第1章「目覚めよ、筋肉の奥底に眠る魔力」
「お兄ちゃん、あの人たちがごはん、取ってったの……」
泣きじゃくる少女を背に、ガルドは血の匂いが残る裏路地を歩いていた。
腹が減って力が出ないガキどもを守るため、今日も彼は殴り続けている。拳で、筋肉で、正義を語って。
だが、その日だけは何かが違った。
「……エリナ、ちょっとここで待ってろ」
彼の幼馴染で、今は孤児院の手伝いをしている少女──ミーナ・エリナが、貴族の馬車にさらわれたのだ。
「貴族の道楽だよ。スラムの女を連れ去って、気が済んだら捨てる。いつものことだ」
情報屋のラウルが言う。
ガルドは怒りで歯を食いしばる。
正義を語るには力が必要。今の自分には、拳しかない。
「行くぞ。ぶっ壊して、ミーナを取り返す」
夜の王都郊外、貴族の別邸。
門番を一撃で沈め、豪奢な屋敷の壁をブチ破ってガルドは突入した。だが──
「……ほぉ、面白い虫が来たな」
現れたのは、“魔紋騎士”と呼ばれる貴族直属の魔法使い。
魔法陣が宙に浮かび、無数の火の矢がガルドを貫こうと襲いかかる。
「ちっ、魔法使いってのは……!」
避けられない。火の矢が肌を焼き、筋肉を裂く。
それでもガルドは止まらない。拳を振り上げ、敵の顔面へ全力のストレートを叩き込もうと──
その時だった。
全身に、光が走った。
「──あ……あぁああああっ!!」
右腕から蒼い魔力がほとばしる。
彼の肉体から、制御不能な魔力が爆発的に噴き出し、空間そのものが軋むような音を立てる。
「馬鹿な、あの魔力は……!? 貴族の血筋でもないのに……っ!!」
火の矢が消し飛び、空間ごと敵を押しつぶす“力の奔流”が放たれる。
魔紋騎士は悲鳴も上げられぬまま、壁ごと吹き飛ばされた。
「な……に、これ……オレの……?」
己の右腕が、青白く光っていた。まるで魔力の炎が燃え続けているかのように。
ガルドは震える手を見下ろし、理解した。
「魔法……? 俺が……?」
意識が遠のく。だが最後に見たのは、ミーナの涙と、崩れゆく屋敷の天井──
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