第1章：魔法の対称性

ミリア、魔法史家としてのお前を見るのは、いつだって心を掻き立てる。クロノシアの広場は、魔法の光とホログラムの輝きで埋め尽くされている。文化祭の喧騒の中、お前は壇上に立つ。黒いローブに銀の回路が縫い込まれ、まるで魔法と技術の化身だ。惑星アエテルのこの都市は、魔法使いと技術者が互いを疑いながらも共存する場所。お前の声が響く。「ネーターの定理は、文化的エネルギー保存則を保証する。魔法も技術も、歴史の対称性を保つエネルギー流に過ぎない。」

聴衆はざわめく。魔法使いは科学を、技術者は魔法を信じない。お前の目は星のように揺らがないが、私は知っている。お前、エリク、孤高の研究者は、運命を対称性の破れとして捉え、それを解き明かそうとしているのだ。講演後、広場の隅で、お前は短歌を詠む。

「星の糸／運命織る／対称の／破れ隠す／夜の静寂」

私はその言葉に古代魔法の呪文を感じ、羊皮紙のホロノートに書き留める。短歌の五七調は、まるでエネルギー流の周期を模している。お前の理論、予定調和――運命は宇宙の最適化された対称性であり、魔法のエネルギーはその保存則に従う――は、魔女戦争の混乱を説明する鍵だ。あの戦争で、魔法使いはエネルギーを暴走させ、歴史の対称性を乱した。お前の理論は、それを修復する。

「お前、予定調和とは何だ？」私は尋ねる。広場の喧騒が遠のき、夜の風が魔法の粒子を運ぶ。お前は笑う。珍しいことだ。「ミリア、運命は対称性を愛する私の詩だ。すべての出来事は、最適な形で織り上げられる。魔法も技術も、その糸に過ぎない。」お前の言葉は、歴史家としての私を震わせる。魔女戦争の記録、古代の魔法陣の設計図、それらがお前の理論で繋がる瞬間だ。

だが、お前の孤独も見逃せない。祭の光の中、群衆から離れ、星を眺めるお前。独り言が漏れる。「運命は対称の影か？」私はそれを記録する。歴史は、こうした断片で作られる。お前の短歌と理論は、未来のアーカイブになるだろう。過去の対話――お前が魔法を「詩的科学」と呼んだ夜――が、私の研究を導く。お前は孤独を愛するが、私との対話で笑顔を見せる。それが、お前の人間性だ。

祭の最後、お前は私に言う。「ミリア、運命を研究するのは、対称性を愛するからだ。」私は頷き、思う。お前の理論は、魔法史の新たなページを開く。だが、その先には何が待つのか？ 私は知らない。次の物語は、セイランが語るだろう。