Ⅳ-Ⅲ 遠野孔洋



 *四月一九日 金曜日 学生寮



「今日は、曇りですか……」

 今日は目覚まし時計が鳴るよりも前に起きてしまった。

 開けたカーテンの隙間から、空を見上げる。

 どんよりとした雲に太陽が覆い隠されていて、辺りが灰色がかっているようだ。

「さて、準備をしましょう」

 今日は週の最後の金曜日。

 時計の針が、起床時間に近付いていた。

 僕はかけておいた制服をクローゼットから取り出し、着替える。

 今日は気分を変えて早めに学校へ行こうか。

 そんなことを考えながら、自室を後にする。

 まだ通学時間には早いせいか、寮の廊下には誰もいなかった。

 特にイベントが有るわけではないのだけれど、なんだか特別な気分だ。

「ん……?」

 廊下にある窓ガラスの向こう。

 まだ薄暗い中庭に、見知った影を見つけた。

「綾織先輩……?」

 手入れされた芝生の上を、部屋着姿の綾織先輩が一人で歩いているのだ。

 こんな時間に……散歩だろうか。

 それとも……。

「どこかから……帰ってきた……?」

 頭の中の考えが、声になって口から吐息と共に吐き出される。

 それでは……一体どこから……。

「!」

 その時、わずかに開いた窓の隙間から、カラスの大きな鳴き声が聞こえた。

 僕はハッと我に返り、窓から離れる。

 ずっと見ていたりしたら、先輩に見つかってしまうかもしれない。

「いえ……別に、悪いことをしているわけではないのだから……見つかったとしても特に問題はない……ですよね……」

 いつだったか……夜、どこかへ向かう綾織先輩の姿を見たことを思い出す。

 昨日も夜にどこかへ行って……そして朝方に戻ってきたのだろうか。


『そ。寮の部屋で麻雀賭博したり……あ、最近だと、夜な夜な女子寮に住んでる生徒の部屋に通ってるって噂も聞いたことあるよ』


 そういえば、小鳥遊くんがそんなことを言っていたっけ。

 女子寮に通っている、ということは……もしかして、お付き合いしている人がいるのだろうか。

「…………」

 いや、僕には全く関係のない話だ。

 全く関係のない話なのだけれど……。

 なんとなく気になってしまうのは、綾織先輩にそういうイメージがないからだろうか。

 それとも……。

 また別の理由があるのだろうか……。



 *四月一九日 金曜日 並木道



「四季!」

 学校へ行く道の途中で、名前を呼ばれた。

 振り返るとそこには、大きく手を振りながら走ってくる孔洋先輩の姿があった。

「あ、孔洋先輩! おはようございます」

「おっす! 何か雨降りそうだな」

 孔洋先輩は僕の隣で歩く速度を緩めると、天気が崩れそうな空を見上げた。

 僕もそれにつられて目線を上に向け、しばらく風に運ばれる雲を見つめる。

「四季、どうした? ボーっとして」

「え……? い、いえ。なんでもありません」

 僕が慌てて否定すると、孔洋先輩はいつもの笑顔に戻る。

「そういやオマエ、昨日シュウと会ったんだって?」

「シュウ……あ、神田さんですね! そうです。東口側の大きな公園の前でたまたま会ったんですよ」

「なるほど……アイツ、駅前を避けてちょっと遠い方のペットショップ行ったんだな」

 孔洋先輩は少しだけイジワルな顔をする。

「そういえば、会いたくない方がいるって仰ってました」

「お。そうそう。レンちゃんっていう……キツめの美人な。去年の冬に色々あったらしいぜ」

「あ……」

 なるほど、神田さんが会いたくないと言っていたのはのは女性だったのか。

 神田さん、凄く格好いいから……孔洋先輩の言う通り、色々……というのも納得できてしまう。

「あ、そうだ。そのシュウから伝言。今日の夜、一八時に駅前東口にあるロータリー前で来てくれだってさ。いつの間にか仲良くなったんだな、オマエら」

 孔洋先輩の言葉に、僕は自然と笑みが溢れる。

 そうだ、今日は神田さんと夕飯を一緒に食べる約束をしているのだ。

「分かりました。連絡ありがとうございます」

「で……だ。ここからはまた別件」

 孔洋先輩は少し不安な色を瞳に宿しながら、僕の方を見る。

「なあ、四季。オマエ、明日……土曜日の夜って、何か予定入ってるか?」

「いえ、特に何もないです」

「よっしゃ!」

 僕が首を振ると、まるで子供のように喜ぶ。

 そして次は、僕の両手をぎゅっと握った。

「また、あの路地裏でライブやるんだ。特等席用意しとくから、ぜひ来て欲しい!」

「え……! いいんですか……!」

 まさかこんなに早く、孔洋先輩のライブが見れるなんて思ってもみなかった。

 しかも、先輩直々に声をかけてくださるなんて……!

「もちろんだぜ! オレ、金ねーからこの位しかできないけど……オマエのために全力で演奏するから!」

 まっすぐな瞳に見つめられ、僕は嬉しくなってしまう。

「絶対に行きます!」

「よっしゃ!」

 孔洋先輩は大きくガッツポーズをすると、無邪気な笑顔を僕に向けた。

「それじゃあ、明日……一七時に開演だからな!」

「はい! 楽しみにしています!」

 僕の返事を聞いた先輩は、本当に嬉しそうだった。



 *四月一九日 金曜日 教室



「おはようございます」

 教室に入ると、小鳥遊くんと浅倉くんがこちらに気付いて微笑んでくれる。

「はよ」

「おはよぉ……」

 後ろを向いていた小鳥遊くんは僕の机で頬杖を付きながら、珍しく眠そうに目を擦っていた。

「寝不足ですか?」

 僕は荷物を整理しながら、小鳥遊くんの顔を覗き込む。

「そうなの。聞いてよ四季くん。昨日の夜、サラがね……」

「ねえ、宮守くん。このガチャ、引いてくれない?」

 僕と小鳥遊くんの会話に、浅倉くんがサッと割り込んでくる。

「ちょっと、響くん! なんで話の邪魔するのっ」

「え? 朝から惚気話なんか、聞きたくないから?」

 浅倉くんは大きな目をパチパチさせながら、不思議そうに小鳥遊くんの問いに答える。

「むーっ! 惚気じゃないもん!」

 小鳥遊くんは風船のように大きく頬を膨らませる。

 しかしすぐに、電池が切れたオモチャのように、僕の机に頭を落とした。

「何かあったのですか?」

「うん……昨日の夜から、サラと連絡取れなくって……」

「え……!?」

「ちょっと……それって、大丈夫なの?」

 浅倉くんが携帯電話から視線を上げ、小鳥遊くんを真剣に見つめる。

「まあ、サラのことだから寝落ちしたとか、寝坊してるとか……たまーにあるから、そんな深刻な状況ではないと思うんだけど……」

 そこで小鳥遊くんは、欠伸を一回挟む。

「これが、昨日来た最後のメッセージ」

 僕達に携帯電話の画面を見せてくれる。


 『少し気になることがあるので、これからちょっと出かけてくるね。アズは病み上がりなんだから、ゆっくり休むこと。終わったらすぐに連絡するから』


 受信時刻は一八時三五分だ。

 決して遅い時間ではないけれど……それでもその時間から連絡が取れなくなるというのは、確かに不安だ。

 浅倉くんはそのメッセージを読むと、思考モードに入る。

「一番いいオチは、そのメッセージを送った後に用事を終えてから、明け方近くに家に帰って来て……そのまま寝落ちしたってパターンだけど……」

 そこで一旦言葉を切る。

「一番悪いオチは、その時間に出かけて、何かの事件に巻き込まれて、家に帰れないまま……連絡が取れない状況にいるってトコかな」

「か、考えないようにしてたのに……っ!」

 浅倉くんの一言に、小鳥遊くんはガバッと顔を上げる。

「ボク、居ても立っても居られなくて……さっきから、事情を知ってそうな人に片っ端から連絡してたんだけど……。みんな、サラとは会ってないって言われて……」

「位置情報は?」

「電源、入ってないみたい」

 浅倉くんの問いに、小鳥遊くんは力無く答える。

「親御さん達はご存知なのでしょうか?」

「そうか。恋人なんだから家知ってるでしょ?」

 浅倉くんは僕に賛同するように言葉を続ける。

「サラ、家の離れに一人で住んでるんだ。両親とあんまり仲良くなくて……だから下手にボクが騒いで、余計に関係を拗らせるワケにはいかなくて……何もなければ波風立てる必要はないから……」

 小鳥遊くんはまつ毛を伏せながら肩を落とす。

「サラのことだし。ボクが心配し過ぎてるだけって気もするけど……でも、最近変な事件が多いし。っていうか、それを調査しているわけだし……何があってもおかしくないっていうか……」

 小鳥遊くんの声がどんどん小さくなっていく。

 思い過ごしであればいいのだけれど……。

 僕達の会話が止まったところで、担任の先生が入ってくる。

 いつも通りの猫背のまま教壇に立ち、そして特に重要でもない連絡をつらつらと並べていく。

 小鳥遊くんはその間も不安そうな表情のまま、何度も携帯電話を確認している。

 しかし成瀬川先輩の安否についての情報は、お昼になっても届くことはなかった。



 *四月一九日 金曜日 学食



 僕はいつも通り学食でパンを買い、先輩達の待つ席へと向かう。

「あ、四季くん」

 僕が近付くと、恭次先輩が顔を上げた。

 先輩達はいつも通りの席に座っていたのだが、なんとなく空気の重さを感じる。

「四季くんは知ってる? 成瀬川の話……」

 恭次先輩は僕の方を見るなり、一番に口を開く。

 僕は何も言わずに小さく頷いた。

「そっか……四季くんのクラスには成瀬川の恋人がいるんだもんね……」

「オレもついさっき、バイト仲間から聞いてびっくりしたぜ。まだ見つかってないんだってな」

「ケータイも繋がらないって話みたいだが……」

 孔洋先輩と桃矢先輩もそれに続く。

「…………」

 唯一というかやはりと言うべきか、綾織先輩だけはその話題を耳に入れるだけで、一人黙々と食事を続けていた。

「同じクラスの小鳥遊くんが必死に情報収集をしているようなんですが、未だに何も分からないみたいで……」

「警察には?」

 恭次先輩が現実的な捜索方法を尋ねてくる。

「成瀬川先輩が行方不明になったことを、まだ両親はご存知ないみたいなんです。時間の問題かとは思いますが……まだそこまで話は進んでいないようで……」

「まあ、成瀬川って結構ボーッとしてるし……家に帰らないのも珍しいことじゃないみたいだしな。俺達が気にしすぎてる……って可能性もあるけど……」

 平倉先輩は小鳥遊くんと同じ意見のようだ。

 中学からの付き合いだから、色々な過去を知っているのかもしれない。

「それでも、最近の事件の件もあるから……大丈夫という決めつけは危険かもしれないね」

「それじゃあ、みんなで探した方が……」

「何の手かかりもないのに?」

 孔洋先輩の提案に対して、恭次先輩は静かに首を振る。

「こういうのは二次遭難の可能性を考えて、プロに任せた方がいいよ」

 恭次先輩の意見はもっともだった。

 僕達は特に、捜索能力に長けた魔法を持っているわけでもないのだ。

 しかもまだ、辺りで起こっている物騒な事件は解決していない。

 危険な目に遭う可能性を常に視野に入れないといけないのだ。

「平倉」

 会話が途切れたところで、第三者の声が入り込む。

 僕達は全員そちらへ顔を向けた。

「生徒会長さん……」

 そこに立っていたのは、恭次先輩のお兄さんである、生徒会長さんと宮村先輩だった。

 どうやら桃矢先輩の名前を呼んだのは生徒会長さんの方らしい。

 宮村先輩は生徒会長さんの後ろでにこやかに手を振っていた。

 ただでさえ目立つ二人の登場に、先輩達の表情から嫌悪感が溢れ出す。

 特に名前を呼ばれた平倉先輩は、明らかに嫌そうな顔を生徒会長さんへ向けた。

「……俺、会長に話しかけられるようなことしたっけ?」

 先輩は目をキョロキョロさせながら、思い当たる節を必死に探しているようだ。

「田村先生から、進路希望調査の紙を早く出すようにとの伝言だ」

 生徒会長さんからの言葉に、桃矢先輩は目を丸くする。

「え? オマエがわざわざ、それを伝えに来たのか?」

「田村先生は、進路指導の先生兼、生徒会の顧問だからね。あと、宮守くん達の担任でもあるんだっけ」

 宮村先輩が補足情報を追加してくれる。

 田村先生……本年度赴任して来たばかりだと聞いていたけれど、意外と多忙な人なんだな……。

「俺が伝えることに、何か問題でもあるのか?」

 そう言って生徒会長さんは腕を組む。

「いや……別に。とりあえず来週中には提出するよ」

「承知した」

 本当に用事はそれだけだったようで、生徒会長さんはそのまま何も言わずに去って行く。

「何、アイツ……」

 恭次先輩が不服そうな顔で、その動向を目線だけで追う。

「さあ?」

 孔洋先輩も一緒に首を傾げるだけだった。

「…………平倉ちゃんは、会長のお気に入りだからねぇ」

 宮村先輩が誰にも聞こえないように呟いた小さな声は、食事を終えた綾織先輩がトレーを片付けるために席を立った音によって掻き消される。

「んじゃ、ボクも行く……」

「あの……宮村先輩!」

 踵を返す宮村先輩を、僕は慌てて呼び止めた。

「んー? なぁに?」

「宮村先輩はご存知ですか? あの……成瀬川先輩の……」

「うん、知ってる。昨日の夜から行方不明なんでしょ? 今、成瀬川に縁がある人達が全力で探してるよ。成瀬川は人望あるからね、みんな協力的に動いてくれてる」

「そうなんですか……」

 成瀬川先輩に縁がある人達……というのは、きっと『死者の楽園』エリュシオンの人達のことだろう。

 魔法使い達が力を尽くしていることに、少しだけ安堵する。

「そんな顔しないで。成瀬川のことだからきっと、今日の夜辺りにひょっこり帰って来るよ」

「そう……ですよね……」

 宮村先輩の言葉に、僕は小さく頷く。

 俯く僕を見て、宮村先輩は生徒会長さんの元へと戻って行った。

 他の先輩達も気持ちは同じだったようで、先程話し合っていた時よりも、ほんの僅かだが表情から不安が取り除かれたようだった。



 *四月一九日 金曜日 放課後



「まだ、誰からも連絡来ない……」

 授業が終わるチャイムが鳴った瞬間、小鳥遊くんはすぐに携帯電話を確認するが……。

 先程と同じく進展のないことに、肩を落とす。

 俯いていることもあるせいか、一層顔色が悪く見えた。

「ボク……これからサラの家に行こうと思う。もしかしたら、帰ってるかもしれないし……」

 小鳥遊くんはそう言うと、すぐに荷物をまとめ始める。

「キミも少し休んだ方がいいんじゃない? 寝てないんでしょ?」

 浅倉くんは厳しい顔付きで、小鳥遊くんにそう言うけれど……。

「うん。ありがとう……サラの家で少し休むよ。離れの合鍵持ってるから。それなら、いつサラが帰って来ても平気だし」

 力無く笑うと、重い足取りで教室を出て行ってしまう。

「大丈夫でしょうか……」

「ここで俺達が安っぽい慰めを並べたって仕方ないよ」

 そう言って浅倉くんもそそくさと荷物をカバンに入れる。

「じゃあ……俺は迎え来てるから。宮守くんも、あんま遅くならないようにね」

「あ、はい……」

 表情を変えずに手を振る、浅倉くんの背中を見送る。

 人が少なくなった教室の中、僕も部室へ向かうため準備を始めた。



 *



「失礼します……」

「あ、四季……」

 すでに先輩達は全員揃っていて、部室に入ってきた僕を一斉に見る。

 電気は点灯しているのに、いつもより暗い雰囲気なのは気のせいじゃないだろう。

「なんか進展あったか?」

 眉尻を下げた孔洋先輩が、僕の方へと歩いて来る。

「いえ……小鳥遊くんのところには、まだ誰からも連絡が来ないそうです」

「そうか……」

 小さい声でそう答えると、肩を落として自分の席に座る。

「俺達の持ってる魔法じゃ何もできないしな……」

 桃矢先輩からぽつりと、諦めの声が漏れる。

 その言葉に、更にみんなが項垂れた。

「あの……っ! 恭次先輩の持っている『魔法道具』マジックアイテムで探すことは……」

 藁をも掴む思いで、恭次先輩に提案してみる。

「うーん……それなら街中の監視カメラを調べた方が確実だと思うよ」

「そりゃそうなんだろうけど……」

 桃矢先輩が悔しそうに声を出し、しかしすぐに顔を上げ、孔洋先輩を見る。

「あ、オマエんとこのバンド仲間は!?」

「ミカだろ? 協力したって言ってたぜ。オレ、成瀬川がいなくなったの、昼前にそいつから来た連絡で知ったんだよ。でも、見えなかったって。アイツの魔法も調子いい時と悪い時の差が激しいからなぁ……相手が魔法使いじゃない方が簡単に見つかるとか、言い訳してたけど」

「魔法つったって、安定して使えるわけじゃないからな……」

 みんな自分ができることはやっているのだ。

 恭次先輩の言う通り、これ以降は警察の仕事なのかもしれない。

 不安を抱えきれなくなったせいか、僕は無意識のうちに、服の上から胸元のドッグタグに触れていた。

 おじいちゃんの遺品に触れることで、安心したかったのかもしれない。

「四季くん、何か付けてるの?」

 恭次先輩が不思議そうに僕の方を見る。

「えっと……」

 僕は胸元からそれを引っ張り出し、チェーンにつけたまま、楕円形のプレートを恭次先輩に見せた。

「ドッグタグです。おじいちゃん……正確には曽祖父ですね。形見なんです。触ると落ち着くというか……ちょっと癖になってしまっていて……」

「これって、世界大戦の……凄い年代物だね……」

 恭次先輩は感心したようにそれを見る。

 他の先輩達も興味を持ったのか、続々と覗き込んでくる。

「はい。戦争の時の物みたいです。とても大事な物だと言われました」

「あ。名前書いてある。これ……ドイツ語? ええと……ミハエル・ライザー……かな? これがお祖父さんの名前?」

「…………」

「四季くん?」

「え……っ! あ、すみません……!」

 僕は慌てて首を振る。

「ええと……本物の、と付けた方が正しいでしょうか」

 そこで言葉を切って、説明をするための言葉を頭の中で組み立てる。

「このミハエルという方と、おじいちゃんの幼馴染である女性の二人が、僕の血縁者になります。でも戦争によってミハエルさんは亡くなり、その幼馴染の女性も子供を産んですぐに亡くなってしまいまして……」

「それじゃあ……」

「はい。おじいちゃんはその子供を養子にして、育てたんです。その子は僕の祖母に当たる人ですね。そしてその人が日本人と結婚したため、おじいちゃんも一緒に日本へ移住することになったんです」

「四季くんは凄い縁でここにいるんだねぇ……」

 恭次先輩からしみじみとした声が漏れる。

「はい。僕自身も、昔から身体が弱かったのでつい最近まで入院していたのですが……。もし他の高校に入学していたら、皆さんと会えなかったわけで……そう思うと少し怖いです」

「そうなの!? 四季くんが入学してくれて本当に良かった……! じゃないと『WRA部』存続の危機だったよ!」

「え、オマエ続かせる気でいたの?」

 孔洋先輩からぽろりと本音が漏れる。

「当然でしょ! 僕は初代部長として名を残すんだから。キミ達も初代部員として名前、連ねといてあげるよ」

「うわ、オレの黒歴史増えんじゃん……!」

「なんだと」

 いつもの二人のやり取りに、場の空気がほんの少しだけ緩む。

 しかし。

 恭次先輩と孔洋先輩の言い争いが始まる中、ただ一人、何も言わずにドッグタグを見つめている人物がいた。

「桃矢先輩?」

「あ……」

 魅入るようにをそれを凝視していた先輩が、慌てて視線を外す。

「とーや、どうしたの?」

「いや……ええと……『魔法道具』マジックアイテムみたいだなって思って、見てただけだ」

 そう言って言葉を濁す桃矢先輩の額には、少し汗が滲んでいる。

「ふぅん。年代物だし、不思議な力があるのかもねぇ」

 恭次先輩が納得したように、それから手を離す。

「わり……ちょっと用事を思い出したから、先に帰る」

 桃矢先輩は俯いたまま立ち上がり、荷物が置いてある机に向かう。

「え……いいけど……」

 承諾する恭次先輩に微笑みを向けると、すぐにカバンを持ってドアの方へと歩いていく。

 どこ無理をして笑っているように感じるのは気のせいだろうか……。

 そして先輩は、逃げるように教室から出て行ってしまった。

「あ……」

 教室を出て行く瞬間……右手がこめかみ部分をそっと押さえていたのが見えた。

 ……何だか、嫌な予感がする。

「とーや、どうしたんだろ……」

 恭次先輩は不思議そうに、扉の向こう見つめていた。

「あの……僕も、帰ります……!」

「え……四季くん……!?」

 僕も慌てて机から荷物を引っ張り、教室を飛び出す。

 そして先に行ってしまった先輩の後を追う。

 もしかして先輩は僕のドッグタグを、魔法を使って視てしまったのかもしれない。

 だとしたらまた、代償デメリットであるあの頭痛が起こっていることだろう。

 きっと桃矢先輩は恭次先輩に心配をかけまいと、教室を出ていったんだ。

「いた……!」

 駆け足で廊下を走っていた僕は、ようやくその背中を見つける。

 やはり先輩の足取りはフラフラとしていて、見ていてとても危うい。

 そしてついに、階段前で前のめりに倒れそうになってしまった。

「せん……っ」

 慌てて桃矢先輩に駆け寄ろうとした瞬間。

 別の方向から、それを支える大きな手が伸ばされた。

「え……」

 長い影と共に現れたその人は、恭次先輩の兄である生徒会長さんだった。

 まるで恋人に触れるように優しく身体を抱き寄せ、その場に一緒に座り込む。

 そして桃矢先輩を抱え込むように上体を起こし、顔を覗き込んだ。

「東郷……?」

 桃矢先輩は焦点の定まっていない虚ろな目で、生徒会長さんを見つめる。

「なんだ……会長の方か……」

 先輩の声が明らかに暗くなったのが分かった。

「…………」

 しかし生徒会長さんは何も言わずにただ、桃矢先輩を見つめている。

 完全に出て行くタイミングを逃してしまった僕は、廊下の柱の影で、まるで覗き見をしている格好になってしまう。

 いや、実際そうなのだけれど……。

 しかし物音を立てることを阻まれるほど……この空間は静かだった。

「貧血か?」

「いや……」

 生徒会長さんからの問いに、桃矢先輩は小さく否定する。

「それでは持病があるのか?」

「……まあ、似たようなもんだ」

 桃矢先輩はまるで自嘲するように口角を上げる。

 自力で起き上がろうとするも、まだ身体に力が入らないようだ。

「無理をして愚弟の望みを叶える必要はない」

「なんだ、知ってたのか。別に……そんなの俺の勝手だろ」

 弱々しい声に、やはり身体が辛いのだと分かる。

「……る」

「え……?」

「俺が困る」

「は……? なんで……」

 桃矢先輩が口を開く前に、二人の顔がゆっくりと近付いていくのが見えた。

 重なる唇。

 僕は息をするのも忘れていた。

「何す……っ」

 桃矢の狼狽える声が辺りに響く。

 しかしまだ身体に力が入らないようで、生徒会長さんを振り払うことができずにいる。

「……恭次アイツに、言えない秘密ができたな」

「オマエ……っ! 最っ低だな……っ!」

 桃矢先輩は顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、無表情の生徒会長さんの手を払いのけ立ち上がろうとする、が……。

 足に力が入らず、再び会長さんの胸の中に戻ってしまう。

「車を用意する」

「余計なことしなくていい……!」

 桃矢先輩の拒絶も虚しく、生徒会長さんは胸ポケットから携帯電話を取り出し、いくつか操作して耳に当てる。

「ああ。今すぐ……学校に」

 簡潔にそう伝えると、いとも簡単に桃矢先輩を抱き抱え、立ち上がった。

 所謂、お姫様抱っこの状態だ。

「っざけんなよ……! 降ろせバカ!」

「…………」

 どんなに桃矢先輩から罵倒の言葉が出ようとも、生徒会長さんは無言のまま先輩を運んで行ってしまう。

 一人取り残された僕は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 そういえば学食で宮村先輩が、平倉先輩は生徒会長さんのお気に入りだと言っていた気がする……けど。

 でも、まさかそういう意味でだったなんて……!

「え、ええと……」

 ど、どういうことなんですかこれ……!?

 一部始終そのでき事を見てしまった僕の頭は、軽くパニックになっていた。

 こんなに思考がまとまらないなんて経験、初めてかもしれない。

「とりあえず……落ち着きましょう……!」

 ええと……つまり。

 桃矢先輩は恭次先輩が好きで……それで、生徒会長さんは桃矢先輩を……?

 それで、恭次先輩と生徒会長さんは兄弟で……。

 ……って、そんなの……!

「そんなの……っ! 完全に昼ドラじゃないですか……っ!」

「うるせえ。邪魔だチビ、どけ」

「!?」

 背後からかけられた声に慌てて振り返れば、帰り支度を整えた綾織先輩がすぐ後ろに立っていた。

 いつもと変わらない仏頂面のまま、その高い身長で僕のことを見下ろしている。

「先輩……」

 絶対に拒否されるのは分かっていた。

 分かっていたのだけれど……ごちゃごちゃした頭のせいで、思わず……。

「あーや先輩……っ!」

「あ……!?」

 一瞬きょとんとした表情を見せてしまう先輩だったが、すぐに眉間に皺を戻す。

「テメエ……次そのフザけた呼び方したら……」

「分かりました! じゃあ、レイさんにします!」

「や……は……!?」

 今度こそ綾織先輩はついに閉口してしまった。

「いえ、学年が違うので“さん”付けはおかしいですね。それじゃあ、レイ先輩で……」

「四季ッ!」

「っ」

 突然名前を呼ばれ、両頬を思いきり掴まれる。

「何があった?」

 まるでパニックになった子供を諭すように、先輩が僕のことを始めてまっすぐに見つめる。

 そこでようやく、僕は正気を取り戻した気がした。

 先輩の瞳に僕が映り込む。

 アメジスト色の目が……やはりとても綺麗だと思った。



 *四月一九日 金曜日 中庭



「頭の中は整理できたか?」

 先輩が連れてきてくれたのは、学校の中庭だった。

 いつも学食から見える、噴水のある場所で、花壇に植えられた春の花があちこちで色とりどりに咲いていた。

 様々な形の椅子やテーブルがバランス、配色共に計算された位置に配置されていて、まるで雑誌から切り取られた空間のようだと思った。

 天気のいいお昼時はここでランチを楽しんでいる生徒達もいるが、放課後の今は辺りに人の姿はない。

 僕達はその中にある木製のベンチに隣同士で座っていた。

 先程綾織先輩が、すぐ横の自動販売機で購入したいちごミルクを僕はチビチビと飲んでいる。

 あやされている小さな子供になった気分だ。

「はい……醜態を晒してしまい、申し訳ありませんでした」

「…………」

 先輩は何も言わずに、横でカフェラテの缶の口を開いた。

「……で。オマエが見た内容って、それだけか?」

「そう……です」

 僕は小さく返答する。

 先程起きたでき事を少しずつ、綾織先輩に話した。

 ゴシップのように言いふらすのは良くないと一瞬躊躇ったのだが……しかし、綾織先輩であれば絶対に口外しないという確信があったのだ。

 そして綾織先輩は意外にも相槌を打ちながら、余計な口も挟まずに聞いてくれた。

 聞き上手とは、こういうことをいうのかもしれない。

「……くっだらね」

「…………」

 今度は僕が閉口する番だった。

 結構頑張って話したのだけれど……あまりにも一刀両断過ぎないだろうか……。

「大体、アイツらが好き勝手やってんだから、テメエが気落ちする必要ねーだろ」

「それは、そうなのですが……」

 なんともまあ、綾織先輩らしい意見だった。

 偶然見てしまったとはいえ、第三者である僕には何も関係ない話なのだ。

「つーか、テメエはどうしたいんだよ」

「え……僕ですか……?」

「テメエの望みと相反するから、そんなに落ち込んでんだろ」

 確かに先輩の言う通りだ。

 僕が望む先……現実とのギャップが大きいからこそ、こんなに悩んでいるのだ。

 僕は、どうしたい……?

 どうなって欲しい……?

「僕は……」

 モヤモヤしていた気持ちから、ついに答えが出た。

「僕は、皆さんが……幸せになって欲しいです……」

「無理だろ」

 ようやく出した答えを、再び却下されてしまった。

「それは平倉が二人になれば解決すんのか? そもそも、東郷弟の気持ちは知ってんのか?」

「それは……」

「幸せなんて、当人達が決めることなんだよ。外野がどうこう言う必要ねーだろ」

「…………」

 確かに、僕がここでどんなに悩んでいても、何をしようとも……桃矢先輩達の気持ちを変えることはできないのだ。

「ああ。テメエができること、少なくとも一つはあるぜ」

「?」

「あのアホ生徒会長に、時と場所を考えろっつって怒鳴ることだな」

「それは……そうですね」

 綾織先輩なりの優しい答えに、僕は自分の頬が緩んだのが分かった。

 胸に暖かな感情が宿り始めたことに気付かないほどに、この空間がとても心地良かった。

 しかしその時、僕を現実へと引き戻す鐘の音が、遠くから耳に入る。

「あ!」

 そこで僕はようやく、時間が一八時に近付いていることに気が付いた。

 思わずその場でベンチから立ち上がる。

「んだよ」

「すみません、先輩。ええと……僕、神田さんと夕食に行く約束をしていたことをすっかり忘れていました……!」

「ああ……」

 綾織先輩も昨日のことを思い出したようだ。

 先輩が立ち上がると、ギシリとベンチが音を立てる。

「もし良かったら、先輩も一緒に……」

「断る」

 ぴしゃりと言われてしまった。

「あの……それでは、色々聞いてくださってありがとうございました」

 僕は最敬礼よりも更に深く頭を下げる。

「別に」

 先輩はそうそっけなく答えると、持っていたカフェラテの缶を一気に飲み干した。

 そして数メートル先にある自動販売機横のゴミ箱に向け、それを上から放り投げる。

 それは綺麗な放物線を描き、ゴミ箱の真ん中へと落ちていった。

「あんまり遅くなるなよ。まだ事件は解決してないんだからな」

「はい。心配してくださって、ありがとうございます」

「してねえよ。これ以上厄介ことを増やすなっつってんだ」

 綾織先輩はフンと鼻を鳴らすと、正門に向かって一人で歩いていってしまう。

 僕はその背中を追うように、神田さんとの待ち合わせ場所を目指した。



 *



「神田さん!」

 たくさんの人が歩く駅前で、昨日と同じ黒いキャップを被った待ち人を発見した。

 駅東口にあるロータリー前は、帰宅ラッシュのピークのようで、いつにもまして人がたくさん歩いているが……。

 待ち合わせをしているであろう他の人達よりも、頭一つ分高いため、簡単に見つけることができた。

「よっ」

 神田さんは僕に向かって軽く手を挙げ、気さくな笑みを浮かべる。

 ダボっとした黒いワークパンツが、とてもよく似合っていた。

「お待たせしてしまってすみません……っ」

「いや、待ち合わせ時間前じゃん」

 そう言って神田さんは再び笑う。

 僕はこの笑顔が好きだった。

「あの……会いたくない人がいるのに、駅前での待ち合わせで大丈夫だったんでしょうか」

「この時間なら、人でごった返してるからな。逆に平気だろ」

 神田さんは僕を安心させる言葉をかけてくれる。

「さて、なんか食べたい物あるか? オマエに合わせるぜ」

「え、いいんですか……っ!? ありがとうございます……!」

 僕は面倒見のいい神田さんに頭を下げる。

「ええと、そうですね……」

 そう言われて、辺りを見回す。

 近くの飲食店など、全く詳しくないのだけれど……それでもすぐ近くには駅ビルもあれば、商業ビルもある。

 個人で経営している飲食店だって山ほどあるだろう。

 ここなら選び放題だ。

「あ……」

 ふと見上げた商業ビルの一角。

 巨大な液晶ディスプレイに、とあるファミリーレストランの広告が流れていた。

 それはどこにでもある、特別珍しくもないファミリーレストランで……しかしその広告には僕にとって、それ以外が目に入らなくなる程、魅力的な文言が掲げられていたのだった。



 *四月一九日 金曜日 ファミリーレストラン『ポポス』



「思ったより混んでるな。違う場所にするか?」

「いえ。ここにしましょう!」

 神田さんの提案に、僕はすぐに首を振る。

 先程目を奪われた広告……それは、僕の好きなキャラクターとその店がコラボレーションをしていることを宣伝していたのだ。

 その映像を見た瞬間、身体に走る衝撃。

 一目でこの店にしたいと決めたのだった。

 ちょうど夕食時だったせいか、それともコラボの初日だったせいか……それにプラスして金曜日の夜ということもあり、店内はとても混雑していた。

 比較的、高校生……しかも女生徒が多いような気がする。

 僕達は並びながら順番が呼ばれるのを待つ。

 多少遅くなったとしても、ここから学生寮まで一五分位で帰れるし、人がたくさんいる駅前ならそんなに危険はないだろう。

「……やっぱり流行ってるのか? これ」

 神田さんが怪訝な顔で、そのコラボしているキャラクターのポスターを指差す。

「神田さんもご存知なんですか? 流行ってるのかは分かりませんが、僕は大好きです。『猫童話シリーズ』!」

「こんなのがねえ……」

 やはり神田さんは表情を変えないまま、展示されたポスターを見上げていた。

 指定されたメニューを注文すると、複数種ランダムでアクリルキーホルダーが貰えるみたいだ。

 この前浅倉くんが言っていた、ランダム配布というやつだ。

 無事に僕の好きな『スリーピングにゃあティー』を引き当てることができるだろうか……。

 今からドキドキだ。

「いらっしゃいませー!」

 そしてまた一人。

 僕達の後ろに並ぶようにお客さんが入って来た。

 人混みの中でも目立つ、背の高い、金髪の……。

「あ」

 僕、神田さん、その人の動きが見事に揃った。

「失礼します」

 その人……駒込さんは、神田さんを視界に入れた瞬間、一瞬顔を引きつらせ、そしてくるりと店から出て行こうとする。

「まあ、待て待て」

 神田さんは、駒込さんの制服から出ているパーカーの帽子を掴み、引き留めた。

「久しぶりだな、駒込」

「…………」

 逃げられないと悟ったのか、駒込さんは神田さんによって乱された帽子を整えると、覚悟を決めたように向かい合う。

 どこからか入って来た風が、駒込さんの前髪を揺らした。

「……ええまあ、いつの間にか退学なされたようで。心配していたんですよ」

 駒込さんは顔に笑顔を張り付ける。

 退学……?

 そういえば昨日、石河さんとの会話の時に学校を辞めたと言っていたこと思い出した。

 僕は神田さんを見上げる

 しかし神田さんは僕の目線には気付かず、駒込さんへ呆れた顔を返す。

「嘘つけ! ぜってーしてないだろ!」

「失礼ですね、嘘じゃないですよ」

 駒込さんはその笑顔をすぐに崩すと、腕を組み、すぐ近くの壁に寄りかかった。

 そして僕の方をチラリと見る。

 部外者である僕の前で話していいことなのか、考えているようだった。

「そもそもなんで突然いなくなったんです? まさか、クリスマスの事件のせいで罰を受けてるとか……そんな恥ずかしいことはないですよねぇ?」

「は!? オマエ……なんで知って……!?」

 そう言って神田さんは驚きの表情を見せる。

「え? まさか本当にそうなんですか?」

 何故か駒込さんも驚いたようで、目をパチパチとさせるな……しかしすぐに満面の笑みを溢す。

「あははっ。まさに踏んだり蹴ったりですねぇ」

「テメエ……カマかけやがったな……!」

「いえ、全くの当てずっぽうではないですよ? いきなり退学だなんておかしいと思ったんです。せっかく出世のお祝いしてあげようと思ったのに」

「いらねーよ、そんなの……」

 今度は神田さんは僕の方を一瞬視界に入れる。

 その様子を見て、僕の前で話しても大丈夫だと理解したのか、駒込さんは更に込み入った方向に話を進めた。

「貴方が気にしてるのは、五樹先輩と上野先輩のことでしょう? 一体何があったんです? 上野先輩は貴方がいなくても、びっくりする位普通に過ごしてますし……。逆に五樹先輩なんて、まるで別人ですよ。まあ、綾人先輩があんなことになったんだから、仕方ないと思いますが。メッセージ送っても、既読になるだけで返信なしです」

「そうか……」

 神田さんの前髪が顔に影を暗い落とす。

「オマエは……どこまで知ってるんだ?」

「どこまで?」

 駒込さんは大きな二重の目を細める。

「クリスマス前後の話ですか? 僕が上野先輩にケガをさせて、綾人先輩が教会の事故に巻き込まれて亡くなった。僕の記憶にあるのはそれだけです。貴方のお仲間が僕の記憶を書き換えたのなら話は別ですが」

「……結局、あのループでは何も変わらなかったってことか」

 神田さん、駒込さん双方の声が小さくなる。

 『クリスマスの事件』、『ループ』、『教会の事故』など……気になる単語が飛び交う。

 しかし部外者である僕が口を挟んでいいものではないだろう。

 僕はその単語を繋ぎ合わせて、何があったのか予想することしかできなかった。

「その辺りの話は、人伝てで聞いただけですね。何度も世界が繰り返していたんでしょう?」

「それ……うちの組織では機密事項だったはずなんだけどな」

「秘密っていうのは必ずバレるものなんですよ。ま、その時の記憶は僕にもないわけですが」

「オマエのその情報収集能力が怖えよ……」

「魔法を使えるのは、貴方達だけではないってことです。≪≪僕達≫≫だって、自分の不利益になることはできるだけ避けていきたいですからね。力ある者達がふんぞり返っている間に、下々の人間はいつの間にか結束しているものなんですよ。どこの国だってそうでしょう? 自分達の力に溺れていると、いつか足元掬われますよ。そして僕達は、その力を持っている。貴方達と違って、文字通り“命懸け”ですけど」

 そう言って駒込さんは、まるで雑誌の表紙のように笑った。

「恨まれてるなぁ」

「才能に嫉妬されるのは仕方ないコトかと。僕だって顔がいいだけで色々言われますし」

「自慢か」

「その言葉、そっくりお返しします」

 駒込さんは本題だと言わんばかりに、腕を組んで神田さんをまっすぐに見つめた。

「で、その恵まれた才能を持っている貴方は、いつまでそうやって燻っているつもりですか?」

「…………」

「自分の所属する組織の力が、怖くなりましたか?」

「そんなんじゃねーよ。でも……オレが大崎を慰めたところでどうなるんだよ……。クリスマスの事件は、根本的にうちの組織が関わってるんだ。そこに所属しているオレなんかが、安っぽい言葉をかけたって……しょうがねーだろ」

「はあ……見た目のわりに、繊細なんですねえ」

「悪かったな」

「あんなにも必要とされているのに……僕だったら――――」

 そこで駒込さんは言葉を切った。

「……やっぱりやめておきます」

「は?」

「これ以上貴方に助言するほど……僕、貴方のこと好きじゃないので」

 駒込さんは、そうぴしゃりと言い切った。

「……というか。特に今日は……貴方を構ってる余裕、本当はないんですよ」

 駒込さんの表情が暗いものへと変わっていく。

「は? どういう意味だよ」

 神田さんが駒込さんに疑問を投げかけたその時だった。

「いやいや、どんなメンバーよ……」

 すぐ背後から聞こえる、引き気味の声。

 僕達の後ろに、黒い詰め襟の学生服を着た人が立っていた。

 肩までの明るい茶髪を後ろで一つに縛り、その頭をポリポリと掻いている。

 両耳にはたくさんのフープピアスが付いていて、ピアスの穴を開けていない僕からするととても痛そうに見える。

 身長は孔洋先輩よりも少し大きく、その見た目のせいで目立つのだが、あまり威圧感は感じない。

 その人が持つ、独特のオーラのせいだろうか。

「吉野……」

 知り合いだったのか、神田さんはその人の名前を呟く。

「あ」

 名前を聞いて、僕もその人のことを思い出した。

 この人……あの集会の時に司会をしていた人だ。

 確か名前は吉野よしの 飛鳥あすかさん。

 孔洋先輩のバンドではドラムを叩いていた人でもある。

「飛鳥さん! 紗々羅さんは見つかりましたか!?」

 駒込さんの表情が一変し、吉野さんに詰め寄っていく。

「え? 成瀬川がどうかしたのか?」

「あー……」

 二人から言葉を向けられ、吉野さんは面倒くさそうに頭を抱える。

 しかしそのタイミングで、店員さんから席の順番が来たと、名前を呼ばれてしまった。

「すんません、相席でお願いしてもいいっすか? 知り合いだったんで」

 吉野さんは店員さんに了承をもらうと、再び頭を掻いた。



 *



「え? 成瀬川、昨日の夜から行方不明なのか?」

 各自ドリンクバーから帰って来たところで、本題が始まった。

 僕達が通されたのは四人掛けの席で、フロアの一番隅に当たる場所だった。

 二面を壁に囲まれているため、静かに会話ができる席だ。

 一番角の席に吉野さん、その隣に駒込さん。

 駒込さんの向かいに神田さんがそれぞれ座る。

「なんでまた」

「危険な『魔法道具』マジックアイテムの話は知ってるか?」

「あー……なんとなく、な」

「それの調査中だったらしいが……詳細は不明。今、誰とも連絡取れない状態になってる」

 吉野さんはそう言うと、コーラをストローも使わずに一気に飲み干す。

 そして口に入った氷をガリッと噛み砕いた。

「あのちっこいヤツもか?」

「小鳥遊ね。小鳥遊はたまたま体調不良で、一緒に行動して無かったんだよ。成瀬川とは連絡はもちろん取れない。ケータイの電源が落ちてるっぽい」

 吉野さんは神田さんに、現状を説明してくれる。

 しかし、僕が小鳥遊くんから聞いた以上の情報は持ち合わせていないようだっだ。

「つか、コイツ誰?」

 吉野さんが顎で指した先には、僕が座っていた。

「あ……こんばんは。椿乃学園、一年の宮守四季です。ええと……遠野孔洋先輩が所属している部活の後輩です」

「ああ……あの」

 吉野さんはスッと目線を逸らす。

 部活のことを他人ひとに話すと、ほとんど同じ反応を返されるのは気のせいだろうか。

 もしかして、『死者の楽園』エリュシオンと恭次先輩の間に何かあったのだろうか……。

「ここで会ったのも何かの縁だ、なぁ神田。オマエの知り合いで、人を探せる魔法を使えるヤツっていないのか?」

 吉野さんの言葉に、駒込さんがピクリと肩を震わせた。

「いるっちゃいるけど……」

 神田さんは携帯電話を取り出し、人の名前が連なったアドレス帳を呼び出す。

『エデンの園』ガーデンオブエデンのヤツで、アメリカ人。普段もアメリカに住んでるんだけど、今、ちょうど日本に来てる」

「凄くいいタイミングじゃないですか! 魔法使い放題なんですから、天上人みたいに気取ってないで、たまには一般人の役に立ったらどうです?」

 駒込さんが机を長い人差し指で叩きながら催促する。

「そうなんだが……オレの言うこと、聞いてくれるかは不明」

「どうしてですか」

「オレがクリスマスの件も含め、組織の言いつけを守るどころか好き勝手やってるからだな。そいつ、『エデンの園』ガーデンオブエデンに心酔してるから。組織のルールを守らないヤツのこと、嫌ってるんだよ」

「つくづく間の悪い人ですよね、神田さんって」

 駒込さんから率直な嫌味が漏れる。

「しょうがないだろ。目の前で困ってるヤツがいるのに、放っておけるかよ。とりあえず今から電話してみるが……期待しないでくれよ」

 そう言って神田さんは携帯電話を耳に当てる。

「…………出ないな」

 携帯電話から聞こえる小さなコール音と、長い沈黙が続く。

 そして。

「……あ、出た」

「!」

 その言葉に、神田さん以外の三人がバッと顔を上げ、一斉にそちらに注目する。

「あ、もしもし? セシルか? ああ、そうだよ……オレだよ。……詐欺じゃねーよ。変な日本語覚えんな」

 先程神田さんが嫌われていると言っていたわりには、親しげに話しているように感じる。

「いや、今回はちょっと頼みがあって。オマエ、今、日本にいるんだろ? 探して欲しいヤツが……いや。個人的にだけど。……は? なんでだよ。別にいいだろ。なあ、頼むって。え? 温泉? いや、ちょっと……」

「なんか、雲行きが怪しくなってきたな」

 吉野さんがぽつりと呟く。

「……切れた」

 その直後、神田さんが携帯電話を机に置き、頭を抱えた。

「思った以上に使えないですね」

「コマ、やめとけ」

 駒込さんがとてもいい笑顔で追い打ちをかけるが、吉野さんがそれを制した。

「悪いな。力になれなくて」

「いや。実際、神頼みみたいなもんだったしな。そろそろ、潮時か……現実的に動き始めた方がいいな」

 吉野さんは小さくため息を吐き出し、そしてすぐ隣りにあった注文用のタブレットを手に取る。

「とりあえずなんか食べようぜ。腹減った」

「……そう、ですね」

 吉野さんの言葉に、駒込さんは同意する。

 僕と神田さんもそれに続いた。

 そして各自注文を終え、改めて向かい合う。

 そういえば、椿乃学園、柊明高校、榎田高校……見事にバラバラの学校が揃っている。

 あと一人……楸原高校のアイさんがいたら、この付近の高校全種の制服がコンプリートだ。

「なあ、吉野」

 神田さんが口を開く。

「成瀬川が調査してるっていう、その危険な『魔法道具』マジックアイテムって、一体何なんだ?」

「なんだよ、オマエ何も知らねーの?」

 呆れたように吉野さんは二杯目のコーラを飲み始める。

「……魔法の力が強化されるとかなんとか」

 神田さんはそう言うと駒込さんをチラリと見た。

 その様子を見て、吉野さんは、知ってんじゃんと言って話を続ける。

「自分の魔法の力を強化したり、変換したりできるもんらしいぜ。でも壊れやすくて暴発する危険性がある。特に魔法の力が強い人間ヤツか使うと、暴発の危険性と威力がデカくなる……っていうのが、今んトコの見解」

「あー……だから、コイツのケガはあんま大したこと無かったのか」

「はい?」

 神田さんの小さな声に、駒込さんは怪訝そうに眉を顰める。

「いや、こっちの話だ。つーか、クリスマスの時、駒込はそれをどっかから手に入れてたわけだろ。だったら詳細はコイツが一番知ってるはずじゃねーか」

「……知ってるならとっくに話してますよ」

 不貞腐れるように、駒込さんは神田さんを睨みつける。

「覚えてないんだと」

「覚えてない?」

 吉野さんの言葉に、神田さんが首を傾げる。

「それって、記憶を操作されたってコトか?」

「その可能性が高いな。誰かから買ったことは確かみたいだが……その詳細は一切不明。向こうだって、バカじゃないって話だ」

「……なんだか、きな臭くなって来たな」

 神田さんも先程よりも神妙な面持ちになり、テーブルのグラスを見つめる。

「一学生が、小遣い稼ぎに売り捌いていた……ってオチだと助かるんだけどな」

 吉野さんはそう言って腕を組む。

 もしかしたら、一連の流れは組織的に行われているかもしれないということだろうか。

 そうなれば、成瀬川先輩は……。

「お待たせいたしました」

 重い空気を打ち消すように、注文していた食事が届く。

 そして僕と神田さんの前に、注文特典である銀色の袋に入ったアクリルキーホルダーが置かれた。

「二人して可愛いもん頼んでんだな」

 僕達の頼んだメニューを見て、吉野さんが笑う。

 特典と共に、猫の絵が描かれたオムライスが並べられていた。

「これが目的でここに入ったからな……」

 目線を外しながら神田さんが答える。

「まさか、このアクリルキーホルダーが欲しかったんですか?」

「……悪いかよ」

「いえ。いつか渡せるといいですねって思っただけです」

「もうそのカマかけには乗らないからな」

「残念でしたね、今のは確信です」

「…………」

 二人の会話の意味は分からなかったが、神田さんが駒込さんに一本取られたようだった。

 悔しそうに駒込さんを睨んでいる。

 僕は早速、銀色の袋の中から、アクリルキーホルダーを取り出す。

「!」

 中身は『ニャンデレラ』だった。

 欲しかったのは『スリーピングにゃあティー』だったけれど……それでも『猫童話シリーズ』のグッズが手に入ったことがとても嬉しい。

 僕はすぐにそれを財布の中へとしまい込んだ。

 あまり現金が入っていないため、財布の形を崩すこと無くそれは収納された。

「……それはそうと、神田さん、珍しいもの付けてますね」

 駒込さんの視線が、神田さんの首元に移る。

「目ざといな……」

「神田さんって、派手なアクセサリー付けるイメージ無かったので、目に付いたんですよ。誰かからのプレゼントですか?」

「プレゼントっちゃあプレゼントだが……」

「へえ、ちょっと見せてくださいよ」

 駒込さんは立ち上がると、向かいの神田さんの首元に手を伸ばす。

「嫌だね。……あ、ちょ……触んなって……!」

 神田さんが抵抗するも、駒込先輩の指先がその銀色のチョーカーに触れた。

「っ!」

「痛っ」

 その瞬間、バチっとまるで電流が流れたような音がした。

 駒込さんは慌てて手を引っ込め、その様子を呆然と眺めている。

「なんですか……これ……」

「だから触んなって言ったんだよ」

 自身も首元を触りながら、言葉を続ける。

『魔法道具』マジックアイテムだよ。クリスマスの件の罰。魔法使用を制限されてるんだ。外そうとすると、こうやって電気が流れる」

「!」

「それじゃあオマエ……」

 吉野さんが食事の手を止める。

「ああ。オレは今、魔法が一切使えない」

 神田さんは自嘲するように笑った。

 それを聞いた吉野さんが、首元をまじまじと見つめる。

「オマエ程の魔法を使用不可にする『魔法道具』マジックアイテムが存在するのかよ……」

「残念ながら『エデンの園』ガーデンオブエデンにはゴロゴロあるぜ。昔、『魔法道具』マジックアイテム造りに特化した痣付きがいたからな。そいつの置き土産が山ほど残ってる」

「あははっ。組織の罰とはいえそんなもの付けられて、本当に犬みたいですね」

 何かのツボにハマったのか、駒込さんが突然笑い出して神田さんを指差す。

「せっかくいい首輪もらったみたいですし“ワン”って言ってみてくださいよ」

「駒込……どうやらオマエは本気でオレを怒らせたいらしいな……」

「ええー? 別にそんなことないですよー? でも魔法を使えない神田さんなんて全然怖くないですけどねー」

「テメエなんか、魔法がなくてもすぐにぶん殴れるんだからな!」

「暴力反対ですー! というか、顔はやめてくださーい」

「相変わらず仲いいな、オマエら……」

 バチバチに火花を散らす二人に、吉野さんは呆れた声を漏らし食事を再開した。

 僕もそれに続き、オムライスを食べ始める。

 可愛く描かれた猫の絵……たぶんこれは『ニャンデレラ』だろう。

 崩してしまうのがすごく勿体ない。

「ったく……」

 そして何度目かの口論の後、息を切らした神田さんが呟く。

「……オマエさ」

「なんです?」

「下っ端にしては、けっこう情報通だよな」

「ええ、まあ。いろいろ教えてくれる、優しい人がいるもので」

「…………」

 その言葉に神田さんは不満そうな顔を返す。

 しかし駒込さんはスンとすまして、ストローを口に入れた。

「あの……っ! モデルの駒込さんですよね……っ!?」

 その空気を壊すように、僕達の席の横から、女生徒二人組に声をかけられた。

「そういやコイツ、有名人なんだっけ……」

「めんどくせーことになって来たな……」

 神田さんと吉野さんが、同時に呟く。

 駒込さんの存在に気づいた女の子達によって、僕達の席は取り囲まれてしまっていた。

「オマエ、サービスで脱いどけば? モデルだろ?」

「グラドルじゃないんですよ……」

 神田さんが駒込さんを見て再びからかい始める。

 駒込さんは周囲に聞こえない声でぽつりと呟くが、すぐに女の子達へ向かって笑顔で対応を始める。

 その笑顔に、周りの女の子達は見事に魅入ってしまった。

 最初よりも少しだけ和やかなムードで、突発的な食事会は幕を閉じたのだった。



 *



「今日はありがとうございました」

 食後を終え、僕達は駅前まで戻ってきた。

 ロータリー付近にはあまり人がおらず、居酒屋帰りらしき会社員がタクシー待ちの列を作っていた。

 週末を迎えた街は、ネオンがあちこちで光っていて、これからこの駅を降りてくる人を出迎えているように見えた。

 なんだか最後はバタバタとしてしまったが、そのおかげで暗い気持ちが少しだけ元に戻った気がする。

「余計なヤツらが入っちまって、爺ちゃんの話、全然できなかったな……。まさか成瀬川が行方不明になってるなんて知らなかったぜ」

 神田さんが眉を下げる。

「成瀬川先輩……早く見つかるといいですね……」

「ああ。アイツのことだから、ひょっこり帰って来そうだとは思うけど……とりあえずオレもこれから探してみる」

「え、これからですか……!?」

 僕は駅前の液晶ディスプレイを見上げる。

 時刻はもう、一九時半をまわっていた。

 まわっているけれど……!

「あの、僕も一緒に……!」

「オマエは寮なんだろ? ちゃんと帰らないと問題になるぞ」

「…………」

 神田さんの言葉に、僕は俯く。

 そもそも僕が付いていっても、足手纏いにしかならないのだ。

「オレは夜の方が動きやすいんだ、色々とな。つーことで、また落ち着いたら会おうぜ」

 神田さんはそう言うと、僕の頭に手を置いた。

 神田さんは『エデンの園』ガーデンオブエデンの関係者だと言っていたが……一体どういうことなんだろう……。

 さっきの会話から、どうやら神田さんの魔法は封印されているようだ。

 神田さんなら不測の事態があっても上手く逃れられそうだけれど……でも、万が一ということもある。

「あの……無理しないでくださいね」

「ああ。サンキュ。オマエもまっすぐ帰れよ」

 神田さんはそう言うと片手を上げ、ネオンが光る夜の街に消えて行った。



 *四月一九日 金曜日 学生寮



「ただいまです……」

 神田さんと別れた後、まっすぐに寮へ向かい、そして誰もいない部屋に帰ってくる。

 今日も色々あった一日だった。

 僕は電気を点けずにベッドに横になり、カーテンの隙間から空を見上げる。

 朝は曇っていたのに、今では空には綺麗な星が瞬いていて、ずっと見ていれば吸い込まれてしまいそうだと思った。

「成瀬川先輩……」

 連絡ツールを持っていない僕に、情報が決して届くことはない。

 待っていることしかできないことが、こんなにももどかしいなんて……。

 僕はそのまま祈るように目を閉じる。

 明日には……いい結果が待っているようにと願いながら。

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