〇第5.9話「かつてのお風呂の約束」

 夕暮れが落ち着くころ。ちゃっぱがそっと、俺の袖を引っ張った。


「ご主人様……きょうは、お風呂……いっしょに入っても、いいにゃ?」


 不意打ちに、俺の思考が止まる。


「……え、まじで?」


「だ、だめにゃ? ……ちゃっぱ、ちゃんと女の子だから……いやだったら、やめるにゃ」


 俯きながらも、猫耳はぴくりと震えていて。

 そのしっぽの動きは、期待と不安の入り混じった気持ちを隠せていない。


 俺は、黙ってちゃっぱの頭を撫でた。


「いっしょに入ろうか。……ただし、変なことはしないぞ?」


「う、うん♡ ……にゃふっ、やったにゃ〜〜♡」


 嬉しそうに笑ったその顔が、なんというか……罪だった。


 ***


 湯気の中、バスタブにちゃっぱと並んで浸かる。

 思った以上に近い。距離が。


 ちゃっぱは、頬をほんのり染めて、俺の肩にもたれてきた。


「……ちゃっぱ、ずっと言いたかったことがあるにゃ」


「ん?」


「ご主人様……だいすきにゃ。……“猫”のころから、ずっと、ずーーっとにゃ。

 なでてくれると、心がとろけるの。名前を呼ばれるたびに、胸がきゅんってなるにゃ」


「……ちゃっぱ」


「猫のちゃっぱは、ご主人様に恋してたにゃ。

 でも、伝えることができなかったから……この姿になれたこと、ほんとうにうれしいにゃ」


 目元を少し潤ませながら、ちゃっぱは俺の手を握ってきた。


「ご主人様の隣にいられるなら、ちゃっぱはもう、何もいらないにゃ。

 ……一緒にいられるだけで、しあわせなのにゃ……でも」


 そこで、少しだけ声が震えた。


「……でも、ちゃっぱ、もっともっと、ご主人様のことが知りたいにゃ。

 もっともっと、甘えて、すりすりして、ちゅーして……恋人って、そういうのにゃ?」


 恥ずかしそうに言うくせに、ちゃっぱの瞳はまっすぐで。

 その目の奥には、決意のような強さも見えた。


 ……俺の心臓が、ぐん、と跳ねる。


「ちゃっぱ。お前の想い、ちゃんと伝わってるよ。……ほんとに、ありがとう」


「……ご主人様……!」


 俺の胸に飛び込んできて、濡れた髪が俺の首筋にふわりと触れる。


「ご主人様のぬくもり、だいすき……ずっとそばにいたいにゃ……」


 言葉のひとつひとつが、お湯よりもあたたかく、やさしく沁み込んでくる。


「ちゃっぱ……俺も、お前のことが好きだよ」


 そう口にした瞬間、

 ちゃっぱのしっぽが湯の中でパシャッと跳ねた。


「にゃふ……♡ ご主人様……だいすきにゃ……」


 風呂場に満ちる湯気の向こう、ちゃっぱの笑顔が世界一かわいかった。

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