知念の理念~泥沼な役所を脱出したら政治が毒沼だった【改訂簡易版】

永田永太郎

プロローグに代えて~ミライ~

「はれ(晴)さんですか。晴天みたいで良い名字ですね」と言ったのが失敗だった。


「はるです。お渡しした名刺にもフリガナを振ってあるのですが」


男は手元の名刺にさっと目を通す。


下の名前はどうでも良い、とにかく名字の部分を見る。

たしかに―はる―と漢字の上にフリガナが。


(やってしまった)


彼女は明らかに20代――いや、推定ではなく断定20代。

美人。いや、“美人秘書”と呼ぶにふさわしいその雰囲気に、つい浮かれてしまった。


名刺に記された肩書きは「政策担当秘書」。


名刺をもらった秘書はこれで3人目。

最初の2人の肩書きには「公設秘書」とあった。


(公設秘書より政策担当秘書のほうがすごいんだろうな。よくわからないけど)


この3人が民労党みんろうとうの国会議員を支えていた秘書集団だったが、名刺をもらった男は珍しい3人の組み合わせであることに気づくはずもない。

国会議員や秘書のことなんてまったくわかっていないのだから。

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