
ヤツは終始こんな具合にのらりくらりと答弁し、正面から向き合おうとしない。
また、日元国民の主食である“神米“を外国に売り渡し、国民には期限が大幅に過ぎた“
さらには、遺族年金を2500万円の内、約2000万円をカットする事も決定した。
民間の保険がこんな事をしたら、完全な詐欺として訴えられてもおかしくないレベルだ。
なにより、隣国である華震国に対する
さっき議題に上がった“侵略“に関してもそうだが、華震国の人間に対しては運転免許証の許可も信じられないほど甘く、ひき逃げに関しても無罪になる始末。
華震国の人間は“反日元国教育“を受けて育っているので、元々横暴でマナーも悪い。
しかし先日そんな華震国の人間に対し、総理はなんと“猟銃所持の許可“まで出したのだ。
「総理! 彼らにあんな物を持たせて、いいと思っているんですか?! 彼らが本国の命令を受けて立ち上がったら、とんでもないことになりますよ! 華震国が“エイグル国“で起こした虐殺をご存じでしょう!」
この議員が叫んだ通りなのだが、ヤツはこれにもまるで耳を貸す素振りはない。
──えー、それにつきましては厳正な審査の上で行っておりますので、問題は無いと考えております。また、エイグル国の事に関して言及するのは内政干渉に当たる可能性がございますので、ここでの回答は控させていただきます。
……もう、うんざりだ。
ヤツはこの日元国をよくしようなど、一かけらも考えていないのがハッキリと伝わってくる。
いや、むしろ日元国の民族を滅ぼそうとしている。
───くそっ……! なのに、この”やり直しの5年間”でも、俺は……何も変えられなかった!
とてつもない怒りと悔しさ、そして、その炎から立ち昇る煙が俺を絶望で覆う。
分厚い扉の前で、俺はギュッと目を閉じ全身を震わせた。
このままでは、”また”あの出来事が起きてしまうから。
───けど、だからこそ俺はやるしかないんだ。この国に灰色の未来をこさせない為に!
俺はその決意と共に分厚いドアを全力でドンッ! と、蹴破り、警備員を突き倒して傍聴席に突入すると、そのまま本会議場にザッ! と、飛び降りた。
あまりに突然の出来事に、皆目を大きく見開いたまま口を開け、声も出ない。
その一瞬の隙を突き、俺は胸ポケットから拳銃を素早く取り出しジャキッと構えた。
額にジワッと汗を滲ませたまま、俺はただ一点だけを強く真っ直ぐ見据えている。
もう、引き換えす事は出来ない。
だがそんなの、端から覚悟の上だ。
「……川波いいいいいいいい─────っ!!!」
そんな俺に、一人の議員が震えながら指を差し向けてきた。
「キ、キサマ! な、何をしている! そのお方が誰だか……分かっているのかああああっ!!!」
国会開催中の国会議事堂に、恐怖のこもる怒声が響き渡った。
その声が俺の耳を激しく貫く。
だが俺は動じない。
視線も一切ぶらさず、両手で拳銃を構えている。
強く見据える先にいるのは警備員でもなければ、ただの国会議員でもない。
この国『日元国』のトップに君臨する男。
すなわち『総理大臣』”川波 徹”だ。
───川波っ……コイツのせいで、俺は……俺たちは───!
俺は燃えたぎる怒りと哀しみを瞳に宿し、ヤツを見据えている。
コイツこそが日元国を破滅に追いやる……いや、”破滅させた”男だからだ。
もうすぐ起こってしまう、あの血と硝煙の立ち昇る“Xデー“の日の惨劇を、俺は“忘れた事“はない。
けれど、川波も”総理”という名にはふさわしい男なのか。
立ったまま俺を強く睨みながらも、逃げる素振りは見せない。
重苦しく緊迫した空気が場を支配する中、ヤツはゆっくりと口を開く。
「見た所まだお若いようだが、キミはその銃で……私を、撃つつもりか」
低く、粘りつくような声が這い寄ってくる。
まるで、足元からにじみ出た汚水が、俺の体を絡め取っていくような感覚。
それが俺をより苛立たせる。
───くっ、ふざけやがって……!
ヤツの言葉には”魔力”のような物が宿っているように感じてしまう。
恐らくそれは、ヤツ自身というよりも”総理”だからこそ宿る物なのだろう。
また何より、ヤツが”信じている物”が余裕を生み出しているに違いない。
だがそうであっても、俺はここで臆するわけにはいかないんだ。
───もう、あんな”灰色の未来”は二度と見たくない! 俺が必ず……止めてみせる! その為には……!
俺は銃を突きつけたまま、川波に告げる。
「もうすぐ来る2027年6月25日、この日が何か”知って”いるだろ」
その瞬間、川波はそれまでの余裕から一変し、目をギョロッと見開いた。
ヤツの瞳に驚愕の色が差す。
「なっ?! キミは何を……!」
また、川波の側近達も同じだ。
特に外相の『石屋』という男はそう。
信じられない物を見るような眼差しを俺に向けてきた。
そんなヤツらの視線を一身に受けながら、俺は込み上げる怒りを胸に静かに続ける。
「とぼけてもムダだ。俺は、この身を持って知っているんだ。2027年6月25日に、この国が……日元国が滅ぶことをな!!」
俺の魂からの想いと”真実”が国会内に響き渡った。
また、この叫びは国会中継の電波により全国へ流れている。
華震国に内側から侵略された国営放送局『MHK』は放送を即打ち切ろうとするだろう。
けど、そこは俺の仲間達がきっとやってくれるハズだ。
そこに一瞬想いを巡らせた瞬間、俺の無線イヤホンから声が聞こえてきた。
「大和、こっちは問題ないわ!」
イヤホンの向こうの声は”望月 桜”という、俺の仲間だ。
桜は元気よく俺に告げると、一瞬の間を置き俺に告げてくる。
「……だから、必ず、生きて、帰ってきて……!」
イヤホン越しだから桜の姿は見えやしない。
けど、まるで側にいるようにハッキリと感じてしまう。
凛とした強さと優しさを持つアイツが、桜が、瞳に溢れ出てくる涙を必死にこらえている姿が。
もちろん、俺だって帰れるもんなら無事に帰りたい。
桜の事を全身で抱きしめてやりたいさ。
普通に仕事に行って愛するヤツと一緒に暮らせれば、本当はそれでいいんだ。
───けどそれはもう、決して……
俺は心に浮かんだ”犠牲にしなきゃいけない未来”を振り払い、涙をこらえて桜に告げる。
「お前を産んでくれた澪と、耕助の野郎にもよろしく伝えてくれ」
「大和……!」
「桜、幸せになれよ」
「大和! 私はアナタを…」
桜がそこまで叫びを上げようとした瞬間、俺はイヤホンを切った。
今から死ぬ俺に、アイツの愛を受け取る資格なんて無いからだ。
───桜、お前は生きて、別の誰かを愛してやってくれ。俺は、それでいい。
心で桜にそう告げると、俺はより強く揺るがぬ覚悟と共に川波を見据えた。
もう、決して振り返らない。
俺が見るべき物は幸せという”幻想”じゃなく、最悪の危機に瀕している”現実”なのだから。
「フンッ……呆けた顔しやがって。いくら隠そうとしてもムダなんだよ」
「なんだと……?!」
イラッと顔をしかめた川波。
それを見据えたまま、俺は一瞬ギリッと歯を食いしばった。。
「今さっき言ったように、俺は”身を持って”知ってるからだ……!」
俺の言葉に川波はもの凄く動揺し目を泳がせながらも、苦笑を浮かべている。
「ハッ……ハハッ。何を言うかと思えば”知っている”だと。バカな。キミの盲言など私は知らない。この神聖なる国会を侮辱するのもいい加減に…」
川波がそこまで言いかけた時、俺は拳銃を構えたまま、片手でポケットからとある物を取り出し、目の前で見せつけた。
「盲言? 川波……これを見ても、まだそんなセリフが吐けるのか?」
「なっ?! そ……それはまさかっ───?!」
ありえない”それ”を目にした瞬間、川波はズズッと後ずさりし、体を小刻みに震わせてゆく。
それも当然だろう。
今俺がヤツに突きつけた”赤いカード”は、ごく限られた人間のみしか持っていないからだ。
「そう……これは、華震国と”密約”を交わした政治家や官僚達しか持てない、金空龍の装飾が施されたレッドカードだ。じゃあなぜ、俺がこれを持ってるか分かるか……」
「だ、誰かから、奪ったのか?!」
「はんっ……どうやって”これ”を奪うんだよ」
軽い失笑交じりと共に、俺はカードをくるっと裏返した。
その裏に印字されてる文字を見た川波は、大慌てで隣の議員に告げる。
「い、今すぐ私の秘書に連絡して”アレ”が無事か確かめろ!」
「は、はいっ!」
命じられた議員は、そこから一分後に悲壮な顔を川波に向けた。
額にジワッと冷や汗を滲ませている。
「ほ、保管庫に、あるそうです……」
「バカな?! なら……ならば、なぜヤツは持っているんだ!? ”私の”レッドカードを!」
激しく焦る川波の足元に、俺はヤツのレッドカードをサッと放り投げた。
「簡単な理屈さ。これは”あの日”にアンタが持ってたもんだからだ」
「ど、どういう…」
「フンッ、もう分かってんだろ。俺は……未来からタイムリープしてきたんだよ!」
未来で起こった”あの日”の出来事を思い出しながら、俺はヤツに伝えてゆく。
2027年6月25日に起きた”Xデー”の事を……
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