第7話 求不得苦

「メイ、話をしよう」


バラムの声は真剣だった。

彼はずっと考えていた。

ソフィアとメイ、どちらかを選ぶのではなく、ふたりと共に歩む道を――だが、それがどれほど難しいことか、今になってようやく思い知った。


「私は、あなたの心が私にあることはわかってる。…でも、それでも我慢できないの。隣にいるのが、私じゃないときがあるから」


メイの言葉は、静かだった。

しかしその声には、燃えるような怒りと、冷たい絶望が滲んでいた。


「バラム、あなたは、私の気持ちをわかってない。…傷ついてるのに、笑ってる。無理してるのに、気づかないふりをしてる」


バラムは言葉を失った。


その場に、ソフィアもいた。

いつものような勝ち気な態度ではなく、視線を伏せ、ただ黙っていた。


「ソフィア、君の力には感謝してる。だけど…これ以上、君を巻き込むわけにはいかない」


バラムはソフィアに向き直った。

言葉を選ぶ余裕もなかった。

彼自身、これ以上の犠牲は望んでいなかった。


「ここで…お別れだ」


「…え?」


ソフィアの目が、大きく見開かれる。


「いやよ…そんなの…!」


「すまない」


バラムの声は震えていた。

それでも、彼は視線を逸らさなかった。


「わたし、まだ何も…あなたに伝えてないのに…っ!」


ソフィアは泣きそうな顔で、拳を握った。

けれど、その拳をふり上げることもできず、ただ静かに地面を見つめた。


そして――背を向けた。


「…バラムのバカ」


ぽつりと、それだけ言い残して、ソフィアは去っていった。

その背中は小さく、哀しく揺れていた。


バラムはその姿を、黙って見送るしかなかった。


そして傍らのメイも、何も言わず、ただ焚き火を見つめていた。

彼女の目に、涙があったかどうか…それは、バラムにもわからなかった。

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