4年半の恋が終わるとき

ごまダンゴ

プロローグ −運命の出会い−

※ご注意※


本作には、性的描写や、人によっては過激・不快に感じられる表現が含まれています。


また、この物語は、作者自身が実際に経験した出来事と、その時の心の動きを基にした、いわば「記録」であり、同時に心の整理のために綴ったものです。


恋愛の美しい部分だけでなく、執着、葛藤、嫉妬、別れの痛みといった、人間の弱さや未熟さも包み隠さず描いています。


そのため、読む方によっては、不快に感じたり、ストーリーの内容に偏った印象を抱くかもしれません。


ですがこれは、作者が「ありのまま」を記録することで、自分と向き合い、同じような痛みを抱えた誰かが、ほんの少しでも共感や救いを感じられたら――そんな願いを込めたものです。


なお、登場する人物・団体・店舗等は、必要に応じて仮名や設定変更を加えていますが、基本的には実際の出来事に基づいています。



また、本作がもし関係者や警察関係者の目に触れることがあった場合には、以下の点をご理解いただければ幸いです。


本作は、作者自身が経験した出来事をもとに、心の整理と表現活動の一環として記録・再構成したものです。


記載された内容は、あくまで過去の出来事や心情の記録であり、現在、特定の個人や関係者への直接的な接触、連絡、干渉を目的とするものではありません。


また、本作に関する問い合わせやご指摘には一切応じられません。



***


【プロローグ:運命の出会い】


俺の名前は、近藤 茂樹(通称:しーくん)。


神奈川県横浜市在住、年齢は41歳。


もともとは長野県出身だ。


これは、長野県飯田市に住む東 千春(通称:千春)との奇跡の出会いと、約4年半の物語を記録したものだ。



***


2020年、夏。


仕事で訪れていた仙台のビジネスホテルの一室で、俺はふと「声とも」というアプリを開いた。


気晴らしのつもりだった。


まさか、そこで人生を変える出会いが待っているなんて、思いもしなかった。


画面越しに届いた一通のメッセージ。


『飯田の高校に通ってます!』


俺は驚いて返した。


『飯田って、長野県の??』


『そうだよ!』


俺はついチャット上で歌い出した。


『しっなっのーのくーにーはー♪』


すると、すぐに返信がきた。


『じっしゅーにー♫』


思わず送った長野県歌の一節だった。


こんなささやかなやりとりが、俺と千春という女の子との最初の一歩だった。


千春は、ショートカットのボーイッシュな女の子。ときどき自分のことを「僕」と呼んでいた。


16歳の高校1年生。俺とは25歳差。


そんな年の差なんて、このときはまったく気にならなかった。


『しーくん、って呼んでいい?』


前の彼女にもそう呼ばれていたことがあった。


でも、千春の呼び方はオリジナルだった。語尾が上がる感じで発音する。


これまで呼ばれたことのないあだ名に、俺は千春とだけの特別な関係になれたようで嬉しかった。


俺たちはすぐに共通の趣味をたくさん見つけた。卓球、スプラトゥーン、モンスト。


チャット上では、顔文字のやりとりも楽しかった。


何日かチャットを重ねたある日だった。


『千春、彼氏いるの?』


『かれぴっぴかぁ、いないよー』


(最近は彼氏のこと、かれぴっぴって言うのか……勉強になるなぁ)


俺は千春からいろいろ新しい言葉を教えられていた。


『じゃぁさ、俺たち付き合ってみない?』


『んー、どうしようかなぁ。』


『いいじゃん、試しにかれぴっぴにしてみてよ』


『分かったよー。じゃかれぴっぴにしてあげるー』


断られるかな、と思っていたが意外だった。


千春は、俺の顔も年齢も知らない。


俺は千春の年齢は知っていたけど、この時はまさか4年半の付き合いになるなんて、2人とも思っていなかった。


そんなノリで、俺たちの不思議な交際はスタートした。


2人はLINEを交換し、「声とも」のアプリを卒業した。


それから毎日、おはようからおやすみまでをLINEでつながる日が始まった。


毎晩のように、スプラトゥーン2で遊んだ。


俺は千春のことをもっと知りたくなって、好きな音楽なんかについても質問してみた。


「最近だと、髭男とか聞いてるかなぁ。」


俺は、髭男?と思ったが、ネットで調べたらOfficial髭男dismのことだとわかった。


こんなグループが最近は売れてるんだ。


俺は最近カラオケにも行かなくなったし、最新の音楽を調べたりすることもなくなって、こういう情報に疎くなっていた。



***


それからしばらくして、俺は埼玉県川越市にあるとある会社へ転職し、それをきっかけに川越へ引っ越した。


だけど、元々遠距離で、LINEでしか繋がっていない2人には、住む場所が変わったことなんて関係なかった。


相変わらず、毎晩電話をしながらスプラトゥーン2で遊んだ。


『今日もスプラしながら電話できる?』


『もちろん! 今日もスプラしようね!』


そんな毎日が楽しかった。


***


2021年。


日々幸せな毎日を過ごしていた。


俺たちは、オンラインだけの、電話だけの付き合いだったけど、喧嘩もすることなく、お互いの毎日を共有していた。


この年は、2人にとって特に大きなイベントはなかったが、千春は修学旅行に行ったり、軽音楽部でのLIVEイベントがあったりと、なかなか忙しくしていた。


LIVEに出たときには、LINEでその映像を送ってくれた。


修学旅行の写真や、友人たちと撮影したTikTok映像なんかも送られてきた。


まるで、学生時代をもう一度やり直しているような、不思議な気持ちだった。



***


2022年。


新しい年が明けて、千春はいよいよ高校3年生になった。


軽音楽部を引退し、受験勉強に専念することになった。


それまで毎晩のように遊んでいたスプラは封印。


代わりに、俺たちは英語の勉強を一緒に始めた。


発音や文法、時には長文読解まで。


LINEで問題を送り合ったり、音読を電話越しに聞かせてもらったりと、ちょっとした勉強仲間のような時間が続いた。


「大学生になったら、デートしようね」


その約束を信じて、俺は毎日励まし続けた。


この年の秋、スプラトゥーン3が発売された。


千春は、発売されるとすぐにやりたがっていたけど、受験のために我慢していた。


俺は、そんな千春に申し訳ない気持ちはあったものの、先にスプラ3を始めさせてもらった。



***


2023年。


年が明け、いよいよ大学受験が始まった。


俺は祈るような気持ちで千春の報告を待っていた。


『今日は数学が全然できなかったかも……』


そんなLINEが届くたびに、励ましの言葉を送り続けた。


春。


千春はその年の志望校に、残念ながら合格することはできなかった。


「やっぱりだめだった……」


その声は、少し震えていた。


しばらくは電話の声にも、不安や戸惑いが滲んでいた。


それでも千春はすぐに顔を上げて、もう1年挑戦する覚悟を決めた。


俺は、思いつく限りの慰めと励ましの言葉をかけた。千春の力に少しでもなりたくて。



***


千春は浪人生活に入り、予備校に通う日々が始まった。


受験勉強が忙しくなったことで、俺たちの電話も以前のように長くはできなくなった。


それでも、1日に30分ほどだけは声を聞ける時間を大切にしていた。


6月末の誕生日を迎えて、千春は運転免許も取った。


「今日、免許センター行ってきたよ!」


そんな一言に、あぁ、千春も少しずつ大人になっていくんだな……と、しみじみ感じた。


夏になると、千春はマクドナルドでバイトを始めた。


「今日、初めて注文受けたんだよ!」


そんな報告が何よりの癒しだった。


忙しい中でも、電話越しにバイトの出来事を楽しそうに話してくれる千春の声が嬉しかった。


やがてまた冬が訪れ、受験本番が近づいてきた。


電話越しの千春の声は、不思議と落ち着いていた。


この1年間、本当に全力を出しきった。そんな満足感のある声だった。


俺は今年はきっと受かるだろう、そう思っていた。


だけど、だめだった。


合格発表のあと、千春はすべての呪縛から解放されたように、心置きなくスプラ3を始めた。


俺たちは、毎日のように一緒にプレイした。


きっと、ひどく落ち込んだはずだ。


だけど、俺にはほとんど弱音を吐かなかった。


千春の性格上、それは自分の問題だと考えていたのだろう。


俺に迷惑はかけたくない、きっとそんな思いがあったに違いない。


だからこそ、俺は慎重に言葉を選びながら、千春を慰めた。


少しでも心が軽くなってくれたら、そんな気持ちで言葉を紡いだ。


そして、親の紹介で、就職の話が急に進み始めた。


隣町にあるドッグサロン「スナフキン」。


そのスナフキンへの就職の話が、あっという間に現実味を帯びていった。

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