K.Oのあとで

@yanagi4201

K.Oのあとで

「K.O!!!」


――その瞬間、ネット配信の向こう側にいるリスナーや観客たちの盛り上がりが、まるで耳元で響いたような気がした。


子弟戦だった。


下克上が果たされた。


勝ったのは若い女性プレイヤー。


敗れたのは、約1年間、彼女を指導してきた――俺。


特別ルールのハンデ戦だったとはいえ、それを最大限に活かされ、完敗した。


きっと彼女は、この一戦のために必死で練習し、秘策を練ったのだろう。


俺が教えたこと、自分が積み上げた努力、そのすべて出し切った素晴らしいプレイだった。


その結果が、勝利だった。


画面越しに見えた彼女は、泣いていた。


勝利と、感動と、報われた努力に――――。


負けたのは俺だ。だが、確かに見事な勝利だった。


特に、最後の場面


普段は絶対に選ばないよう選択を選び、俺は意表を突かれた。


反応が遅れてしまい、画面端に追い詰めていたはずが、逆に投げられて、自分が逆に画面端に追い詰められた。


それが決め手になった。


―――あれは、見事だった



対して俺には油断があった。


慢心もあった。


それでも負けるはずがないとどこか高をくくっていた。


……結果が、これだ。


きっとコメント欄では弟子の称賛と、俺への批判的な反応で埋め尽くされているだろう


「師匠に勝てて、恩返しをすることができました!ありがとうございます」


その言葉を聞いて俺は


「…成長してくれて、うれしく思う

負けてしまったが、それ以上に…

いいプレイヤーになったな。おめでとう」





――心にもないことを、口走った。


負けてうれしいだぁ?


本気でそう思うやつがいたら、そいつはもう、格闘ゲーマーではない!



俺が、そうだからだ !



格闘ゲームとは、勝ってナンボの世界だ!


表面上は笑って拍手をし、弟子を称えている。


だが内心では――敗北で悔しくて、のたうち回りたいのを必死で抑えている。


――悔しい!


ああ悔しい!!


弟子だろうが、年下だろうが、初心者だろうが、女性だろうが


……そんなもん、勝負には一切関係がない。


1対1の真剣勝負に、そういう感情を持ち込んだ時点で、俺の負けは決まっていた。


格闘ゲームの世界では、卑怯だろうが、大人げなかろうが―――勝った方が正義だ。


全部投げだけで勝とうが、中段だけで勝とうが、対応できなきゃそれまでだ。


負けた奴が悪い。


それだけの話だ。


映像に映らないように、コントローラーを握りしめ、笑いながら弟子を睨みつける。


ちくしょう


次は絶対に負けん!


覚えていろよ、弟子め!

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