EP 7

「神のお告げと、始まりの誓い」

アルクスの街並みを一通り案内された後、セーラは少しはにかみながらリュウをある場所へと誘った。そこは、内壁地区の最も高い丘に荘厳にそびえ立つ、アルクス大聖堂だった。

美しいステンドグラスが嵌め込まれた巨大な建築物を見上げ、リュウは思わず呟く。

「教会か…。俺には、どうにも縁遠い所だなぁ」

佐々木 龍だった頃はもちろん、この世界に来てからも、神様の存在を意識したのはあのマイペースな女神と会った時くらいだ。荘厳な雰囲気に、少しだけ気圧される。

「ここは私の職場であり、家でもあるんです。すぐに済みますから」

セーラはそう言うと、リュウを伴って静まり返った聖堂の中へと入っていった。高い天井、壁に響く自分たちの足音、そして祭壇の向こうから差し込む神々しい光。市場の喧騒とはまるで違う、清浄な空気が満ちている。

「ちょっと待っていてくださいね。毎日のお祈りをしますから」

セーラは祭壇の前で静かに膝をつくと、目を閉じて深く祈りを捧げ始めた。その姿は、いつもリュウに見せる人懐っこい少女の面影はなく、ただひたすらに敬虔な神の仕者そのものだった。その真摯な横顔を、リュウは少し離れた場所から黙って見守っていた。

やがて祈りを終えたセーラは、ゆっくりと立ち上がった。だが、彼女はすぐにはリュウの方を向かず、その翠色の瞳は何かを見つめるかのように宙を彷徨い、放心したような表情を浮かべていた。

「どうしたんだ?」

リュウが声をかけると、セーラははっと我に返り、興奮と驚きが入り混じった表情でリュウに向き直った。

「…今、神様から御告げがありました」

「えぇ!?」

予想外の言葉に、リュウは素っ頓狂な声を上げる。

「『リュウという青年の力になりなさい』…と。はっきりと、私の心に声が響いたんです」

セーラの言葉には、微塵の嘘も迷いも感じられなかった。彼女の瞳は揺るぎない確信に満ちており、リュウはただ圧倒される。そして、セーラは一歩前に出ると、少し頬を染めながら、まっすぐにリュウを見つめた。

「リュウ様。どうか、私とパーティーを組んで頂けませんか?」

それは、神のお告げを抜きにしても、彼女自身の心からの願いのように聞こえた。

リュウは一瞬戸惑ったが、すぐに心が決まった。神様がどうとかは分からない。だが、目の前にいるこの優しくて、芯の強い少女と共に歩みたいと、自分自身が強く願っていることは確かだった。

「…セーラが良いなら。うん!俺も、セーラとパーティーを組みたい」

「本当ですか!? ありがとうございます、リュウ様!」

セーラは満面の笑みを浮かべ、心から嬉しそうに声を弾ませた。その笑顔を見て、リュウは少し照れくさそうに頭を掻く。

「あー、その…もうパーティーを組むんだから、様付けはやめて、呼び捨てで良いよ」

「え…? で、でも…」

「いいから。俺たち、もう仲間だろ?」

リュウがそう言って笑いかけると、セーラはこくりと頷き、はにかみながらもはっきりとした声で言った。

「…分かりました。よろしくね、リュウ」

「ああ、よろしくな、セーラ!」

ステンドグラスから差し込む柔らかな光の中、二人は固く手を握り合った。こうして、狩人の少年と教会の僧侶による、世界で一番小さなパーティーが誕生した。

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