key〜光の先へ〜
マッグロウ
★★世界観設定資料★★
★世界観設定資料★(お手すきの際にお読みください。)
読まなくても物語を読み進めるのに支障はありません。
プロローグから読み進めて頂いて大丈夫です。
(すべてが今作で登場と言うわけではありません。
色々派生させて物語を作っていけたらと思い、世界を広げております。)
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《二律背反の世界》
世界は強大な2大国家の力の均衡によりバランスをたもっている。
アイシア皇国:神秘と伝統に守られし大地
アイシア皇国は、古くから神秘なる剣と深遠なる魔法が支配する、歴史と伝統を重んじる国家である。その建国神話は、世界を創造したとされる光の精霊アイシアと、最初の皇帝が交わした盟約に端を発するとされる。以来、皇国の血筋は精霊の加護を受け、その地の魔力は尽きることなく民を潤してきた。
1.歴史と建国神話
アイシア皇国の歴史は、およそ2000年に及ぶとされている。建国初期の時代は「黎明の時代」と呼ばれ、各地に点在していた魔術を操る部族や剣士たちが、初代皇帝アルカディアス・アイシアの下に統一され、強固な国家基盤が築かれた。アルカディアスは、伝説によれば光の精霊アイシアから直接啓示を受け、聖なる剣「アストライア」と、大地の魔力を操る秘術を授かったとされている。この伝説は、皇国の正統性と、魔力への信仰の根幹を成している。
「黄金時代」は、皇国の魔術と剣術が最も発展した時期を指す。この時代には、数々の偉大な魔術師や剣聖が輩出され、彼らの功績によって皇国の版図は拡大し、文化は花開いた。特に魔術においては、星辰魔術、元素魔術、治癒魔術といった体系が確立され、その力は人々の生活に深く根差していった。竜を従える「竜騎士団」の創設もこの時代であり、彼らは皇国の守護者として畏敬を集めた。
しかし、その繁栄は永遠ではなかった。約300年前、隣国ローレル王国との間で「大戦(レガシー・ウォー)」が勃発する。ローレル王国の革新的な科学技術、特に魔導機関(マキナ)を用いた鋼鉄の兵器は、アイシアの魔法を凌駕する破壊力を見せつけた。幾度となく皇国の結界は貫かれ、多くの聖地が荒廃した。この戦争は、皇国に深い傷跡を残し、二度とあのような惨劇を繰り返さないという教訓を刻み込んだ。現在の「ガラス細工のような均衡」は、この大戦の教訓と、互いの計り知れない破壊力への畏怖の上に成り立っている。
2.地理と主要都市
アイシア皇国の国土は、豊かな自然に恵まれ、国土の中央には霊峰「聖竜山(セイントドラゴンマウンテン)」がそびえ立つ。この山は、皇国最大の魔力源泉とされ、その山頂には歴代皇帝が修行を行う「天空の祭壇」が存在すると言われている。
皇都バリス: 皇国の中央に位置する首都であり、政治、文化、魔術の中心地。歴代皇帝が住まう「光の宮殿」があり、周囲は強固な魔法障壁で守られている。都市全体に魔力導管が張り巡らされ、煌びやかな光に満ちている。ギルドの総本部や、皇立魔術学院、図書館そして最大の聖なる泉「神々の息吹」もここに存在する。
蒼光の森(そうこうのもり): 皇都の西方に広がる広大な森林地帯。古の精霊たちが宿るとされ、未だ踏み入ることのできない聖域も多い。希少な薬草や魔力を持つ動植物が多く生息しており、一部のエルフ族の隠れ里が存在すると噂されている。エライザの故郷もこの森のどこかにあったのかもしれない。
炎の渓谷(ほのおのけいこく): 皇都の東方に位置する火山地帯。地下深くから噴き出すマグマの熱によって、特殊な魔力が生成されると言われている。ここには、炎の精霊を信仰する氏族が住み、彼らは鍛冶と炎魔術に長けている。古代の遺跡も点在し、魔力の不安定化の報告が特に多い地域の一つ。
リーン村: 皇国北部の辺境に位置する小さな町。バッシュの旅立ちの地として設定されている。豊かな自然に囲まれ、魔力は豊かだが、中央の都市からは遠く、情報の流通も緩やか。素朴な人々が暮らしているが、この地にも魔力の不安定化の兆候は現れ始めている。
3.社会構造と信仰
アイシア皇国は、皇帝を頂点とする階級社会であり、魔力への信仰が人々の生活と密接に結びついている。
皇帝と皇族: 皇国の最高権力者。光の精霊アイシアの血を引くとされ、最も強大な魔力を宿す存在と信じられている。皇族は、皇国の各地に散らばる聖なる泉や古代遺跡の守護者としての役割も担う。
貴族階級: 皇族に次ぐ権力を持つ層。魔術に秀でた家系や、長きにわたり皇国に貢献してきた名家が名を連ねる。彼らは政治の中枢を担い、それぞれの領地を治めている。貴族の中には、伝統と秩序を重んじる「保守派」と、秘められた魔力の探求に積極的な「革新派」が存在し、水面下で対立している。
魔術師団: 皇国における魔術師たちの統括組織。魔術の研鑽、研究、そして魔術師の育成を行う。皇国の魔力源泉の管理も任されており、今回の魔力不安定化に最も頭を悩ませている。多岐にわたる専門分野の魔術師が所属している。近年は皇国騎士団に組み込まれている。
騎士団: 皇国の治安維持と防衛を担う組織。特に「竜騎士団」は、竜と契約し、その力を借りて戦う精鋭部隊であり、皇国の象徴的存在でもある。彼らは剣術の達人であり、一部の者は魔術も併用する。
だが、めったに出撃することはなく、禁軍(皇帝直属の部隊)に位置する。
一般市民: 農業や商業に従事する人々。魔力への信仰が深く、日々の生活の中で魔術師や精霊の恩恵を受けている。魔力の不安定化は、彼らの生活に直接的な影響を与え始めており、漠然とした不安を抱えている。
4.魔力の不安定化と「禁忌の魔法」の噂
プロローグで語られた魔力の不安定化は、皇国に静かなる危機をもたらしている。
具体的な影響: 聖なる泉の水は、かつての澄んだ輝きを失い、うっすらと濁り始めている。これにより、泉の水を飲んで癒されていた病が治りにくくなり、新たな原因不明の病も散見されるようになった。作物は魔力の恩恵を受けられず、生育が遅れたり、収穫量が減少したりしている。これは、皇国の経済基盤をも揺るがしかねない事態である。
原因不明の状況: 皇族の魔術師たちは原因究明に奔走しているが、明確な理由は掴めていない。「大地の魔力の脈動が乱れている」「精霊の怒りか」「過去に例を見ない現象」など、様々な憶測が飛び交っているが、どれも確証がない。
「禁忌の魔法」の噂: この不穏な状況下で囁かれ始めたのが、高位の皇族の一部が「禁忌の魔法」に手を出しているという噂である。禁忌の魔法とは、精霊との盟約に背き、強制的に魔力を引き出したり、生命の倫理を無視した術を指す。これは、一説には「光の精霊アイシアの怒り」を招き、魔力の流れを乱す原因となっているのではないかとされている。この噂は、長きにわたり盤石であった皇国の根幹を揺るがす可能性を秘めている。特に保守派の貴族たちは、皇族の一部が己の権力や欲望のために皇国の伝統を破っているのではないかと強く警戒している。実際のところは、皇族の一部が行っていると噂されているその情報も疑わしい。真実がつかめず。
アイシア皇国は、一見すると強固な魔法と伝統に守られているが、その内側では静かに、しかし確実に、崩壊の兆しを見せ始めている。
●ローレル王国:技術革新と合理性の追求
ローレル王国は、無限の探究心と革新的な科学技術を誇る、進歩を重んじる国家である。その建国は、遥か昔、機械と理を追求する天才的な発明家たちによって、旧時代の非科学的な迷信を打ち破り、合理的な社会を築き上げようとした運動に端を発するとされる。彼らは自然の法則を解き明かし、それを制御する魔導機関(マキナ)を発明し、繁栄の基盤を築いた。
1.歴史と建国理念
ローレル王国の歴史は、約1500年ほどとされている。建国初期の時代は「理性の夜明け」と呼ばれ、各地に散在していた技術者集団や学者たちが、初代国王ヴィクトール・ローレルに率いられ、統一された国家を形成した。ヴィクトールは、科学と合理性を至上とし、古の迷信を排し、人々の生活を技術で豊かにすることを建国理念とした。彼の指導のもと、大規模な研究機関が設立され、後のローレル王国の繁栄を支える基礎技術が確立されていった。
「鋼鉄の時代」は、ローレル王国の魔導機関技術が最も発展した時期を指す。この時代には、数々の画期的な発明が生まれ、その技術力は飛躍的に向上した。空を飛ぶ飛行船、大地を走る鋼鉄の兵、そして都市のエネルギーを賄う巨大な魔導炉など、その全てが人々の生活を一変させた。特に軍事技術においては、精密な砲撃を可能にする長距離砲や、個々の兵士の能力を飛躍的に向上させる動力装甲などが開発され、その力は世界に轟いた。
しかし、その発展は常に平穏だったわけではない。約300年前、隣国アイシア皇国との間で「大戦(レガシー・ウォー)」が勃発する。アイシア皇国の神秘なる魔法、特に精霊の力を借りた予測不能な攻撃は、ローレルの堅牢な装甲をも打ち破った。多くの最新鋭兵器が失われ、技術者たちの多くが犠牲になった。この戦争は、王国に深い傷跡を残し、いかに技術が進歩しても、全てを制御することはできないという苦い教訓を刻み込んだ。現在の「ガラス細工のような均衡」は、この大戦の教訓と、互いの計り知れない破壊力への畏怖の上に成り立っている。
2.地理と主要都市
ローレル王国の国土は、鉱物資源に富み、大規模な工業都市が点在する。国土の中央には、王国最大の魔導炉がある巨大な火山「鉄炉山(アイアンフォージマウンテン)」がそびえ立つ。この山は、王国最大のエネルギー源泉とされ、その地下深くには魔導機関の核心部が隠されていると言われている。
王都ギアハルト: 王国の中央に位置する首都であり、政治、経済、科学技術の中心地。歴代国王が住まう「鋼鉄の宮殿」があり、都市全体に魔導パイプラインが張り巡らされ、常に魔導機関の稼働音と蒸気の音が響き渡る。中央魔導工廠や、王立科学アカデミー、そして最大の魔導炉「大地の鼓動」もここに存在する。
機械の森(マキナフォレスト): 王都の北方に広がる広大な森林地帯。かつては豊かな自然が広がっていたが、大規模な鉱物採掘と試験施設の建設により、機械の残骸や錆びた構造物が点在する荒れた地域となっている。新型兵器の秘密試験場や、廃棄された魔導兵器の墓場がある。
煙突の谷(スモークバレー): 王都の南方に位置する鉱山地帯。地下深くには膨大な鉱物資源が眠っており、大規模な採掘工場や精錬所が立ち並ぶ。常に煙が立ち上り、空は煤で覆われている。多くの労働者が過酷な環境で働き、貧困層の集中する地域の一つでもある。この地域では、不審な爆発や振動の報告が特に多い。
プロトタイプシティ: ローレル王国北部の最先端研究都市。都市全体が巨大な実験施設のような構造をしており、常に新しい技術の試験や試作が行われている。一部の住民は技術者や研究者であり、高度な知能を持つが、社会からは隔絶されたような雰囲気を醸し出している。
3.社会構造と理念
ローレル王国は、国王を頂点とする階級社会であり、科学技術への信仰と合理的な思考が人々の生活と密接に結びついている。
国王と王族: 王国の最高権力者。初代国王ヴィクトール・ローレルの血を引くとされ、最も優れた知性と合理的な判断力を持つ存在と信じられている。王族は、王国の各研究機関や工場に指示を出し、技術開発を推進する役割も担う。
貴族階級: 王族に次ぐ権力を持つ層。魔導機関の設計や製造に秀でた家系や、長きにわたり王国に貢献してきた技術者や発明家の名家が名を連ねる。彼らは政治の中枢を担い、それぞれの領地を治めている。貴族の中には、現在の技術を改良し安定させることを重んじる「保守派」と、既存の倫理や安全性を無視してでも「究極の力」を求める「革新派(危険な研究を進めていると噂される一部の科学者集団を含む)」が存在し、対立している。
科学アカデミー: 王国における科学者たちの統括組織。技術の研鑽、研究、そして科学者の育成を行う。王国の魔導機関の管理も任されており、今回の異常現象に最も頭を悩ませている。アカデミーには、機械工学、エネルギー学、素材科学など、多岐にわたる専門分野の科学者が所属している。
機械兵団: 王国の治安維持と防衛を担う組織。特に「鉄鋼騎士団」は、最新鋭の動力装甲を装備し、重火器を操る精鋭部隊であり、王国の象徴的存在でもある。彼らは戦術的な思考力に長けており、一部の者は、機械と直接リンクする能力を持つとされている。
一般市民: 工場での労働や商業に従事する人々。技術の恩恵を受けているが、同時にその進歩に翻弄される側面も持つ。自動化の進展は、彼らの生活に直接的な影響を与え始めており、漠然とした不安と、一部では陰謀論への傾倒が見られる。
4.陰謀論と「究極の力」の追求
陰謀論は、ローレル王国に静かなる不信感をもたらしている。
技術革新の暴走: 王国の中核技術である魔導機関の開発を巡り、一部の急進的な科学者集団が、国王の許可なく危険な研究を進めているという噂が広がっている。彼らは、既存の魔導機関の限界を超え、アイシア皇国の魔法すら凌駕する「究極の力」を求めているとされる。この研究は、未知のエネルギー源の活用や、倫理的に問題のある実験(例えば、生命の複製や、機械と有機体の融合など)を含んでいると囁かれている。都市部で報告される不可解な爆発音や振動は、これらの危険な実験の副産物であると民衆は考えている。
社会格差の拡大: 自動化された機械が人間の仕事を代替し、職を失った人々が路上に溢れる一方で、王国の富が一部の特権階級に集中しているという陰謀論が根強く存在する。これは、技術革新が一部の富裕層にのみ利益をもたらし、社会全体を不幸にしているという不満の表れである。失業者の増加は治安の悪化を招き、貧困層の間では政府に対する不満が鬱積している。
情報統制と不信感: これらの陰謀論は、王国の情報統制によって公には議論されることはない。しかし、その統制はかえって人々の不信感を煽り、地下の集会や裏路地の酒場では、政府の隠蔽工作や、特権階級の陰謀について囁きが絶えない。人々は公式発表を信用せず、独自のルートで情報を探ろうとしている。
ローレル王国は、一見すると輝かしい技術と合理性によって統治されているが、その内側では静かに、しかし確実に、社会の亀裂と不穏な動きが拡大している。
《二律背反の世界:宗教的背景》
アイシア皇国とローレル王国は、その国是とする思想が異なるように、信仰のあり方も大きく異なっている。それぞれの国民の精神的支柱となる宗教は、国の歴史、社会構造、そして人々の生活様式に深く影響を与えている。
・アイシア皇国:精霊信仰と自然の理
アイシア皇国の信仰は、精霊信仰を基盤としている。これは、自然界のあらゆるものに精霊が宿り、それらと調和することで世界の理が保たれるという考えである。この信仰は、皇国の建国神話に深く根ざしている。
1.光の精霊アイシア 皇国の最高神は、世界の創造と生命の源を司るとされる「光の精霊アイシア」である。建国神話によれば、この精霊が初代皇帝アルカディアスに啓示を与え、聖なる剣と大地の魔力を授けたとされている。アイシアは、太陽の光、月の輝き、そして生命の根源である魔力そのものの象徴であり、人々の心に希望と秩序をもたらすと信じられている。
2.多様な精霊たち 光の精霊アイシアの下には、森羅万象を司る多様な精霊たちが存在すると考えられている。
大地の精霊: 豊かな土壌と作物の恵みをもたらす。農民は種を蒔く前に大地の精霊に祈りを捧げ、豊作を願う。
水の精霊: 聖なる泉や河川、雨を司る。皇国の生命線である水の源であり、治癒や浄化の力を持つとされる。多くの病が聖なる泉の水で癒されてきたのは、水の精霊の恩恵と考えられている。
風の精霊: 情報や伝承を運び、旅の安全を守る。旅立つ者は風の精霊に道中の無事を祈る。
炎の精霊: 鍛冶や情熱、破壊と再生を司る。炎の渓谷に住む氏族は特に炎の精霊を信仰し、その力を借りて鍛冶を行う。
樹の精霊: 森の生命力と古の知恵を宿す。蒼光の森のような原生林には、特に強力な樹の精霊が宿るとされ、エルフ族との関わりも深い。 これらの精霊たちは、時に怒り、時に恵みをもたらすとされ、人々は儀式や祈りを通じて彼らとの調和を図る。
3.信仰の形態と役割
巫女と神官: 各地の聖なる泉や古代遺跡には、精霊の声を聴き、人々に神託を伝える巫女や神官が常駐している。彼らは魔術師の中でも特に精霊との親和性が高く、人々と精霊の間の橋渡し役を担う。エライザの母もエルフの里の巫女であったことから、彼女自身も高い精神性と精霊との繋がりを持つと考えられる。
祭りや儀式: 季節の変わり目や収穫期には、精霊に感謝し、新たな恵みを願う盛大な祭りや儀式が執り行われる。これらの儀式は、魔術師の導きのもと、共同体全体で行われ、人々の絆を深める役割も果たす。
禁忌: 精霊との盟約に背き、強制的に魔力を引き出したり、生命の倫理を無視した行いは「禁忌」とされる。これは、精霊の怒りを買い、魔力の流れを乱し、世界に災厄をもたらすと考えられている。現在の魔力の不安定化は、まさにこの禁忌が破られたことによる精霊の怒りではないかと、保守派の貴族や一部の魔術師の間で囁かれている。
アイシア皇国の信仰は、自然との共存と、見えざる力の尊厳を重んじる思想に貫かれている。しかし、現在の魔力の不安定化と「禁忌の魔法」の噂は、この根深い信仰に亀裂を生じさせ、人々の心に深い動揺をもたらしている。
・ローレル王国:理性と進歩の信仰
ローレル王国の信仰は、理性と進歩の信仰という、より世俗的で哲学的な側面を持つ。彼らは、科学と技術こそが人類を蒙昧から解放し、真の豊かさをもたらすという理念を信奉している。これは、神秘的な力よりも、人間自身の知性と努力を重んじる考え方である。
1.「理(ことわり)」と「創造主(プロメテウス)」 ローレル王国には、アイシア皇国のような具体的な神は存在しない。代わりに、宇宙の法則を司る抽象的な概念としての「理(ことわり)」が存在すると信じられている。そして、その「理」を解き明かし、利用することで世界をより良くする「創造主(プロメテウス)」としての人間自身の可能性を至上とする。彼らにとって、科学者や発明家は、この「理」を追求し、新たなものを「創造」する、ある種の聖職者に近い存在である。
2.科学の殿堂と技術者の崇拝
科学アカデミー: 科学アカデミーは、単なる研究機関ではなく、事実上の「信仰の中心」となっている。アカデミーの建物は「理性の殿堂」と呼ばれ、その中で行われる研究や発見は、人類の「進歩」を示す神聖な行為と見なされている。
偉大な発明家たち: 歴史上の偉大な発明家や科学者は、まるで聖人のように崇拝される。彼らの肖像画は公共の場に飾られ、その功績は教科書に記され、子供たちに「知識と努力こそが未来を創る」と教えられる。初代国王ヴィクトール・ローレルは、その中でも特に崇拝され、彼の建国理念は金科玉条とされている。
魔導機関(マキナ): 魔導機関は、単なる機械ではなく、「理」を具現化した奇跡の産物として畏敬の念を込めて扱われる。巨大な魔導炉は、都市の心臓部としてだけでなく、人々の技術への信仰を象徴するモニュメントとしても存在している。
3.信仰の形態と役割
知識と探求の奨励: 国民は幼い頃から、常に疑問を持ち、真理を探求する精神を尊ぶよう教えられる。学校教育は科学と技術に重点を置き、個々の才能を最大限に引き出すことを目標とする。
合理主義と効率性: あらゆる判断は感情や迷信に惑わされず、客観的なデータと論理に基づいて行われるべきだとされる。社会全体が効率性を追求し、無駄を排除することを是とする。
「究極の力」への渇望: アイシア皇国の魔法を凌駕し、自然すらも完全に制御できる「究極の力」の探求は、一部の科学者にとって宗教的な使命にも近いものとなっている。それは、人類が「理」を完全に掌握し、完璧な世界を創造できるという究極の理想の実現を意味するからである。この思想は、既存の倫理観を乗り越えようとする危険な研究にも繋がりかねない。
陰謀論への懐疑: 陰謀論が囁かれる背景には、この合理主義への過度な信仰がある。政府は、データや論理に基づかない噂や感情的な訴えを「非科学的」として一蹴する傾向がある。しかし、そのことがかえって民衆との乖離を生み、水面下で不信感が募る結果となっている。
ローレル王国の信仰は、人類の無限の可能性と、知性の力による進歩を信じている。しかし、その極端な合理主義と「究極の力」への渇望は、時に倫理の逸脱や社会の亀裂を生み出す危険性をはらんでいる。
《未開の地:星屑の海(スターダスト・シー)》
アイシア皇国とローレル王国のいずれの地図にも、正確な記述のない広大な空白地帯が存在する。それは、両国の間に横たわる、あるいは世界の果てに位置するとされる、未踏の領域──「星屑の海(スターダスト・シー)」である。
1.地理的特徴と呼称の由来 「星屑の海」という呼称は、主にローレル王国側で使われる名称である。その広大な領域は、夜空の星々が地上に降り注いだかのように、無数の奇岩、古代の巨木の森、そして謎めいた光を放つ鉱石群によって構成されていると言われている。この地は、常に不可思議な現象に見舞われており、昼間でも空に流星のような光が走ったり、地面から淡い光の粒子が湧き上がったりすることから、この名で呼ばれるようになった。
アイシア皇国では、この地を「古の精霊の眠る地」と呼び、安易に踏み入れてはならない聖域として認識している。彼らは、この地に世界の創造に関わるほどの巨大な精霊が眠っている、あるいは、大戦によって失われた強大な魔力が渦巻いているため、不安定な魔力場を形成していると考えている。
2.両国による探査と放棄
アイシア皇国側の試み: 過去、アイシア皇国は、この地から放たれる強大な魔力を調査しようと試みたことがある。選りすぐりの魔術師や竜騎士団が派遣されたが、彼らを待ち受けていたのは、突如として発生する魔力の暴走、未知の魔物、そして方向感覚を狂わせるような空間の歪みであった。多くの犠牲を出し、結局、彼らはこの地の奥深くへ到達することはできず、調査は断念された。彼らは、この地が精霊によって護られた領域であり、人間の手で干渉すべきではないと結論付けた。
ローレル王国側の試み: ローレル王国もまた、この地の豊富な鉱物資源や未知のエネルギー源に目をつけ、幾度となく探査隊を送り込んだ。最新鋭の魔導兵器や探査機が投入されたが、結果はアイシアと同様であった。探査機は原因不明の故障を起こし、魔導兵器は暴走したり、機能不全に陥ったりした。この地を覆う特殊な魔力場が、ローレルの技術にとって極めて有害であることが判明したのだ。精密機器が誤作動を起こし、通信は途絶え、時には探査隊員が精神に異常をきたすといった報告すら上がった。ローレル王国は、多大な費用と人的資源を費やした結果、この地への大規模な侵攻は現状の技術では不可能であると判断し、地図上では「未踏査区域」と記して、事実上放棄している。
3.噂と伝説 「星屑の海」には、両国の間に存在する空白地帯であるがゆえに、様々な噂や伝説が存在する。
古の文明の遺産: この地の奥深くには、両国の大戦以前に存在した、高度な魔法文明あるいは科学文明の巨大な遺跡が眠っているという噂がある。そこには、世界の理を覆すほどの力が秘められているとも言われる。
未知の生命体: 両国では見たことのない、奇妙な姿をした動植物や、強大な力を持つ魔物が棲息しているという報告が断片的に存在する。それらの多くは、この地の特殊な魔力環境に適応した、常識外の存在だと考えられている。
時間の歪み: この地では、時間の流れが不安定になるという伝説もある。数日入っただけで何年も経っていたり、逆に数年が瞬く間に過ぎ去ったりするといった不可解な話が語り継がれている。
4.現在の状況 現在、「星屑の海」は、両国の間に存在する事実上の緩衝地帯となっている。誰もがその存在を知りながらも、その危険性ゆえに深部まで踏み入る者はいない。しかし、ごく稀に、一攫千金を夢見る冒険者や、あるいは両国の政府の監視の目を掻い潜ろうとする密輸業者、あるいは隠密行動を目的とした一部の組織が、その辺縁部に足を踏み入れることがある。
アイシア皇国の魔力不安定化と、ローレル王国の技術暴走の陰謀論が囁かれる現在、この「星屑の海」が重要なポイントとなる可能性がある。
《二律背反の世界:種族》
この世界には、多様な種族がそれぞれの文化や思想を持って存在している。それぞれの種族は、二大国家のいずれかに属したり、あるいはどちらにも属さず独自の生活を送ったりしている。
・
最も繁栄している種族であり、二大国家「アイシア皇国」と「ローレル王国」の主要な構成員。適応能力と繁殖力に優れ、あらゆる環境で生活している。他種族に比べて個々の魔力や身体能力は劣るが、その数の多さと、文明を築く知性によって世界を支配している。
アイシア皇国の人種:精霊信仰と魔力を重んじる。自然との調和を求める生活様式が根付いており、剣術や魔法の研鑽に励む者が多い。
ローレル王国の人種:科学技術と合理性を追求する。魔導機関の操作や研究、発明に情熱を注ぎ、常に新しい可能性を追い求めている。
バッシュは人種だが、背中の刻印と指輪の謎から、その起源には何か秘密があるのかもしれない。
・エルフ
神秘的な力を宿す長命な種族。森羅万象に宿る精霊の声を聴くことができ、自然と深く結びついた生活を送っている。
特徴:尖った耳、高い知性、そして精霊との親和性が非常に高い。彼らの多くは、アイシア皇国の蒼光の森の奥深くに隠れ里を持つとされる。しかし、その姿を目撃した者は少なく、都市部に出ることは稀である。
巫女の血筋:エルフの社会では、特に精霊との繋がりが強い者が巫女として崇拝される。彼女たちは、里の繁栄を祈り、未来を予見する力を持つ。エライザはエルフであり、巫女の娘として生まれたため、彼女自身も強大な魔力と特別な能力を秘めている可能性がある。
現在の状況:エライザの故郷が消されたことから、危険が迫っていることが示唆されている。自然破壊や、禁忌の魔法に手を染める存在が、彼らの安息の地を脅かしているのかもしれない。
・ドワーフ
東の炎の渓谷に住む、鍛冶と工芸に秀でた頑健な種族。炎の精霊を信仰し、その熱と力を借りて、比類なき鋼鉄や精緻な装飾品を生み出す。
特徴:小柄でずんぐりとした体型だが、強靭な肉体を持ち、長い髭をたくわえている。彼らは地下深くの鉱脈に精通し、採掘技術も極めて高い。
社会:職人の階級制度が厳しく、最高の技術を持つ名工は尊敬を集める。独自の言葉と文化を持ち、閉鎖的なコミュニティを築いている。ローレル王国の技術者とも交流があるようだが、彼らの誇り高き職人気質は、時にローレルの合理主義と衝突することもある。
現在の状況:炎の渓谷での魔力の不安定化や不審な爆発は、ドワーフの生活に直接的な影響を与えている。彼らはこれを精霊の怒りと解釈し、事態の解決を望んでいる。
・妖精(フェアリー)
異界の狭間にのみ存在できる、非物質的な存在。
特徴:目に見えない、あるいは光の粒子のような姿をしていると伝えられる。物理的な干渉はできないが、精神や運命に影響を与えることができる。
世界樹との繋がり:彼らの存在は、世界の中心にあるとされる「世界樹」と深く結びついている。世界樹が世界の理を保つ限り、妖精も存在し続けることができる。
役割:異界の狭間でバッシュとエライザを助け、運命を告げたように、時に世界の均衡を保つために干渉することがある。しかし、直接的な助言はせず、謎めいた言葉で導きを与えることが多い。バッシュの指輪についても何かを知っているようだが、多くを語らないのは、干渉しすぎることが世界の理を歪めることを知っているからかもしれない。
・亜人(デミヒューマン)
「悪魔」とも呼ばれる、未確認の種族。
特徴:未だその実態は謎に包まれている。
現在の状況:目撃情報や記録は少なく、物語の世界ではまだ伝説上の存在に近い。しかし、魔力の不安定化や禁忌の魔法が世界に影響を及ぼし始めれば、彼らもまた、その姿を現す可能性がある。彼らが善なる存在か悪なる存在か、あるいはどちらでもないのかは、物語の中で明らかになっていくだろう。
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