第3話 冷たい世界②
*
アデルがその男の子アーベルを満面の笑顔で友人宅の聖夜のパーティに一緒に行ってくれる?と誘っていた。
うちのお金がなくて、パーティに着て行くワンピースは用意したんだけどブローチの一つもなくて恥ずかしいんだけど、なんて言いながら。
食費を切り詰めてでも新しい服を買ってもらったくせに、とミディアは流石に怒りを覚えた。
彼の家に塩を分けてもらいにいくという恥ずかしい振る舞いにもかかわらず、ちょっと髪型を気にして鏡を覗き込んだミディアを見て、ミディアの気持ちを悟ったのだろう。
あんたの味方なんて誰もいないんだと言わんばかりに自分の取り巻きにと仕掛けてきたのだ。
「ふぅん、お姉ちゃんがねぇ」
「べ、別にお願いしに行くのに髪くらい整えるでしょ!」
前日の会話を思い出す。
アデルの毒牙にかかってはいけない、とミディアはアーベルに忠告した。
「あの、アデルのアレ、嘘だから。付けていくブローチすらないなんてことはないの。他の人にも同じようにアクセサリーを強請っているし、だからプレゼントなんてしなくていい。ごめんなさい、妹が迷惑をかけて」
ドキドキと心臓が破裂しそうだった。
アデルの取り巻きたちはミディアを悪く言うばかりとわかっていたのでこんな忠告を誰がにしたことがなかった。
でも、アーベルだけは。と勇気を振り絞った。
それなのに。
「お前がそんな奴だなんて思ってもみなかった。最低だよ。妹をそそのかして金目のものを貢がせているんだって?」
「え?」
返ってきた言葉にミディアは唖然とした。
「いくら家が苦しいからってやっていいことと悪いことがあるだろ!男に媚びてこいだなんて……可哀想に!辛いって泣いてたぞ!」
ミディア自身のために金を集めているなんてミディアの性格上ありえないことを言わないのがアデルの賢いところだった。
家は確かに経済的に苦しい。
異性に媚びてでも金目のものを引っ張ればいいは両親が口酸っぱく言っていることだ。
お陰で兄は立派なヒモで生きている。
でもミディア自身が妹にそんなことを言ったことなんて一度もなかった。
まさかアデルが自分の知らないところでもっと前からアーベルに接触していたなんて思ってもみなかった。
「母さんがミディアは可哀想な子だって言うから付き合ってやってたけど、やっぱりあの家の子なんだな。妹を金蔓としか見ないなんて、腐ってる。二度と話しかけるな!俺がアデルを守る!」
そうしてミディアは淡い思いを打ち砕かれたし、友人と呼べる幼馴染を失った。
このあとミディアの悪評を広めたのが仲が良かったアーベルだと言うこともあって、ミディアは妹を金のために売る悪女と学校中で罵られた。
(もういやだ………)
冬の聖夜に、年越しのためのお金などを考えもしないで自宅でパーティする。ミディアがいると陰気臭い、と追い出された。
散らかすだけ散らかして片付けておけと言われる未来を思ってミディアは陰鬱な思いしかない。
とぼとぼと凍えそうな街を下を向いて歩いていると、お菓子のいい匂いが漂ってきた。
家族連れが街唯一のお菓子屋マーベルにケーキを買いに来ていた。
ミディアはポケットの財布を探ったがとても買えるだけのお金はない。
親にだってあんな甘いものを買ってもらったことなんてない。
ミディアは対面の道路からその賑わいをしばらく見つめて、それから建物と建物の影にしゃがみ込んだ。
聖夜なんてなくなればいい。
お菓子なんて消えてしまえばいい。
この世から幸せな人たちなんて全部いなくなればいいのに。
そんなことを考える自分が醜くて嫌で。
もう、動けなくなってしまった。
頭の上に雪が降り積もり、どれぐらい経ったのだろう。
「あらあら大変」と老婦人が声をかけてきた。
甘い匂いのするその人に導かれて、ミディアはその日初めてマーベルに足を踏み入れた。
その時は、まさか、家以外に居場所ができるだなんて思ってもみなかったし、いつか自分が店を継ぐことになるだなんて考えたこともなかった。
無骨で口少ない老店主が残り物だがと差し出してくれたケーキの甘さと、その朗らかな妻があたたかな手のひらで冷え切ったアカギレまみれのミディアの手をさすってくれたあの温もりが、ミディアのいく末を変えてくれたことに間違いはなかった。
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