EP 26
「天翔ける魔獣への挑戦」
カレーの余韻も冷めやらぬ翌朝、リュウとセーラは、すっかり日常の一部となった冒険者ギルドへの道を歩いていた。Cランク冒険者として、そして「リザードキング・スレイヤー」として、彼らに向けられる視線はもはや畏敬そのものだ。
依頼掲示板の前に立ち、リュウは腕を組む。
「うーん、次は何が良いかな。リザードキングを倒せたんだ、少し歯ごたえのある相手でも良いかもしれないな」
金貨30枚という大金を得た後では、並の依頼の報酬が霞んで見える。より高みを目指したいという欲が、リュウの中に芽生えていた。
すると、セーラが掲示板の上部に貼られた、一際大きな羊皮紙を指さした。その依頼書には、禍々しい鳥の紋様が描かれている。
「リュウ、これなんてどうでしょう? 『グリフィン討伐』」
「グリフィンか…」
リュウの眉がひそめられる。鷲の上半身とライオンの下半身を持つ、天空の王者。その最大の武器は、空を自由に飛翔する機動力だ。
「厄介だな。空を飛ばれては、俺の紫電も、飛燕も届かない」
地上戦であれば、今の自分たちに敵はいないという自負がある。だが、空は完全に別次元の戦場だ。
しかし、セーラは静かに、だが力強く言った。
「私が、魔法で何とかしますから」
その瞳には、オーガに挑んだ時と同じ、揺るぎない決意が宿っていた。彼女には、何か策があるのだろう。
「…よし、分かった。お前を信じる。引き受けよう」
リュウが頷くと、二人はその依頼書を手に、ルナのカウンターへと向かった。
依頼書を見た瞬間、ルナの顔から血の気が引いた。
「グ、グリフィン!? たったお二人で、ですか!? こ、これはAランクの依頼なんですよ!?」
その声は裏返り、ギルド中が二人に注目する。Aランク。それは、このギルドでも一握りの、英雄級の冒険者だけが挑むことを許される領域だ。
だが、リュウは動じない。
「構いません」
「えぇ、覚悟の上です」
セーラも静かに頷く。
二人の常軌を逸した決意に、ルナはゴクリと喉を鳴らした。
「わ、分かりました…。ギルドは、お二人の意思を尊重します。報酬は成功報酬で金貨200枚。危険度があまりに高いため、準備金として前金で50枚をお渡しします。ただし…」
ルナは、厳しい表情で付け加えた。
「万が一、討伐に失敗し、逃亡したと判断された場合は、ギルドへの多大な損失と信用の失墜に対する違約金が発生します。それでも、よろしいですね?」
「ああ、問題ない」
リュウが即答すると、ルナは震える手で金貨50枚が入った重い袋をカウンターに置いた。
前金50枚。それは、ギルドからの期待と、同時に失敗すれば全てを失うという重圧の証だった。
二人はその重い袋を受け取ると、ギルド中の冒険者たちの畏怖と驚愕の視線を背に、静かにギルドを後にした。
アルクス史上、最も無謀とも言える挑戦が、今、始まろうとしていた。
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