ディストピア・ランドのデート

ちびまるフォイ

最後のディストピア

待ち合わせ時間に彼女は遅れてやってきた。


「ごめんごめん。ちょっとタクシー遅れちゃって」


「ぜんぜん平気だよ。それより楽しみだねディストピアランド」


「うん! 早くいこっ!」


彼女は遅れたタクシーを処理すると、

ふたりで仲良く手をつないでパークへと入っていった。


「最初はどのディストピアエリアにいきたい?」


「うーーん、最初はアポカリプスエリアがいい!」


二人はディストピア・ランドでも一番人気のアポカリプスエリアに向かった。


そこは世界核戦争後を完全再現しているエリア。

あたり一面は謎の動植物が並び、建物はことごとく壊れている。


「すっごーーい!」


「まるで異世界だ!」


とても人が住めなそうな環境なのに、

観光客やパークへやってきた人でごった返しているのがちょっと不思議。


「楽しかったね。次はどのエリアに行こうか?」


彼氏の提案に彼女はマップを広げて目を輝かせる。


「今度はサイバーパンクエリア行ってみたい!」


「もちろん! 行こうか!」


アポカリプスエリアから歩くこと5分。

対岸にあるサイバーパンクエリアはまた様相が異なる。


エリアに足を踏み入れると自分の頭上には名前とQRコードが表示される。


「あはは。見て、ほんとにQR表示された!」


「ちょっと読み取って良い?」


スマホでQRを読み取るとその人の生体情報や、

あらゆる個人情報が一覧できてしまう。

……という設定。


あくまでもパークなのでそれっぽい個人情報が表示されているにすぎない。


「あ、ロボットが歩いてる!」


「警備ロボットっぽいね!」


高いビルが立ち並び、行き届いた天候管理と厳格な監視社会。

あらゆる場所に広告がホログラムで浮かび上がっている。


「あっちにサイバーチュロスあるみたい!」

「え、ほんと!?」


七色に光るチュロスを食べながら二人は楽しい時間を満喫。


「次は?」


「最近できたカオスエリアは?」


「どんな場所なの?」


「気候変動がめちゃくちゃになった世界を再現してるんだって」


「楽しそう!!」


二人がカオスエリアに入ると、まるで別の惑星のようだった。

定期的に暴風が襲ったり酸性雨が降り注いでいる。


「アレ乗ってみたい!」


「いいね、楽しそう!」


様々な天変地異を短いスパンで楽しめるカオスエリアでは、

他のエリアよりも多くのアトラクションが充実。


とくに二人が乗ろうとしている「大洪水マウンテン」は、

大雨で水没した都市をゴムボートでわたる大人気アトラクション。

スリリングな体験が来場者を楽しませている。


「すごい……2時間待ちだって」


「並ばなくちゃ乗れないなら、並ぶしかないよ!」


二人は2時間ならんでアトラクションを体験した。

並んでいる間にも氷河期や砂漠化したり、カオスエリアは退屈しなかった。


「はあ、楽しかった。でもちょっと疲れたね」


「それじゃテンプレートエリアに行こうか」


二人はディストピアランドで一番の休憩スポット。

テンプレートエリアに足を運んだ。


「わぁ……どこも同じ風景だ……!」


テンプレートエリアでは全ての建築物、服装が共通かつ等間隔。

まるでゲームの世界に入ったような感覚。


エリアには同じ髪型、同じ顔、同じ服、同じ靴のスタッフが巡回。


「こんにちは! テンプレートエリアへようこそ!」


さわやかな顔で答えてくれる。


「あの、どこか休める場所はありますか?」


「こんにちは! 今日もいい天気ですね! ハブアナイスデイ!!」


「休憩……」


「こんにちは! テンプレートエリアへようこそ!」


決まったセリフしか話すことができない設定なので、

スタッフに何か頼ることはとうていできなかった。


二人はテンプレートエリアのフードコートにやってきた。


「やっと座れるね」


「ご飯持ってくるよ」


テンプレートエリアで提供されているディストピア飯は1種のみ。

区分けされたお皿にはペースト状のものだけが乗っていた。


「すごい! これがディストピア飯!!」


「味もついてるみたいだよ」


「わ、ほんとだ! ステーキ味のペーストね!」


二人はディストピア飯に舌鼓をうった。

その後もたくさんのディストピアを体験してすっかり大満足。


時間はあっという間に過ぎて、外はすっかり暗くなった。


「今日は楽しかったわ!!」


「僕も楽しかったよ、来てくれてありがとう」


「またディストピアへ来ようね!」


「もちろん!!」


二人はディストピアランドのゲートをくぐり、

ディストピアから現実へと帰っていった。


「今日は電車で変えるの?」


「ううん。お土産もいっぱい買っちゃったしタクシーにする」


「それがいいよ」


彼女が連絡をいれると、何人もの奴隷がやってきた。


「はいこれ持って。あと足疲れたから」


彼女は奴隷たちの人力車タクシーに乗ると、

お土産も奴隷に持たせてゆうゆうと座った。


「それじゃまたね」


別れの挨拶をすると奴隷たちは一斉に駆け出した。


「ちょっと! 揺らしすぎ!!

 雑な運転しないで! 劣等DNAのくせに!!」


彼女をはじめ優勢DNAを持つ人たちは、

劣等DNA因子を持つ奴隷を今日も手ひどくこき使っていた。


もちろん。タクシーをひどく揺らした劣等DNAの奴隷は、

目的地到着と合わせて処理され死んだ。


今日も優勢DNAの人たちは自由気ままな人生を謳歌している。

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