彼は抗い続ける この身尽きるその時まで
テマキズシ
第1話 彼は彼から託される
目の前にどす黒い青色の壁が迫りくる。
……津波だ。突如として現れた津波が今我々を襲っている
大地がうねりを上げ、我々人類が作り上げてきた数多くの建物が壁に飲み込まれその姿を消していく。
そこらかしこから耳をつんざくような悲鳴が聞こえてくる。皆恐怖に怯え、ただひたすら高台を目指し続けた。
だがそれは無意味な行為だ。かつての大震災では40mの津波が我々を襲った。
しかし今回の津波は目算だがその倍は確実にある。私は今住んでいる研究所から動く事なくただ死を待つことに決める。
私はもう60歳。この足では逃げることなんて難しい。なら大人しく死を待とう。
津波が眼前へと迫ってくる。多くの建物や乗り物が津波に飲み込まれ、悍ましい姿へと変貌していく。
ふと頭に娘の顔が浮かんできた。彼女の好きな赤いペチュニアを模した髪飾りを上げた時の笑顔が浮かび上がる。
あの子は無事なのだろうか。せめて彼女には生きてほしい…。
「………うう」
気付けば涙が出てきた。どうやらもう60を超えているというのに死にたくないと、あの子に会いたいと、そう思ってしまったようだ。
一度その気持ちを実感すると身体中が震え出し始めてきた。
「……ああ。死にたくないなあ」
彼の最後の言葉は津波によってかき消された。彼にとって幸運だったのは痛みを感じることなく即死できた事だろう。
こうして彼の人生は幕を閉じた。
……筈だった
「うわあああああああ!!!!」
悪夢を見た。年老いた俺が津波に飲み込まれ死ぬ夢だ。身体中に津波に対する恐怖が染み込んだような感覚に陥る。
何とか洗面所まで辿り着いた俺は顔に勢いよく水をかけ、先程の夢を忘れようとする。
「…………夢? 本当に…あれは夢なのか?」
だけどどれだけ忘れようとしても、あの光景を夢だと思うことはできなかった。
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