異世界転生したら騎士団長になってた件〜管理職目指した俺が仲間と歩んだ人生リスタート録〜

元之介

第1話 異世界転生

 ふと我に返るとミライは教室の中で教科書をにらんでいた。歴史の授業だ。歴史教員のサカモトが何か話している。

(ん? ここはどこだ? 教室?)

 杉原未來すぎはらみらいは戸惑った。高校1年のミライが歴史の授業を受けていた。

(歴史? 授業? 夢か?)

 杉原未來は会社の会議室に集められ外部講師を招いてのコンプライアンス研修受講中だった。つい眠気が差して、うとうとしていた。

 だけど今、自分は歴史の教科書を開いてサカモトの授業を聞いている。

(サカモト先生って誰なんだよ? ああ、坂本先生はコンプライアンス研修の講師の先生か……)

 そう思った時、ミライはさっき何があったのか思い出した。

(あれは……核爆発……?!)

 研修の最中だ。会議室の窓から見える空の一点が明るく輝きだした。未來もそれに気が付いたが、その光点は一瞬で拡大し津波のように会議室の窓に押し寄せたのだ。ものの1秒か2秒の間の出来事だった。

 世界が光に包まれ、自分も光の中に飲み込まれて、そこで記憶が途切れた。

(俺は死んだのか……?)

 実際杉原未來のいた世界は某国の打ち込んだ核爆弾によって大きな被害を被った。杉原未來が勤務していたミワタ建設株式会社は社屋ごと消えてなくなった。

(ならば、ここは……どこだ?)

 教室であることに間違いなかった。コンサルティング会社の坂本講師は消え、歴史のサカモトが授業をしている。

(え? なんで俺は彼がサカモトだって知ってる?)

 歴史の教科書を片手に教壇に立つ男はコンサルではない。知らない顔だ。でもサカモトに間違いなかった。

 机の上に広げている本も確かに歴史の教科書だ。文字も読める……。

(1625年人類と妖魔トライブとの抗争は一気に激化した。治安維持法の制定により我が都市はこれに対抗した……って、何だ! これは!?)

 つらつらと教科書を読みながら、ミライは驚愕した。意味が分からない。

(妖魔トライブって何だ?)

「スギハラミライ。授業に集中しなさい」

 突然、ミライはサカモトに怒られてしまった。教室のあちこちでクスクス笑う声が聞こえる。

「全員静かに! 今は授業中です。妨害する者は処罰します」

 サカモトが一段声のトーンを上げる。教室はさっと静まった。

「スギハラミライ。午前中の授業終了後、格納室へ出頭しなさい」

 サカモトはそう言うと、手にした端末に何かをインプットした。

 ここでミライがあらためて教室を見回した。どうやら全員が自分のことを知っているようだ。だけど、ミライには誰ひとり知った顔はいなかった。ミライは自分が余所者よそものであると理解した。

(これが! これが、もしかして異世界転生ってヤツ!?)

 杉原未来はあの核爆発によって死亡し、異世界に転生した。幸いミライは人間のままであり、この世界の人たちは自分を知っているみたいだ……。

 確信があったわけじゃない。だが、ゲームやラノベでそういう状況はよく出て来る。


 授業が終わってサカモト教員が教室を出て行った。それで、ミライは周りの生徒に尋ねてみた。

「あの。今日って何年の何月何日だっけ?」

 ミライの隣に座っていた男子が怪訝な顔でミライを見た。

「何言ってんだ?」

「いや、念のためだよ。念のため」

「今日は1925年5月1日じゃないか」

 そばにいたもうひとりの男子が言った。

「そうだそうだ。25年の5月1日だ」

ミライは何食わぬ顔で言うと、

(100年前?)

簡単な計算で答えを出した。

(これは異世界転生なのか? それともタイムリープだったりして? ここは100年前の世界?)

「いや、妖魔トライブとか訳わかんないし。歴史が全然違うな……」

 ミライは思わず呟いていた。誰かに聞かれたかと、慌てて口をつぐむ。


「ミライ、早く行かないと、サカモトがヤバいんじゃない?」

 急に声を掛けてきたのは巻き毛の女子だった。

「あ、ああ。そうだった……。まずい、まずい」

「とにかく謝罪しな。どうせたいした罪じゃないんだから。ここで反抗的な態度を取ると処罰されちゃうよ」

「そ、そうだね」

 ミライはとにかくその女子に相槌を打つ。

なぜか相槌の最後にエルザという名前を付けなかった。

(エルザ……そうだ、すめらぎエルザだ。ああ? どうして知ってるんだ? 俺は転生というより生まれ変わりなのか?)

 ミライは混乱したが、とにかく格納室へ向かうことにする。環境はおいおい分かってくるだろう。それより、今の自分の状況を誰かに悟られることの方が危険だと思った。

 正直に話して良いことと悪いことはあるはずだ。


 格納室へ向かう廊下を歩きながら、ミライは元いた世界のことを考えていた。

 会社のみんなも蒸発してしまったのだろうか。元カノの受付嬢も……。

 深夜のタクシー代を経費として認めないと怒っていた経理の湊係長は、その領収書ごと燃え尽きてしまったのだろう。

 そうだ、次の主任候補だと言ってくれた田崎部長は……。

(だめか。いよいよ主任だと思ったのに)

 あれが本当に核爆発なら、うちの会社どころか東京は壊滅状態だろう。

 結婚間近だった音楽教師の彼女も生きてはいないだろうな……。

 そうだ、家族はどうなった? 両親や婆ちゃんは。すると自然と涙があふれてきた。

 ミライは涙を慌てて拭った。泣いてる場合じゃない。既に杉原未來は死んでいるんだから。

 今のことに集中しなければ。ミライは自分に言い聞かせて格納室と書かれた部屋のドアを押し開けた。

 不思議なことに、ここまでの道順を知っていたミライなのに、ここがどういう部屋か分からない。

 想像では職員室か、あるいはもっと懲罰的な、指導室みたいな所かも知れない。

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