そこには猫耳少女が待っていた

通りすがり

■第1話「俺の名前は更 正人。茶色い猫と暮らしている。」

 俺の名前は更 正人さら まさと 。二十歳にしてようやく社会の歯車として回され始めた、新人会社員だ。

 毎朝満員電車に揉まれて、上司に気を遣いながら、夕方になれば足を引きずるように帰る生活。

 けれど——俺には、帰る理由がある。


「ただいま、ちゃっぱ」


 玄関のドアを開けると、鈴の音が鳴る。それが俺の癒し、ちゃっぱだ。


 茶色い毛並みに、まんまるな目。気まぐれだけど、ふとしたときに甘えてくる。そんな“普通の猫”だった。


 生後半年の保護猫で、最初は警戒していたけど、今では俺の帰りを毎日出迎えてくれる、唯一の家族みたいな存在だ。


「今日も頑張ったぞ、俺……」


 ソファに崩れ落ちると、ちゃっぱが膝に乗ってくる。軽くて、温かくて、ふわふわで。


 なあ、ちゃっぱ。お前がいなかったら、俺はもっとすり減ってたと思う。


 明日もまた仕事。今日もぐっすり眠って、また戦おう——


 ……と、思っていたのに。


 次の日、あれはもう、全てが変わってしまった。

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