軍鶏と黒犬

雄呂血 ス氏

第1話

数寄屋会羅武力一家の構成員、八代栄司は若頭・二谷の命で、十数年ぶりに東欧から日本へ戻ってきた男を迎えに行く。少しの間、面倒をみるためである。

若頭からは男の素性は聞いていないが、おそらく抗争のために呼び寄せた傭兵あがりのヒットマンだろうと八代は睨んでいる。

抗争といえば西のイメージがあるが、意外と関東、首都圏には西以上に火種がくすぶっている。そして、その解消方法も派手な抗争を押さえつけられているが故に、わからないようにターゲットを処理する方法がとられることが多いのだ。今回もそんなところだろうと八代は空港に迎えに行った。


『朝・八代(黒犬)は語る』

あ〜このまま沖縄に行っちまいてえ。

全くよーどんなゴルゴかと思ったが、会ってみりゃレオン…つうか、それは無精髭だけでウダツの上がらない工事人のジジイにしか見えねえ。まあ、どうあれ適当に飲み食いさせときゃいいだろう…。しかし、枯れてやがるなあ、おっさん。長旅お疲れさん、まあ風呂でも行こうぜ。社長さんも大臣も、ただの人じゃけえ。まずは裸の付き合いよ。



『午後・八代(黒犬)は語る』

風呂っつうから、ソープでも連れて行かれると思っただろうが…このオヤジなら、そんなことねえか。

しかし…マッパを見てビビったね。

このボディは相当ヤベえ、こりゃ野生動物だ。無駄な贅肉が全くねえ、ガチのやつだ。戦うための筋肉じゃなくて凶暴な筋。バランスの悪いカラダは不気味で猛禽類、軍鶏って感じだせ、キモい体〜!

まあ、俺も人のことを言えないけどよ。

不気味っていやあ俺様も、牡丹と薔薇と天使と聖母ってダンテの神曲をイメージした和洋折衷の彫り物が全身に入ってるもんだから、薄気味悪いっつうか、疫病神扱いされるからな。俺あ洒落てると思うんだけどなあ〜、どうよ?

まだ日の明るいうちから湯船を背にして床に横たわりながらの問わず語り。何か聞いても言わねえだろうし、聞かねえが、長期の仕事を済ませて帰ってきた軍鶏ジイは、年老いた母の面倒を観るため今回の仕事をもって足を洗うらしい。

実家の農家は弟が継いでて、季節になると手が空いている時は手伝ってたけど、その弟も脳梗塞で倒れ障害の残る体になっちまって決心したんだってよ、めんどくせえよな。

かくいう俺も、とうに勘当されていたものの、オヤジが同じく脳で倒れてお袋が認知入って、Wの悲劇。

姉ちゃんが戻ってきて何とかしろと鬼電があったわけさ。

同年輩の似たような悩みを思い、しんみりと打ち解けたからにゃポン友よ。しっかりおもてなしするっきゃねえだろ。



『夕暮れ・八代(黒犬)は語る』

馴染みのもつ焼き屋で肉刺しを食いながら、近況報告とか愚痴とか何やかんや。

で、ちょっと前の話なんだけどよ。

オジキが実弟の幹事長に会長を譲って引退したら、途端に変わったっていうか、ボケちまった。イケイケで喧嘩しか取り柄のないようなタイプで昭和の任俠っちゅう人だったんだけどな、めんどくさくなって些細な間違い(=抗争)をきっかけで引退したんだわ、まあ、しょうがないんだけど、なんか寂しかったぜ。俺は商売人タイプだもんで、憧れだったからよ。武闘派っちゅう奴が。

そんでオジキ、最初は意気揚々と飲み歩いたりしてたんだけど、現役じゃねえ、ただのジジイを誰も相手にしねえし、ある意味、仕事人間だったから、ハリがなくなって腑抜けちゃってな。写真に目覚めて公園の花なんか撮ったりしてたんだけど、いつだったか桜見て涙ぐんだりしてるのを見かけちまって、ありゃ、気鬱の病ってヤツだな。で、昔面倒見てたババアの、酒場の墓場ってわかるかい?どの街にでもある飲みの終着駅的な店。そんなスナックで見かけた時ご挨拶したらよ、か細い声でババアにゴニョゴニョ・・・身に覚えがなさげに、代わりに答えたババアが「そうでしたか?」・・・だとよ。哀しくなっちゃったぜ。



『八代(黒犬)、五島(軍鶏)を語る』

軍鶏ジイのことも聞いたんだけど、一番聞きたいことは言うはずもないから、その前の話を振ってみたわけさ。

で、軍鶏ジイの頭がまだフサフサのトサカで、格闘術を習い始めた若き頃の出来事。

それは夜の公園でナイフで刺し合いをするような軍隊格闘術の団体で、その日は来日したヨーロッパの特殊部隊上がりの講師がセミナーを開いていたんだと。

集まっているのは何かの格闘技に秀でた猛者ばかり。

その中で一番華奢なのが軍鶏ジイだった。まあ、相当貧相だったんだろうな。

トレーニングが始まり、終盤初心者なりに相手を引き倒す技をやっていると、その教官がすっ飛んで来て、それも焦った感じで。自分と相手を分けるように止められて、それも自分よりはるかにでけえ相手を気遣う様子だったんだと。

それで何の説明もなく不思議な感じでセミナーは終わって次の日教官は国に帰っていったんだけど、それからというもの団体の代表に話しかけると反応がおかしくて、なんか腰が引けているというか、引きつった笑いをするから、なんだか全くわからなくて、代表を問い詰めたら、教官から自分のことについて、気味の悪いことを聞かされたと。それは、やつの後ろに死兵だか死神だか、無数の軍神が見えてんだってよ。まあ、わかるっうか…おっさん『ベルセルク※』に出てくる獣人…ていうか鳥人だもんな。さてと、カシ変えるか。

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