交差点に花は咲くか 〜片想いが交差する〜
灯ノ檻
第1話 相合傘
放課後。俺――佐藤翔(さとうかける)は教室で途方に暮れていた。
「やべぇ、傘忘れた。」
外は土砂降りの雨だ。こんなときに肝心の傘を忘れてしまうとは。
「中島ぁ、傘持ってる?入れてくれよ」
「わりぃ、翔。今日このあと部活なんだわ。じゃあな!」
クラスメイトである中島に声をかけてみたものの、生憎の撃沈だ。
仕方なく俺はまだ教室に残っていた他のクラスメイトに声をかけた。
「清花、傘持ってない?」
「私の分ならあるわよ」
「だよなー。流石に2つはないよなぁ」
彼女は東條清香(とうじょうさやか)。我が2年A組のクラス委員長だ。黒髪の艶のあるロングヘアでよくクラスの女子からもどんなトリートメントを使っているか聞かれていたりする。普段からメガネをかけていて、いつも姿勢はピンっとしていて見た目だけで言えば絵に描いたような委員長キャラだ。
「……私の傘に入るんでよかったら……いいけど?」
「まじか?!恩に着るぜ!てっきりこのまま俺を置いて帰るつもりかと」
「佐藤の中の私ってそんな酷いやつ?」
ゴミを見るような目で清花が睨んでくる。
「そりゃもうウチのクラスの首領って言ったら清花ってくらい……ってちょ!?おま、なんで傘をこっちに向けてんの?!」
完全に某少年漫画の◯突のポーズをとる清花。
「その減らない口の中にコイツを突っ込もうと思って」
「それそれそういうとこ!?」
「冗談よ」
「いや目がマジでした。確実に俺を亡き者にしようとしていましたね、うん」
あまりの迫力に俺のプリティなクマさんパンツが少し湿って可哀想なことになってしまったよ。
「はぁ……馬鹿やってないでいくわよ」
清花は呆れ顔で俺の袖をくいっと掴んだ。
「なんか……雨思ったよりすごいな」
「……そうね」
2人で1つの傘を持って校舎を出たはいいものの、予想以上の雨の強さだ。自然と傘の内側に入ろうとするが…………その拍子にピッタリと清花の肩と俺の肩が密着した。思わず息を飲む。じわっとした温もりが肩を通して伝わってきて、それと同時にふわっと石鹸のような香りが鼻腔をくすぐる。柔軟剤の匂いだろうか。清花が一瞬驚いた顔をしたがすぐにもとの表情に戻った。
「これ傘なかったら完全に風邪ひいてたわ」
「……そうね」
さっきから心ここにあらずといった感じの清花。そして俺たちの肩はぴったりとくっついたままだ。普段なら「くっつくなこの変態!」くらいは言われそうだが……不思議と何も言わずに顔を向こうに背けている。唇を強く引き結んでいて顔もなんか赤いし……調子狂うな。怒ってないといいが……。
「あの……清花さん?もしかしてお怒りあそばせてたりします?」
「……うるさい」
だめだ怒っていた。いやそこは「そんなことないよ!」って言うところじゃないのか。
「そ、そうですよねー。こんな雨ひどいのに俺が半分傘貸してもらってますもんね」
「……」
黙られるとさらに気まずい。雨の音は激しくなる一方なのに俺たちの傘の内側だけはやけに静かだ。先ほどから密着している肩。そこからじんわりと感じられる清花の体温に意識が向いてしまう。それはとても温かくて。肩を通じて今お互いの体温を交換しあっているんだなと。
うーん、なにかむず痒さを感じる。さっきから清花が黙っているのも、もしかして同じことを……なんて考えてしまった。
「あれアイツらも……」
校舎の外まで歩いてきたが、30mくらい先に1組の男女を見つけた。しかも2人も相合傘をしている。男の方は俺の親友、中島武史(なかじまたけし)だ。俺が言うのもなんだが、超がつくほどのアホである。どうやら武史も傘を忘れたらしい。
女の子の方は坂上綾(さかがみあや)。こっちは――俺が片想いしている女の子だ。ガサツで乱暴なところがあるが見た目はモデル級。ポニーテールがよく似合う美少女だ。
そして――おっぱいがデカい。うん。あえてもう一度言おう。おっぱいがデカい。
2人が何を話しているのかは流石に聞こえないが、2人が笑い合っているのはわかる。多分武史が変なことを言って綾のツボに入ったのだろう。
「……いいなぁ、武史」
通行人が見たら、恋人同士かと思ってもおかしくなさそうな2人の雰囲気に俺は少しだけ焦りを感じた。
「ちょ!?冷た!濡れるって!?」
いきなり天から降り注ぐ雨。まさかのダイレクトアタック。俺が持っていた傘を清花がぶん取ったのだ。
「そんなにあっちの傘に入りたいなら入ってくればいいじゃない」
清花の声は静かだった。ただ言葉尻にトゲを感じる。
「いやいや!あそこに今突っ込んだら確実に綾に蹴飛ばされるって」
まぁそれもアリかもだが。うん。
その後、清花と傘の取り合ったり、清花の肘鉄をくらったりしながら帰路につくこと15分。俺の家の前までやってきた。
「その、ありがとな。わざわざ家まで送ってもらって」
「誰かさんは綾と帰りたかったみたいだけど」
清花がそっぽを向きながら答える。
「そんなことないって。清花と帰るの楽しかったわ。また次も頼む」
「いや傘は自分で持ってきなさいよ」
じゃあね、言って清花が踵を返して自分の自宅の方向へと歩き始めた。ただ、このまま清花を黙って見送るのも何か嫌だった。清花に俺ができることは――
「今度さ、ケーキ奢るよ!あ、でも1番安いやつな?」
清花は背中を向けたまま振り返らない。小さく何か言われた気がしたが、雨の音でよく聞こえなかった。ただ、清花が地面を強く蹴って歩いていく音だけが、なぜか耳に残った。
交差点に花は咲くか 〜片想いが交差する〜 灯ノ檻 @akari_no_ori
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