居なくなんてならないで
雲霓藍梨
居なくなんてならないで
あるところに、双子の姉弟がおりました。
産まれた時からいつも一緒の二人は、他の人とは違う、変わったチカラを持っていました。
それは、お姉さんのツクが「絵に描いた欲しい物を本物にする力」、弟のサクが「口に出した要らない物を消す力」という魔法でした。
「ツクちゃん、つみきであそぼ!」
「いいよ!じゃあつみきはどんな形がいいかなあ」
三角、まる、長い四角に短い四角。
ツクはお絵描き帳に好きな様に絵を描いては、次々と積み木を生み出していきます。
「じゃあ、沢山作ったからこれでお家でも作ろっか!」
「うん!ツクちゃんとぼくの二人のお家だね!」
正反対のチカラを持った双子は、いつでも一緒の仲良し姉弟でした。
「今度はかくれんぼしようよ、サク」
「じゃあおかたづけしなきゃだね!“つみきなくなれ”!」
違う遊びを始める前の片付けは、サクの担当です。
*
ある日、二人は大喧嘩をしました。
「ツクちゃんなんてキライ!いなくなればいいんだ!」
その言葉を口にした瞬間、目の前にいたツクはスッと消えていなくなってしまいました。
サクは言葉通り消えたツクに満足そうに笑うと、さっきまでの続きに戻って遊び始めました。
それから1日が経ち、2日が経ちーー
1週間、2週間、そして1ヶ月が経って。
サクは、いつもひとりぼっちでした。
遊ぶのも、おやつを食べるのも、眠る時も。笑うのも、怒るのも、泣くのだってひとりです。
最初の数日は良かったのに、いつも一緒に居たツクが居ないだけでどんな事をしていても楽しくありません。
「ツクちゃん…?」
一緒にかくれんぼをした公園。
一緒に鬼ごっこをしたお庭。
一緒にお菓子を食べた自分達の部屋。
毎日一緒に寝ていたベッド。
何処を見てもツクが居た記憶が蘇ってくるのに、でも、何処を見てもサクは居る事もなくて。
「ひっく、ひっく…ツク、ちゃん…。
う、うわあああん!!」
いつでも隣に居たはずの存在が、本当に居なくなってしまった事を改めて実感してしまったサクは、ツクが大好きだったクマの人形を抱きしめて大声をあげて泣き出しました。
「ツクちゃん、ツクちゃん…っ!
いなくなっちゃえなんて言ってゴメンね、大キライなんて言ってゴメン!
ツクちゃんがいないと何もたのしくないよ。何回でもゴメンなさいするから、帰ってきてよぉ…!!」
大声で泣いて、泣いて。泣き疲れたサクは、そのまま深い深い眠りに落ちました。
*
「——サク、ねえ、サクってば」
優しい声と共に肩を揺すられて、サクは重いまぶたと頭をゆっくりと持ち上げて、ぼんやりと声を掛けてきた人物を目に映しました。
「サク、だいじょうぶ?おめめ赤くなってるよ?」
それが誰だかようやく分かったサクは、相手が驚くのも気にせず大声で泣いて飛びつきました。
「ツク、ツクちゃん…!ゴメンなさい!もうどっかに行ったりしないで!キライじゃないの、ほんとはツクちゃんのこと大スキだから!ぼくのこと、ひとりにしないでよおお」
「どうしたの、サク?
だいじょうぶ。わたし、ここに居るよ」
わんわん泣きつくサクを、ツクは優しく頭を撫でて抱きしめます。
どうやらツクはサクとケンカして「いなくなればいい」と言われた記憶も、自分が居なくなっていたのだという記憶も無くなっていたようで、サクの言葉にしきりに首をひねりながらも彼をあやし続けていました。
*
その後、仲直りした双子は以前と同じようにいつも一緒です。
でも、変わった所もありました。
それは、双子の魔法が無くなった事と、ケンカをしても「ゴメンなさい」と仲直りが出来るようになった事です。
おわり
居なくなんてならないで 雲霓藍梨 @ungei
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