幻心のレクイエム(Requiem of the Phantom Heart)

門 勇

プロローグ

「心のない少年」


霧に包まれた深い森の奥、彼は目を覚ました。


水音だけが静かに響く。木々のざわめきと、心臓の音。それ以外には何もなかった。


彼の名は――わからなかった。だが、自分が“ここにいてはいけない”ことだけは、直感的に理解していた。


「……君、大丈夫?」


声が聞こえた。白いローブの少女が、手を差し伸べていた。透き通るような瞳が、彼の中に何かを見つけていた。


「私はセラフィーナ。君の名前は?」


「……名前……?」


しばらく黙った後、彼は言った。


「……リアン……たぶん、それが……俺の名前……」


少女は優しく笑った。


その瞬間、世界の“幻”が、現実になろうとしていた――。


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