売れてない映画好き芸人の俺は毎日をどう生きるか
太陽唸り過ぎ-無-
第一章
第1話 お笑いライブの打ち合わせ
水曜日の夜、
「東動!、こっち こっち!」
声の主は、ライブの主催者であり、養成学校の同期である芸人、葡萄玉三郎だ。促されるままに席に着くと、すでに数人の顔が見えた。
「お疲れさん」と声をかけるのは、同じく同期の$
そして、ひときわ目を引くのは、少し離れた場所に座る漆原ユミと望月サクラのコンビ「ビューティ ビースト(BB)」。そして、その隣には、どこか薄気味悪い雰囲気の先輩芸人、只見誠二が静かに座っていた。
「いやあ、皆さん集まってくれておおきに!」玉三郎が満面の笑みで声を上げた。「今回で10回目やで!感慨深いなあ!」
「ほんまやな。続けてるあんたが一番すごいわ」と$林が冷静に返す。
「もちろんでしょ!これも皆さんのおかげですよ!」玉三郎はそう言うと、東動に視線を向けた。「東動、コラムの連載は順調?」
「ええ、おかげさまで。でも、最近は書くネタも尽きてきて…」
「映画好き芸人枠、まだちょくちょく声かかるんやろ?」と玉三郎がにやにやしながら聞いてくる。
東動は苦笑いした。「まあ、たまにありますね。でも、あれで前の相方とはちょっと色々あって…」
「まあまあ、過去のことはええやんか」と望月が豪快に笑い飛ばした。「あんたはあんたの道を行きなさい!」
その言葉に、東動は少しだけ肩の力が抜けた気がした。養成学校時代、一番最初に組んだお笑いコンビ「カツをとコンブ」。そこそこの人気はあったものの、結局は芽が出ずに解散。相方は地元に帰り、今はもう連絡も取っていない。ピン芸人として細々と活動しながら、映像制作会社で働く日々。それでも、大好きな映画に関わる仕事と、細々と続けるお笑いライブが、今の東動の生きがいだった。
「今回のライブの構成やけどな…」玉三郎が本題に入り、テーブルに手書きのタイムテーブルを広げた。
それぞれの持ち時間や出演順、企画コーナーの内容などが話し合われていく。夢中兄弟はギターを弾きながらも時折顔を見合わせ、楽しそうだ。ためいき吾郎は、時折挟むつぶやきネタで一同をクスッと笑わせる。只見誠二は、時折鋭い視線をあたりに走らせ、何かを探しているようだった。
「BBのお二人は、いつも、もちボスしか参加しないのに、今回はコンビで参加なんて何か新しいネタ考えているんですか?」玉三郎が漆原と望月に話を振った。
「うちは、まあぼちぼちと」と望月が答える横で、漆原は微笑んだ。
打ち合わせも終盤に差し掛かった頃、望月がふと嬉しそうな表情で口を開いた。
「あのさ、皆さんに報告があるんやけど…」
一同が注目する中、望月は照れたように笑いながら言った。「実は…赤ちゃんができたんよ! だからユミちゃんにも今日は来てもらったんだ。」
座敷は一瞬静まり返り、次の瞬間、歓声と祝福の声に包まれた。
「えええ!マジっすか!?」ためいき吾郎が目を丸くする。
夢中兄弟もギターを置いて、「おめでとうございます!もちボス!」と声を揃えて祝福する。
「すごい!おめでとう、もち姉!」漆原も心から嬉しそうに言った。
只見誠二も珍しく口元を緩め、「おめでとう 望月!」と低い声で言った。
東動も笑顔で望月に近づき、「おめでとうございます!」と頭を下げた。
「ありがとさん!」望月は満面の笑みで答えた。「最近、体調がイマイチで、心配したダンナと一緒に病院に行ったら「おめでた」だって
言われたんよ。長い付き合いの皆んなに早く知らせられて良かったわ」
「こりゃあめでたい!」玉三郎はグラスを掲げた。「もち姉さんの子宝に、そして『今夜も笑わせナイト vol.10』の成功に、乾杯!」
「かんぱーい!」
「The Gathering《ザ ギャザリング》」には、いつもより賑やかな笑い声が響いた。東動は、そんな仲間たちの笑顔を眺めながら、じんわりとした温かい気持ちに包まれていた。売れない芸人、会社員、映画コラムニスト。色々な顔を持つ自分だけど、この仲間たちとの時間は、何よりも大切だと改めて感じた。
週末のライブは、きっとまた色々な笑いが生まれるだろう。もちボスの新しい門出を祝う、賑やかな夜になるはずだ。東動は、少しだけ先の未来に希望を抱きながら、冷えたビールを飲み干した。
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