第30話  事故です② (将太くん 目線)



 口に出したから気づいた、周りにロクな先輩がいないことに。


「や、やっぱり...!」


「マジで!? マジで!?」


「それはさっき聞いたぞ。今更、何を言っているんだ?」


 驚いて口元を押さえる小春さん、ニヤニヤした笑いを浮かべる惟光先輩、うんざりしたように顔をしかめる柴垣。


 口に出さない方がよかったかもしれない。でも、時はすでに遅し。諦めた俺は手作業をしながら、さっき柴垣や霞さんに話したキッカケ話を、小春さんと惟光先輩に教えた。


「そんなことがあったんですね...! すっごくロマンがあるというか...」


「つまり、将太くんは優しくしてもらったユウさんに懐いたってことか......」


 人を懐くっていうんじゃない!! そうツッコミを入れようと思った矢先、柴垣の方に目を向けた。


 柴垣の手には包丁が握られていた。そしてもう片方の手でスイカを押さえている。グラグラと揺れるスイカに刃を入れようとしていた。


「やめろ、バカ!」


 俺は咄嗟に柴垣の包丁を持っている方の手を掴んだ。柴垣は驚いたように俺の方を見たものの、すぐに不機嫌そうな顔をした。


「なんだ?」


「なんだ? じゃねえよ、切るなら一言でもいいから声をかけろって! スイカがグラグラしてるし、危ないだろ!」


 俺は柴垣のサポートに入っていると、柴垣が思い出したかのように言った。


「あ、もう三分たったはずだ。小春さんでも、惟光さんでも、いいので僕のカップ麺の蓋を開けていただいてもいいですか?」


 柴垣の言葉に一番最初に反応した小春さんが、柴垣の温めたカップ麺を開けた。


「うわ! このカップ麺、小袋が入れっぱなしになってる!」


 という声が飛んできた。


 確かにそういうこともあるけど!!


 スイカを切り終わって、皿に移していると、惟光先輩に話しかけられた。


「皿は俺らで置くから、霞とユウさんを呼んできてほしい」


「なんで俺ですか?」


 俺の素朴な疑問に惟光先輩は苦笑いした。


「光瑠くんが行っても霞さんと言い合いになりそうだし、将太くんはユウさんと仲良いし、そっちの方がいいかなって思って」


 言っていることは一理ある。でも、最後の方にニヤニヤした笑いが混じっているのは、気のせいではない気がする。


「わかりました」


 俺は惟光先輩に言われた通り、霞さんとユウの座っているソファに向かった。


 事故だった。聞こえてしまった。


 ユウが真っ赤な顔で俺のことが好きだと、霞さんに話していたのを見てしまった。


 惟光先輩のいる台所に戻ろうとした時、後ろを振り向いた霞さんが俺の存在に気づいた。


「......そろそろ行こうか? って、え?」


 二人とも俺を見て顔を硬直させた。


 誤解だと言いたい、事故だったと。

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