“夜泣き”について

 以上の文書は、S団地に発生する現象に関する資料である。ここでは、それぞれを「空室の赤子」と「踊り場の母親」と呼称する。ここからは、このふたつについての情報をまとめよう。


 まず「空室の赤子」について。これは団地に起こる現象の核となる存在だろう。特に「深夜2時ごろ」「空室から」「泣き声が聞こえる」という箇所は、ほとんどの証言が一致する。しかし、「○号棟○号室」とは言及されない。それどころか、書きかけた部分を塗りつぶしてまで「音の発生源は不明」と書かれている。また、すべての棟の住民から証言が出ている。

 現時点で私はこれを、「赤子の泣き声」だけの存在だと考えている。「どこかの空室で赤子が泣いている」のではなく、「泣き声を聞いた者は『どこかの空室で赤子が泣いている』と思い込む」のだと。しかしながら、この解釈にも疑問点は残る。


 次に「踊り場の母親」について。おそらくあれは「空室の赤子」の母であろうことは間違いない。また、エレベーターのモビールや不可解な張り紙はこれが設置したのだろう。これについては「ただ立っている」という証言が多いが、話しかけるとアクションを起こすようだ。また、目撃者によって服装や年代に大きく差があるのも不可解に思える。


 「S団地住民とみられるアカウントの投稿」のブログでも触れられているが、S団地は地域では有名な「母子の幽霊が出る」心霊スポットとなってしまっている。次章では、なぜこの幽霊の噂が信じられ実際に出現するようになったかを考えよう。

 次話からは「由来編」と題し、ふたつの怪異の成り立ちについての資料となるものを載せる。必然的に、これまでよりも古い資料がほとんどになる。内容は今までよりもオカルティックになっていくだろうが、曖昧でも「人々に信じられている情報を収集すること」が必要だと私は考える。

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