第32話  それは今じゃないでしょ...



 みんなで手を合わせて、それぞれの食事に手をつけ始めた。


 さっきまで無言だったユウちゃんも、美味しそうにそうめんを頬張っていた。


「お、おいしい...!」


「おいしいよね! お腹すいてたし」


 私の言葉に小春も首を縦に振った。


「わかる。私もすごくお腹が空いてたし」


「へー、小春も?」


「うん、朝日にはみんなで集合した時に食べようと言われて......それまで我慢してたから」


 そういうことね。そう思ってユウちゃんを見ていると、心ここに在らずみたい。魂がどこかにいってしまったみたいになってる。


「ゆ、ユウちゃん...? 大丈夫?」


 隣に座るユウちゃんにそっと声をかけると、ユウちゃんは驚いたように固まった。そしてハッとした表情を見せた。


「す、すみません! 少し、考え事をしていたので......でも、大丈夫です」


 へらっと笑っているけど、大丈夫じゃないやつだよね!? 大体、女子の言う“大丈夫”って、“大丈夫”じゃないってよく聞くし......


 対応に困っていると、先ほどの事故を見ていない光瑠が将太くんに向かって、爆弾を投げた。


「そういえば、滝口は好きな人に告白したりしないのか? そんなに好きなら告白した方がいい気がするが......」


 今!? 今それ言う!?


 私は光瑠の対応に驚いて喉を詰まらせた。


「ゲホッゴホッ!!」


 慌ててコップに注いであった水を飲んだ。危ない、喉が詰まるところだったよ。顔を上げると、ユウちゃんも将太くんも私と同じように咳き込んでいた。


 どうやら、そうめんを食べていたユウちゃんも、光瑠の隣でカップ麺を食べていた将太くんも、いきなりの話題にビックリしたみたい。


 それはそうだよね。


「光瑠...急にどうしたの?」


「いや、気になっただけだ。嫌なら無理にする必要もないしな」

 

 まあ、確かにそうだけでも...


 だからと言って、今じゃないでしょ。


 ふと将太くんに目をやると、覚悟を決めるかのように口を固く閉めていた。

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