第2話 朱莉②

篠宮蒼也しのみやそうやと朱莉が出会ったのは、朱莉が大学1年の時だった。


その頃、朱莉は、弟のひじりと都内で2人暮らしをしていた。母が残してくれた保険金のおかげで大学への進学が叶い、朝夜アルバイトをすることでなんとか生活をすることができた。


特に夜のバイト先のバーは、店の雰囲気もとても良く、オーナーでバーテンダーの神木さんもとてもいい人で本当に大当たりのバイトだった。特に、客のいない時間には、事務所のPCで大学の課題をすることを許してくれるという神対応にまさしく“神木だけに神!”だった。


蒼也とは、客と店員としてバイト初日に出会った。


「珍しいね。神木さんが女の子のアルバイトを雇うなんて」


目の前に座る人の良さそうな笑顔が、人たらしな感じでちょっと警戒してしまったのは、もう自分が彼に惹かれ始めていたからだったのだと思う。


「朱莉ちゃん、そうちゃんにはジントニと一緒にラスクとシチューを出してあげて」


そう言われて、店の隠れた売りでもあるバターラスクとシチューをカウンター越しに置いた。


「ありがとう。ほぼ毎日この店に来てるから、これからもよろしくね」


蒼也は、同じ大学の建築学専攻の大学院3年目で、1級建築士でもあった。

実はこのバーのリフォームの設計をしたのが初めての仕事だったのだそうだ。


「もともと、このバーのある建物が、古くてすごくいい物だったから、前から通ってたんだよ。で、神木さんが、水回りがくたびれてるからリフォームしたいって話をしてたから、それ、考えさせてくれないかってお願いして」


タダで図面を引いて、知り合いの建築業者を紹介して、仕事を進めたらしい。


「学生の俺に好きなようにやっていいって言う神木さんは、本当に『神木だけに神』だよな」


そう言って、くしゃっと笑う顔にあっという間に落とされてしまった。

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